第五話 第三形態
上空五百メートル。
互いに高度な飛行魔法を扱い対峙する俺と、魔王。
ついに魔王と向き合った俺は、その秀麗さからにじみ出る戦闘力を感じ取って、口角が釣り上がる。
強いな。俺の想像した数倍は、強い。
だが勝てないのかと問われれば、否。
――その程度なら、俺はすでに越えている。
「下がれ、カリオストロ。下の兵士たちにもそう伝えなさい」
「しかし……ッ」
「兵士の消耗は避けたい。こいつは、危険すぎる」
「……だから、お一人で?」
「そうだ。――それでいいか? 人間。それとも、私との一対一は望まないか?」
願ってもないことだった。
元より、俺は魔王と戦いに来たのだ。
戦って、己の実力を確認し、あわよくば魔王へなる。
それが俺の目的だ。
「構わない。だが、こちらの要望も聞いてほしい」
「……なんだ?」
訝しげに言った魔王へ、俺は目的を告げた。
「俺が勝ったら、魔王の座を俺に譲ってはくれないか?」
「……理由を聞いても?」
「俺は、戦争を終わらせたいと思ってる」
横目で老人――カリオストロと呼ばれた男を見やった魔王。
カリオストロはその場で恭しく一礼すると、地上に降りて続々と集まってきていた兵士を退却させた。
「戦争を終わらせるために魔王だと? よくわからない道理だな」
「魔王になって、俺は大陸すべての国を統合する。そして統一国家を築き世界から戦争を無くす」
「……崇高な願いだな」
呟いて、魔王は憂いげに言った。
「しかし、夢物語だ。貴様にすべての国をまとめ上げるだけの力はあるのか? 知略は? 民を率いる、王たる素質があるのか?
――そもそも、所詮は貴様も、力を振りかざし恐怖で屈服させること前提の願いではないのか?」
「……戦争は、戦争でしか無くならない。血は、血でしか止めることはできない」
だからこそ試したい。
この魔王を打倒するほどの力があるのならば。
誰もが反抗する気も起きぬ力を振りかざし、結果それが恐怖によるものだったとしても、戦争をなくしたい。
「その矛盾には賛成だがな。まずもって、相応の力が必要だ。自国を守れるだけの、他国に認めさせるだけの力が貴様にはあるか?」
「それを確かめにきた」
「この魔王を使ってか? ――抜かせよ。貴様程度に敗れるのなら、私は魔王になどなっていない」
風が消える。
魔王から放たれた、常軌を逸する闘気。
鑑定の結果、魔王の戦闘力は100万を越えていた。
ラヴィーナや、カリオストロを凌駕する戦闘力。
さすがに、この状態では勝てる見込みがなかった。
「修羅の道となるだろう。平和を望んでいるのにもかかわらず、流れる血は河の如く。敵は強大にして膨大。統一国家だと? 他国に知られてみろ。一斉に矛を向けられ、塵一つ残らず犯され消える。
――そんな寝物語のために、愛しい民を、兵士を巻き込ませるわけにはいかない」
正論だ。
魔王の言っていることは、何一つ間違っていない。
たとえ統一国家を目指せるだけの力があったとしても、自国の侵略を恐れた列国に手を組まれ、一瞬にして世界を敵にまわすことになる。
当然、血は流れる。
屍山血河が幾重にも広がって、夢半ばに折れるかもしれない。
だが……
「――俺は、俺が信じた未来を叶えたい。それをやるだけの力は、得たのだから」
正論、正論、正論――もう聞き飽きた。
馬鹿にしてろ。勝手に笑ってろ。
俺はもう、止まれない。
「やると決めた。だから、あとはやるだけなんだ」
「――聞き分けのないガキは、嫌いなんだよ」
太刀を構える魔王。
その気迫だけで人が切れそうだった。
恐ろしいな。
だが、それがどうした。
「俺のスキルは『変性』――簡単に説明すると、姿を変えるたびに強くなるスキルだ」
「それがどうした?」
「俺はまだ、あと三回の変身を残している」
「―――」
瞬間、俺は内から引き出すように闘気を放出させた。
黄金のオーラが俺を包み込み、荒々しく大気を震わせる。
雲ひとつなかった夜空に、暗雲が立ち込めた。
膨れ上がる俺の闘気に、魔王が目を剥く。
「なんだ――この、戦闘力は!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ―――ッッッ!!!」
稲妻が轟き、天候が荒れる。
暴風雨が撒き散らされ、その場の温度が急激に上がっていく。
やがて――俺の幼かった姿が変貌し……黄金の光が、炎へと変換される。
「――変・性」
息を呑む魔王の眼前で、俺を包み込む黄金色の炎を弾かせた。
「――焦熱たる暴虐の黒星」
噴き上がる炎柱が暗雲を貫き、空に穴があく。
一振りの大剣を手にした俺は、不敵に笑った。
「これが第三形態だ。――追いついたぜ、魔王」
「せ、……戦闘力、100万オーバー……ッ」
驚愕する魔王。
露出した胸の谷間をくすぐる金髪。それをはらいのけて、真紅色のドレスをはためかせた。
変身を終えた俺は、大剣――爆ぜ螺旋する炎煌剣を魔王に向ける。
「行くぞ――魔王。退位の覚悟は十分か?」
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