時間転移
(なんで俺がこんな目に…)
薄れていく意識の中、血溜まりができた地面を眺めて呟く。
俺はここで死ぬのか…まだ俺は強くなっていない…閉じようとする瞼に抗うが、その心とは裏腹にだんだんと意識が薄れていく……
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俺は鈴木 湊。18歳の高校3年生だ。
今はEランクダンジョンを攻略している最中である。
しかし、俺はEランクにも満たない、最底辺のFランクプレイヤーだ。
なぜ、Fランクの俺がEランクダンジョンを攻略しているのかというと、笹木さんのパーティーに臨時で所属しているからだ。
笹木さんとは、いつもダンジョンでお世話になっており、かなりの熟練プレイヤーである。副業としてプレイヤーをしているため、ランクはDランクだ。
「あまり前には出るなよー。」
そう笹木さんが告げ、俺は後ろで先頭を見守ることにした。
パーティーは俺を含めて6人だ。その中のヒーラーの宮水さんが俺に話しかけてくれた。
「ヒーラーの私もいつも後衛で見守るだけなんだよねー」と笑っていた。
相手はホブコブリン。Dランカーにとって比較的倒しやすい敵だ。
笹木さんは、背中に装備していた大刀を抜き、剣を構える。
「ホギャ!」とホブコブリンが先に攻撃を仕掛けるが、笹木さんは半身の体勢で最も簡単に避けると、両手で持った太刀をその半身の体勢から振りかぶり一撃で仕留めた。
その後もどんどんと攻略を進めていき、30分が経った。
目の前のホブコブリン5体を相手に圧倒する。
「すごい…」
俺はそう呟かざるを得ないほどの圧倒的な実力を目の当たりにした。
(俺も笹木さんみたいに強くなりたい…)
まずは、笹木さんを目標に努力していこうと思っていると、その時だった。
「――グチャッ!!――」
俺の近くにいたパーティーのメンバーが目の前で潰されていた。
急な事態に俺はその場で腰を抜かしてしまう。
本来ならいるはずがないBランクのゴーレムがメンバーを潰しているのだった。
「――逃げろっ!」
笹木さんがそう叫ぶとメンバーは今までの連携を忘れたかのように騒ぎ逃げ回った。
ゴーレムはゆっくりとその巨体を動かし、俺の目の前にくる。
俺は一歩も動くことができない。このまま何もできずに終わってしまう―――そう思ったとき、
「ドンッ!」
ゴーレムの拳は俺に当たることはなく、笹木さんが壁に寄りかかりながら倒れていた。笹木さんは俺を守ってくれたのだ。
覚束ない足取りで立ち上がり、笹木さんは剣を振るう。
「――カキィン!」
笹木さんの大刀はゴーレムには全く歯がたたなかった。
笹木さんは諦めることなく攻めるが、攻撃が通用することはない。
ゴーレムの攻撃を回避することができず、右腕を潰されてしまう。
右腕がなくなり、まともに攻撃する方ができない。
「回復ッ!!」
宮水さんが笹木さんの援護をしてくれたのだ。
しかし、宮水さんはEランカー。
潰された右腕を元通りにすることはできないが、傷口をなんとか塞ぐことはできた。
「――申し訳ねぇな。でも、もう逃げるんだ嬢ちゃん。」
「そんなことはできません!私が援護します。」
少し会話を交わした後、2人でゴーレムに立ち向かうになった。
ゴーレムはBランクだ。Bランク以上の魔物は知性がある。
ゴーレムは、ヒーラーの宮水さん目掛けて拳を振るった。
――『身体強化Lv3』――
笹木さんは自身にバフをかけ、ゴーレムの攻撃を受け流す。
「クソ野郎が。俺には妻が待ってるんだ。負けるわけにはいかねぇ。」
そう呟き、左手で重たい太刀を持ち攻める。
身体強化された笹木さんでも、ゴーレムに攻撃を通せない。
2分もの間、笹木さんはゴーレムの攻撃を防ぎ続ける。
「身体中が痛ぇな。これだから身体強化は使いたくないんだ。」
攻撃が通らないとわかりながらも、笹木さんは隙を見て攻撃を仕掛けるが――やはり通らない。
笹木さんがいなければ、一瞬にしてパーティーが壊滅してしまうだろう。
この間、宮水さんはずっと回復を使ってくれていた。
しかし、宮水さんはもうMPがないのだろう。
気がつけば、壁に寄りかかりながら座り込んでいた。
そして、笹木さんの体にも限界がきてしまった。
ドサッ!とその場に倒れ込む。
目の前には巨体のゴーレムがいる。
「これだからプレイヤーには専念できねぇんだ。もっと楽していたかったぜ。」
次の瞬間―――
「グチャッ!」
笹木さんはゴーレムによって潰されてしまった。
俺は、何もできずにその場で叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁ〜!!!!」
必死に逃げ回るが、ゴーレムへの恐怖心から思うように体が動かない。
俺の目の前に来たゴーレムは、今度こそ俺の体を捉える。
ゴーレムの拳が俺の腹に当たり、止まることなく転がり続ける。やがて、壁にぶつかりその場で倒れ込んだ。
(呼吸が苦しい……)
――肺が潰れてしまったのだ。
残るメンバーもゴーレムによって潰されてしまった。
ヒーラーの宮水さんもだ。まだ若いのに……
(なんで俺がこんな目に…)
薄れていく意識の中、血溜まりができた地面を眺めて呟く。
俺はここで死ぬのか…まだ俺は強くなっていない…閉じようとする瞼に抗うが、その心とは裏腹にだんだんと意識が薄れていく……
『ユニークアビリティ―――時間転移を入手しました』
薄れていく意識の中で、そんな声が聞こえた気がした。
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鈴木 湊 18歳 男 レベル:5
SP:0 ユニークアビリティ:時間転移
HP:2/10 MP:5
攻撃力:5
耐久力:4
速度:6
知性:3
幸運:3
スキル:なし
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時間転移の入手条件:4つ以上ランクの離れた魔物から生き延びたとき。