第七話 質問と回答
勇気は不敵な笑みを浮かべ扉を開く。中にはぽつんと一つずつ机と椅子があり、子吉ともう一人、高い位置で髪をまとめた少女が立っている。
「はい、ということで今から『おはなし』、始めますかね」
勇気が椅子を引き柊真を座らせる。
「んじゃ、おい、大井柊真。今から質問をいくつか出す。オレの指示がない限り、「はい」か「いいえ」で答えろ。いいな?」
柊真は威圧感に押され何もせず単純にうなずきそうになったが頭の中に質問が浮かぶ。
「そ、その前に質問いいですか?」
「なんだ」
「子吉さんとそこの女の人はなんでこの場にいらっしゃるのでしょうか……」
「子吉は検証係、あっちの女はお前が暴れてオレに危害が及ばないか見張る係だ」
柊真は検証係、見張る係という意味のわからない役職に困惑とともに戦慄する。
「いいか、大井柊真。一つ目の質問だ。テメェは長良咲良に告白して付き合い始めた。はいかいいえ」
「……はい」
「よし、じゃあ次。テメェは長良咲良の秘密をある程度知っている?」
「はい」
「おう、じゃあ契約に関してもある程度知っている?」
「どちらかと言えばはい…?」
「それについてかなりの覚悟を持っている?」
「……はい!」
「自分が長良咲良にとって特別な存在であると完全に自覚している?」
「――それは…いいえ、になっちゃうのかな」
柊真の回答を聞いた勇気は鋭い目つきで柊真を見る。
「自らが黄金の血だと言う自覚はある?」
「まあ、はいかな」
「…そうか。まあとりあえずこのくらいにしておくか。オイ子吉、吸え」
ヤンキーがそう言うとギャルが柊真の方に近づく。そしてギャルがなんの躊躇いもなく首筋にカプりと噛み付いた。
「え、子吉って吸血鬼だったの!?」
柊真は子吉が吸血鬼だという事実に驚きながら吸われる感覚を味わう。なんだか浮気をしているようでイヤだ。付き合って二日目なのに。
「ぷはぁぁ!うまぁぁ!これは間違いなく黄金の血の味ですよ!!」
子吉は血の着いた口元をしながらテンションをぶち上げ、勇気はうんうんと首を縦に降り、見張り係の女は拍手をする。柊真は朝っぱらからなんでこんなことやってるんだと冷静になる。
「んで、契約についてはもう聞いてるんだよな?大井柊真」
「……なんとなくは、聞いてます」
「じゃあ話は早ぇ。あいつを幸せにしてやって欲しいんだ」
勇気は先程までとは少しだけ違い、優しげな目をしながら柊真に語りかける。
「ど、どういうことです?なんで咲良の幸せをあなたたちが?」
「いや、オレは長良咲良とあまり関わりがないんだが、そこにいるギャルは長良咲良と吸血鬼友達でな。幸せにして欲しいらしいんだ。あいつは運命の人以外と付き合えない体質だしな」
自らの話をされていることに気がついた子吉は、勇気と柊真の会話に横槍を入れる。
「そもそもあそこで付き合うことになるとは思ってなかったんよ。咲良は断るんだろうなって考えてた。好きなんじゃなくて、ワンチャン狙いみたいな、そんな感じなんだろうなって」
しんみりした表情をしながら、子吉は言葉をもう一度紡いでいく。
「でも、咲良はOKした。素直に嬉しかったよ。あの子、普通の人間や吸血鬼にはない苦労が沢山あると思うから。それを支えてくれうる人が現れたってのがね」
柊真は二人の言葉に重みを感じる。高校一年生にして現代日本では基本ないはずの許嫁が出来たようなものだ。
「子吉さん」
柊真がその名前を口にすると、子吉は何かを察したように頷いた。しかし、次の瞬間に疑問が浮かんだ。
「――というかなんで吸血鬼のこととかをわざわざ風紀委員長さんが言ってるんです?」
柊真は素直に疑問に思ったことをぶつける。
「いや、オレがそういう奴らと関わりが深ぇってだけだ。あんま気にすんな」
「……つまり委員長さんは吸血鬼ってことですか?」
「……いや、どちらかと言えばテメェと一緒だよ。この学校は女の吸血鬼ばっかってだけだ」
勇気は子吉の方を見ながら言い、また柊真を見る。
「だからテメェは覚悟を決めなおせ。テメェはあの子にとって特別な存在なんだよ」
柊真はなんだかよく分からなくなっていた。自分は本当に特別なのか、運命の人と言っていいのだろうか。この感情は本物の恋なのだろうか。昨日も考えたとても重いこの話題は柊真の脳内を蝕んでいく。
「んじゃ、帰れ。契約について聞いてるんだったら特に話すことないわ」
そんな迷いをしていることはつゆ知らず、薄情なことに柊真は子吉と共に特別指導室を追い出されてしまった。
◇ ◇ ◇
教室に帰ると、男子たちが柊真をよっ、ミスター大胆不敵だのリア充爆発しろだの茶化す。柊真は心亜の力とはいえ、なぜあそこであんなことやってしまったのだろうと後悔する。せめてまともに校舎裏とかで告白してればこんなこともなかったのかな、と思いつつもやってしまったものは仕方ないと割り切る。
「おはよう、柊真くん」
咲良が話しかけてきた……いや、黄色い瞳だから美宙か。
「おはよう美宙」
美宙は柊真の声を聞いて、ふわふわの髪を揺らしながら柔らかく笑う。
「なんか変な感じだな。昨日まで憧れだった好きな人と朝から話せるなんて」
「そうかい?ボクは今までも何回か喋っていたと思うけど」
「え?そんな喋ってたかな?」
「――どうやらボクたちの感覚にはズレがあるようだね」
苦笑いした黄色の瞳が右にそれる。それから三秒ほど経った時、予鈴がキンコンカンコンと鳴った。それと同時に教室に入ってきた教師を見て美宙の足が彼女の席に向く。柊真は体を前の方に向けた。




