本末転倒だった仕事
太陽が東から上がると、朝露を煌びやかに輝かせた。
シャノウは昨日放った「黄金の芒」の影響で痛んだ筋肉を持ち上げながら兵舎に入る。
王宮の通りを進むと仕事に訪れた貴族や近衛兵がチラホラとすれ違う。
軽く挨拶をして返してくる礼儀の正しい者や自分の仕事に夢中になって無視する者と様々だ。
さらに進むと国外向けの王立特殊部隊「Night of Ravens」の基地に繋がる通路と執務室とがある。
「頼みますよ中佐~。ボク今月26体しか魔物倒してないんですよ~?」
執務室の中からレイヴンズと思しき声が聞こえる。
「少佐。君は俺たちの部隊でも特殊な存在なんだからもう少し控えてくれ。」
はぁ~わかりましたよという声とともに「少佐」と呼ばれた男が出てきた。
「お、シャノウさん。お疲れ様です!コバルト中尉が探してましたよ。」
少佐と呼ばれた男は階級も年齢も下のシャノウに礼儀正しく挨拶をする。
コバルトがシャノウを呼ぶときは決まって面倒事なので、有難くも気が滅入る親切に肩をわかりやすく落とした。
「えぇ~。絶対なんか怒られるってぇ~。」
シャノウのボヤきをよそに「少佐」と呼ばれた男は何かを呟きながら行ってしまった。
うわぁ・・・と空に向かってもう一度ため息をつくと、ガーディアンズの作戦室に向かうのだった。
作戦室に入ると集合時間でもないのにコバルトとカニカマ、さらに複数のガーディアンズの部隊員が何かを話し合っていた。
「シャノウ君。何やってたんだよ。大変だよ?」
コバルトが目を合わせるなり問いかけてきた。
「えぇ~僕何かしたかなぁ。」
「・・・・。」
「ほらカニカマ君もご立腹だよ?君が昨日警護してた二人の姉妹。一人は蛹で、もう一人は殻になった蛹で見つかったんだよ。」
紅誉と紅栄の二人。
確かに昨日ガーリックスパイダーから守ったはず。そのために放った黄金の芒だというのに、いつの間にか達成できていなかった任務にシャノウは驚く。
しかしそれ以上に奇妙なことが起きていることにすぐに気づく。
「え?蛹?」
「ちゃんと仕事してくれないと困るよぉ~。もう5件目だよ。人が蛹になるなんてホラーゲームみたいな事件は。」
当然のことが起こったように話すコバルトは資料と思われる書類を漁っている。
「人が蛹になるなんてことあるのかよ?」
「実際なってるんだし、そのうち1件は君が警護した対象だよ?異変に気付かなかったの?」
「いやぁ~全然そんな兆候なかったけどな~・・・。」
シャノウは自らが何か過ちを犯したとは思えず頭を捻る。
そのまま作戦室に散らばった地図上に示された写真を見ると、人の形をかろうじて保っているように見える巨大な蛹が映っていた。
それは昨日自分が会話を交わした相手とはとても信じられず、物を見るかのような視点になってしまう自分の感覚が嫌に気持ち悪く感じた。
「原因不明。治癒法不確立。さらにこの蛹が今後どうなるかもわかってない。」
「でも、この蛹・・・。」
「そう、"羽化"してるんだよ。その蛹だけ。」
見ると、背中のあたりからパックリと割れて内側が仄かに見えている蛹の写真。
紅家と示されたその写真には異様な不気味さがあった。
速足で近づいてきた足音がガチャリとドアを開けると、基地のスタッフが伝言を伝えに来た。
「コバルト中尉。ウィースコンのある家庭が蛹になった子供を発見したと。至急現場に向かってください。」
チームがゴトゴトと音を立てながら準備を始めた。
「ホラ、シャノウくん汚名返上だよ。」
別に自分の名前は1ミリたりとも汚れていないのだがとイラつきを覚えながらシャノウは装備を整えた。