推させて下さい!1【安時梨奈】
アイドル
優れたビジュアルやパフォーマンスを武器に人々を魅力する存在
その中でも一番人々の目を引くのは、やはり圧倒的存在感を放つ「センターアイドル」だろう
誰よりもまぶしくて、誰よりも特別な、選ばれたアイドル。
でも何故だろう、そんな特別なセンターで輝く存在ではなくても、地味でも、ステージの隅で、隊列の端で、一生懸命に歌って踊ているようなアイドルの方が
一度目に止まると、もう二度と
目が離せなくなってしまう
「という訳で、本日より張り切ってスカウトに行って参ります!」
芸能事務所「ビートアップ」の新人マネージャー、安時梨奈は副社長の酒井に向かって敬礼のポーズをとる
「何度も言うけどそんなに長くは待てないからな、あんまり時間がかかるようだと」
「途中からでもオーディションの選考の方に参加してもらう、でしょ。わかってますって」
はやる気持ちを抑えきれず梨奈は酒井の言葉を遮る
そんな梨奈を不安に思う酒井は大きく溜息をついた
「それと、その髪、結局そのままで行くんだな」
酒井は梨奈の目立つ真っ赤な髪を指さした
「このヘアースタイルが天才バスケットマンみてェーだとォ?」
梨奈はこの町もおふくろも自分が守ると言わんばかりの凄みのある顔で言い返す
「言ってねえよ」
酒井は気だるげにツッコんだ
「そんな髪色の奴に話しかけられても怪しすぎて誰も聞いてくれねえだろ、なんたって目立つし、そもそもお前は元々」
「何と言われてもこれだけは変えられません、これだけは、私のアイデンティティーなので」
梨奈は再び酒井の言葉を遮り、自身の毛先を指でいじる
「そうか」
酒井は背もたれに深くもたれかかった
「なあ、もしスカウトに出て良い子が見つからなかったらさ、もう一度、アイドルを」
言いかけたところで言葉を止め、酒井は梨奈の顔を見つめた
梨奈も先程までとは違い真剣な眼差しを酒井に向けている
「それだけはないですよ、だって、あの子にも失礼じゃないですか。」
「そうだな…」
「それじゃあ行って来ますね」と梨奈がにこやかな表情で手を振り、酒井も「おう」と手を振り返して部屋を出ていく梨奈を見送った。