第六話 固有能力
りいなが転校してきた日の放課後、俺とりいなは昨日と同じ、初級ダンジョン『チェリー』に来ていた。
一層はポヨンポヨンしているスライムが登場し、レンタル品の片手剣で切り裂いてどんどん進んでいく。
昨日よりも明らかに体の動きが良くなっていることに驚いた。
持っている剣の重さも昨日はずっしりと感じていたのに、今日は大して重さを感じずかなり動きやすい。
これはあれか、俺の能力の効果なのか?
俺の能力恋愛物語は『異性のPTメンバーと相互の好感度が高いほどPT全体強化』って能力だから、サポート制度申請した後にりいなとパーティを組んでそのままなので、あとは好感度さえ上がれば発動する。
昨日の探索後の話や、今日の学校での出来事を考えると好感度が上がっていてもおかしくはないと思う。
それに、俺からりいなへの好感度も影響あるからそれも含めてって感じか。
それにしても一日でこんなに実感できるってことは能力名の恥ずかしさとかを考えなければ当たりだと思う。
「ナコトくん、昨日と比べて動きすごい良くなってない!?」
「俺の固有能力が発動してるからその影響だと思う」
発動条件の詳細等は言えないが、能力の影響かどうかは今後すぐにバレるだろうし正直に言う。
りいなにも強化かかってるだろうし。
「言いたくなかったら言わなくて良いんだけど、これって効果時間とかあるの?」
「うーん、今のところ効果時間とかはなさそう。永続する感じだと思う。ただ、強化量が減ったりはあるから状況によっては強化量ゼロとかになるかもしれないな」
そういう状況になるってことは、俺からりいなへの好感度と、りいなから俺への好感度が両方ゼロってことだから、戦闘中にいきなりそうなったりはしないだろう、多分。
一層はスライムだけで、動きも遅く、攻撃される前に倒せるから固有能力の強化がなくても問題ない。
現状は固有能力の効果も入ってるし、正直物足りない。なんていうか素振りしてるくらいの感覚。
「なぁ、りいな。もっと強い敵と戦いたいんだけど。せっかく何か会っても大丈夫なようにりいながサポートでついてくれてるんだし、弱い敵で経験積むより、強い敵と戦いたい」
「そうだねー……、うんいいよー! じゃあ今日このダンジョンを踏破できたら明日は中級ダンジョンにいこー」
「よっし!」
やる気に溢れた俺は、スライムを倒すときも足を止めず、できるだけ早く二層への階段に向かう。
「二層はゴブリンだね。スライムと違って生物感あるから倒すのに忌避感あるかも。それさえ乗り切れば踏破できると思うよー」
確かに、スライムは動くゼリーにしか思えず、生き物って感じもしないから初めから倒しても何も思わなかった。
ゲームとかだとゴブリンは子供くらいの人形の魔物だし、攻撃することすら忌避感ある人も結構いるだろう。
「最初は武器じゃなくて魔法で倒すほうが良いかも」
「わかった」
確かに武器で直接倒すよりは、魔法のほうが遠距離からやれるから忌避感は少なそうだ。
「前方ゴブリン、数は二体。ナコトくんいける?」
「あぁ、『レス・アイス』」
『レス・アイス』の魔法陣が六つ、目の前に展開された。
スライムの時は一撃で倒せたが、ゴブリンも一撃で倒せるとは限らない。取り敢えずゴブリン一匹に『レス・アイス』三発と思い、六つ同時に魔法陣が出せないか試してみたらできた。
詠唱自体は難しくないし、六つ同時と言っても内容はすべて同じなら難易度はそこまで高くないだろう。
片手で三つずつ魔法陣に触れながら詠唱をしていく。
さすがに六つ同時詠唱は少し大変だが、百回やって百回とも失敗しない程度には簡単だった。
詠唱完了した『レス・アイス』を発動させず留めておく。
「昨日の今日で六つも同時詠唱できるってすごすぎない……!? ここまで魔法のセンスすごいなら魔法特化しても良いかも……」
前方から子供くらいの背丈で緑肌の魔物、ゴブリンが二匹近づいてきた。向こうもこちらの存在に気がついているようだ。
「『レス・アイス』全発動」
魔法陣から氷の塊が勢いよくゴブリンへ向かって飛んでいく。
いきなり飛んできた氷の塊に反応できなかったのか、ゴブリンは何もできず全弾命中し、そのまま吹っ飛んで地面を転がった。
ゴブリンはピクリともしておらず、二匹ともそのまま薄くなって消えていった。
「おつかれさまー! どう……? 辛かったら言ってね?」
人型の魔物を倒したが特に辛さなど何も感じなかった。むしろ……。
「全然平気。このまま踏破しよう」
「おっけー! 今の感じだとボスも余裕で倒せると思うよー! そうだ、提案なんだけど今回のダンジョンはなるべく魔法だけで戦って見てほしいんだけど、どうかな……? ナコトくんって私が知ってる中で一番魔法適性高いみたいだから、魔法に特化しても良いんじゃないかなって」
「わかった。ただ、魔力が途中で足りなくなる可能性があるけどそこはどうする? ゴブリンと同等なら大丈夫だと思うが……」
「そこは大丈夫! 私が魔力譲渡するよー。 私の固有能力は『魔力の泉』って言って保持魔力量がかなり増えて、魔力譲渡もできるんだよー。まぁ譲渡できることはナコトくん以外には言ってないんだけどね」
ほらっ、と言ってりいなが冒険者カードを見せてきたので見てみる。
名前:鈴凪りいな
称号:風雪の魔女、灰神楽の魔女、孤独だった聖女
ジョブ:特級魔法使い
レベル:未許可
固有スキル:魔力の海…海のように無限の魔力を持ち、白野ナコトに魔力譲渡可能。元は『魔力の泉』だったが白野ナコトの強化バフにより固有能力が強化されています。
スキル:未許可
あ、俺のせいで能力変わってる。
「りいな、すまん俺の固有能力の強化バフでりいなの固有能力が変わってる」
「え、嘘!? 無限の魔力……!? 魔力譲渡は元々ナコトくん以外にする予定ないし謝る必要なんて……、むしろメリットがでかすぎて私がお礼言わないといけないのに」
「それならよかった。どう強化されるかとかは自動みたいだから嫌な効果だったらどうしようかと」
「固有能力だから流石に嫌な強化はされないんじゃないかなー。よし、魔力は無限にあるみたいだし、魔法の高等技術『過剰強化』をやってみよっか」