夢の痕
父・・・さん・・・?
目の前の肉親が消えた。
その骸に魂が入ってないことが離れていてもわかる。
父親だったものの瞳は虚空を見つめて動かない。
身体には血まみれの大きな穴が開いていて、血だまりが少しずつ大きくなっていく。
「あ・・・あ・・・・。」
突然の父親の死があまりにショックで理解が追い付かない。
悲鳴すら出なかった。
すると、ズシン・・・ズシンと四足の巨大な足音が後ろから迫っていた。
父親の亡骸を見つめたまま動けない。
全部終わりだ。諦めたらクロはどうなっちゃうかな。
でもそれも考えてもがくだけ無駄なんじゃないかな。
そんなことを考えていたが、無我夢中で言葉などにはならないだろう。
そのとき、空から三つの閃光を纏った3メートルほどの針がズダダダっと魔獣に襲い掛かった。
あたった瞬間弾けてしまったが、ダメージはあったようだ。
グゥウ・・・と唸ると攻撃された方を向いた。
その瞬間、白い戦闘服を纏った兵士が空中から現れ、身体を回転させながら巨大な刀を振り下ろした。
ガキン!と音がなって魔獣に当たる。
よく見るとその刀は実体は普通の刀だが、それを覆うように赤みを帯びた巨大な刀の像が重なってジリジリと音を立てていた。
ほんのりと紅い色をした髪と、茶色の瞳。
白い制服にはあざやかな赤いラインと、ところどころ太陽をあしらったボタンがついている。
背中には「Light of Guardians」の紋章が刻まれている。
無口な白い騎士は淡々として魔獣の攻撃をかわしながら着実に刀を振っている。
魔獣にかなり有効なのか、時折グゥウウと唸り声をあげている。
突如、魔獣のたてがみが赤白く変色し光を放つと魔獣が口を開けた。
ハッとした白騎士はすぐに回避行動を取った。
騎士の予想は当たっていた。魔獣の口からは高出力のエネルギーが発生し、目の前の建物を物凄い轟音と共に打ち砕いていった。直撃を受けていたら間違いなく即死だった。
すると別方向から黒い槍が飛んでくると、魔獣の左脇に命中し、ガギギギギと漆黒の稲妻をはじけさせ始めた。魔獣が苦しみ悶えていると、魔獣の体の真下から連なった鋭い結晶が現れ、そのまま魔獣の顎のあたりを貫いた。血をダラダラと流しながらたてがみの光が消え、魔獣は息絶えた。
「カニカマ君、すごいじゃん。よくこんなのと戦えるね。」
声がする方を見ると、先ほどの赤い髪の白騎士と同じ制服を着た男性が立っていた。
額に先ほどの結晶のようなものが埋め込まれている、金髪で青い目をした男性騎士だ。
「・・・。」
紅い髪の「カニカマ」と呼ばれた男は相変わらず無口だが、すっと指を指す。
一人の吸血鬼の少女が舞い降りてきた。
フレデリカ・ヴィンセントだった。
金髪の男が口を開く。
「さきほどの黒い槍、アナタですよね、援護感謝します。俺はLightofGuardians所属のコバルト中尉です。」
しかし、男には目もくれず、フレデリカはシロの方へ走る。
「そんな・・・シロちゃん。お父さんは・・・?」
「リカちゃん・・・。父さんが・・・!」
フレデリカは驚愕した顔のまま青ざめる。
「ごめんなさい。もう少し早く来ていれば・・・。」
シロは涙ながらに首を振る。
「・・・。」
「カニカマくん、俺振られちゃったよー。踏んだりけったりじゃあないかー。」
白騎士達は佇んで肩をすくめている。
シロの手をとり体を貸すと、フレデリカは白騎士達に歩み寄る。
「先ほどは失礼。ガーランド商業旅団のヴィンセントです。元陸軍所属で、王国から特別任務を任されてます。」
フレデリカは毅然とした物言いで白騎士たちと情報交換をする。
「支援感謝します。俺たちは蛹化現象の調査に来たんですが、魔獣発生の知らせを聞いたので急遽対応しました。」
「・・・。」
カニカマは佇む。
「蛹化現象・・・。大まかな概要は聞いてますが、この場所にそんなことが・・・。魔獣の件は私たちも手伝いますので、どうか任務を優先してください。」
フレデリカは淡々と話す。
「助かります。じゃあカニカマくん、目的地のリース家に向かうよ。どこか知らないけど。」
「・・・。」
カニカマは佇む。
シロは朦朧としながら口を開いた。
「リース家・・・。ボクの父さんの患者さんです。」
「え?」
コバルトは素っ頓狂な声を上げる。
「知ってるんですか?場所。」
「はい・・・。」
シロは疲れた声で答える。
「さっき聞いちゃったんだけど、お父さんの件で今は辛いと思う。周辺を片づけたりするから、そのあとに場所とか詳細聞いてもいいかな。」
コバルトは被害者を刺激しないよう優し気な声で話す。
シロは、動かなくなった魔獣の死体と父親の亡骸の方を振り返った。
そこには激しい戦闘の跡と悲しく横たわる複数の遺体が転がっていた。
そこに愛する家族は誰一人として存在していなかった。
家族全員で集うという夢が潰えた跡が、そこにはあった。