躁と鬱と黒い海
「一生治らないんだって。この病気」
F市郊外の、
ハマヒルガオが咲き乱れる砂浜で
ゴールデンバッドの紫煙を
吸いながら僕は呟いた。
繰り返す躁状態と鬱状態。
精神の不調を感じ、
K大学病院精神科病棟の
ベテランの精神科医を訪ねた。
「先生、どうやったら治るんですか!」
「半分半分やな・・・
半分は一生・・・」
「リチウムは気分を維持する薬。
ドスレピンは元気を出す薬」
「先生、あとはどうやったら・・・」
「規則正しい生活をする。
3食しっかり食べる。運動をする。
これをしたらよくなるけんね・・・」
「わかりました・・・。
ありがとうございました・・・」
薬局に行って
薬剤師さんにも聞いてみる。
「眠れないんです。
レンドルミン2錠でも・・・」
「ごめんねぇ。
昔は10錠とか眠剤は
出してたんだけどね。
今は2錠までなのよ」
「わかりました・・・」
病院帰り、タバコ屋で
ゴールデンバッドを買う。
この重くて辛い
タバコらしいタバコが好きなんだ。
病院帰りにハマヒルガオの咲く砂浜に
座ってタバコを吸う。
僕はこの場所が好きだ。
白い砂浜に咲く紫の綺麗な花。
それがハマヒルガオだ。
「一生治らないんだって。この病気」
独り言でそう呟いた瞬間、
悔しくて悲しくて
僕は足で思いっきり
タバコを踏み潰した。
大切にしていた
ハマヒルガオも
僕の足でぐちゃぐちゃに潰れた。
僕の気持ちもぐしゃっと潰れた音がした。