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第八話 勝利

「――生きてたか。魔人ってのは、どうしてこう頑丈なんだろうな」



大剣を肩に担ぎ、横たわる魔王の姿を見下ろす。


複数人の魔術師に傷を癒やされながら、意識を取り戻した魔王。


青碧(せいへき)の瞳が俺を認めた。



「私は……負けたのか」



力のない声で、呟く。


先までの力強い意志はなりを潜め、かよわい女性へと変貌していた。



「これから……どうなる?」


「どうなるってのは、おまえのことか? 民のことか? それとも俺のことか?」


「そのすべてだ」


「決まってるだろ。なんのためにおまえをぶっ倒したと思ってる」


「……認めよう。きょうから貴様が魔王を名乗れ」


「――魔王様!? それはなりませんッ」



治療にあたっていた複数の魔術師が首を横に振った。


しかし、魔王は騒ぎ立てる配下を手で制す。



「ひとつだけ……約束してはくれないか」


「なんだ?」


「極力……平和的に解決したい。戦わなくて済むのなら、話し合いで……。兵を……民を無下(むげ)に消費するようなことだけはしないでほしい」


「約束しよう」



俺の即答が意外だったのか、魔王は目を丸くした。


その反応は、少々心外だ。



「俺もおまえと同じ、平和主義なんだよ。殴らないで済むのなら殴りはしない」


「どの口でそんなことを……。いやしかし、意外だったのは事実。目的のためなら手段は選ばないような女かと思ったが……」


「……いろいろ訂正しておきたいこともあるが……まずは、そうだな。俺は兵士に戦わせる気はない」


「なに?」


「戦争は、俺一人でやる」


「……はあ?」



魔王と戦って、確信した。


俺のスキルはかなり強力だ。


第二形態で魔王を圧倒する力が秘められている。それも、まだ本気の出力ではない。



「おまえが魔王の中でどれほどの強さなのかはわからない。けど、相当な強さだったおまえを、俺は余力を残しつつ倒せた」



確信。


俺は、単騎で国を落とせるほどの力を有している。



「だから、俺の戦場に兵士はいらない。おまえらは自国を防衛するのに全力を尽くしてほしい」


「……待ってほしい。まったく、思考が追いつかない」



混乱する魔王が、こめかみに手を当てた。


それからいくつかの質問に答え、魔王は難しい顔で要約した。



「要は、こういうことか? 私たちは、おまえの下についたはいいものの、戦闘には参加しなくていいと? あくまで、国を持ったという肩書きがほしいだけか? 貴様は」


「そういうことになる。俺は魔王になった。国を持ったという事実があればいい。そうすれば、他国とも会話ができる。争いになったとしても、俺が迎え撃つし俺ひとりでケリをつける。そうして、徐々にこの国を大きくしていく」


「……最終的に、大陸全土を統一すると? たったひとりで?」


「そうだ。元から、俺はそれが可能なのかどうか判断しにここまで来たんだ」



そして可能だと判断した今、ようやく俺の夢が動きはじめる。



「突然現れて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて……災厄のような女だな」


「ちなみに、俺は男だ」


「……は?」


「言っただろう。俺のスキルは変身だ」



変身を解いて、第一形態――男の姿へと戻る。


魔王と、途中からやってきた兵士たちが一斉に目を剥いた。



「本当は恥ずかしいから、大勢の前で見せたくなかったんだが……王となった以上、隠し事はしない。重ねて――俺は、男だ。女の子に変身するたびに強くなる」


「あ……ぁ」


「どうした? 顔が赤いぞ」


「いや……その」



様子のおかしい魔王の言葉を遮って、早馬に乗った兵士が駆けてきた。


どうやら勇者率いる軍と交戦をはじめたらしい。



「さっそく俺の出番か」


「な、なんだ貴様は……ていうか、人間!?」



俺の姿を見て敵意を向ける兵士。鞘に収められた剣に手を伸ばした直後、兵士が白目となって倒れた。



「知らぬとはいえ、体裁は必要だ。すまないな。この厄介ごとが片付いたら正式に貴様を――いや、貴殿を魔王として、戴冠(たいかん)させてもらう」



満身創痍の状態だというのに、兵士の後ろへ高速で移動した魔王……いや、元魔王。



「俺を認めるのか、元魔王」


「へカーティアだ。新魔王」



元魔王――へカーティアと名乗った美女は、全身に残った火傷跡を包帯で巻いていく。


完全回復には、一週間ほどかかるらしい。


それまで安静にしていればいいものの、へカーティアは包帯を巻いて、これからどこかへ向かおうとしているようだった。



「魔王として認めたが……気に入らないことがあれば遠慮なく申し立てるし、隙があればその座から引きずり落としてやる。だから、精々誠意をみせろ。私に(うやま)われるようにな」


「善処しよう。それで、へカーティア。おまえ、その体でどこにいく?」


「いくら貴殿が強かろうと、そう易々と出陣はさせられない。兵士にもメンツがあるんだよ」



ついさっきまで魔王という地位についていた者が、なんの抵抗もなく自らを兵士と称した。


並の精神力ではできないことだろう。



武勲(ぶくん)を上げて、いい家に住んで、嫁をもらって、飯を食う。兵士はそれで生きているんだ。真に争いがなくなるその日まで、兵士の手柄を奪うなよ。魔王」


「……それでいいのなら、そうするが……」



たしかに、武勲を上げて成り上がるのは、一種男の生きる目的とも言っていい。


それを一方的に取り上げるのは、酷なことだろう。反乱すら起きかねない。


……難しいな。国をまとめるというのは。



「しかし、おまえ……その体で戦闘はムリだろ」


「問題ない。これぐらい、いいハンデだ。――それに早く面倒ごとを終わらせたい」


「兵士の武勲を奪うなって話、どこ言ったんだ?」


「それはそれ。これはこれだ」



なんて言って、魔王の姿が消えた。


魔力の残り香が漂う。転移魔術を使ったようだ。



とりあえず……当初の目的は達成したが。



「………」



周囲に残った兵士たちは、俺をどう扱ったものかと困った様子を見せていた。


俺も、取り残されてどうすればいいのか模索中だ。



「――陛下。何かご要望はありますか?」


「おまえは……たしか」


「シェルリングにて大将軍を(たまわ)る、カリオストロと申します。以後、お見知り置きを」



眼帯に白髪混じりのオールバック。


魔王と会敵前、第二形態の俺と激戦を繰り広げた老人だった。



「おまえは、俺を認めたのか?」


「忠誠を誓った主がお認めになられたお方。ならば、俺の——私の忠誠も貴殿に。それが軍人という者です。命令されなくとも、主の意図を汲む……それすらもわからぬ者が、真に忠誠を誓っていたとはいえません」



膝をつくカリオストロのその言葉に。


その場の全員が、一斉に膝をつく。


冷汗が石畳の上に垂れていた。


きっと、カリオストロのプレッシャーに負けたのだろう。



「ならカリオストロ。俺も勇者の様子を見に行く。ついて来い」



少しばかり、王様っぽさを意識して言ってみる。


それを、カリオストロは当然のように拝命した。



「御意」






「おもしろかった!」


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