第四話 魔王
第一形態・幼き黄金の星の特徴は、超高度の魔術戦闘。
詠唱なしで、使用したい魔術を脳内に描くだけで発動できる。
なので、要は俺のイメージ力と、思考の速さ。
「――うぉらぁぁあッ!!」
凄まじい速度で距離を詰めてきたラヴィーナの鉤爪を、飛翔することでかわす。
彼女の真上を舞って、ふさふさの頭部に手を置く。
瞬間、ゼロ距離で魔弾を十発……連続して撃ち込んだ。
「グボッ!?」
「まだまだ行くぞ」
陥没した地面に埋まるラヴィーナの背中へ、さらに魔弾を叩き込む。
砂煙が舞い上がり、とどめの極大レーザーを魔方陣から発射。
轟音とともにラヴィーナの姿が見えなくなった。
「今度こそやったか?」
「――痛ってえだろ、クソが」
「っ!?」
砂煙から、手が生える。
宙を浮いていた俺へ、血まみれになったラヴィーナが跳躍し……鉤爪を光らせた。
「本当に、頑丈なヤツ」
「――っ」
だが、鉤爪は俺に届かなかった。
油断していたとはいえ、魔術で五感や瞬発力、動体視力を強化している。
予想外の出来事とはいえ、緩慢なラヴィーナの動きを避けることなど容易いことだった。
「ここまで持ち堪えたのはおまえがはじめてだ」
手のひらから超高速で発射された黄金の魔弾が、ラヴィーナを地面に叩きつけた。
遠目からでも、彼女が意識を手放したことが確認できた。
しかし、まだ生きているのか。
頑丈というか、生命力が高すぎる。
「だが……この力が通用するのは、わかった」
まだ第二形態だ。
俺にはまだ、あと三つの変身がある。
変身を重ねれば、俺の戦闘力は跳ね上がる。
現在の戦闘力は50万オーバー。
ラヴィーナより20万も低いが、そこはすべて魔術でカバーできる。
ただ、格上や同格の相手に肉弾戦を持ち込めないだけ。
幼女の姿をしてはいるが、そこらで気絶している兵士程度ならひと殴りで殺せる。
魔術師を戦闘力で測ってはならない――それがこの世界の鉄則だが……
「――おっと」
「ほう」
身の危険を感じて、とっさに急降下。
刹那、寸前まで俺がいたところで大鎌が振り抜かれた。
そのまま数十メートル距離をとって、俺はその男と対峙した。
「まったく気配を感じなかったのは、スキルのせいか」
「一部始終は見ていた。とんでもない子どもだ……いや、男か?」
「おじさん、ラヴィーナより強いな」
「……鑑定か?」
「正解」
戦闘力、80万オーバー。
気配もなく、突如として背後から現れたのは、隻眼の老人だった。
白髪まじりの黒い髪。油断のない視線。軸のかよった立ち姿。
歳を感じさせないその風格は、歴戦の猛者という言葉を想起させた。
片手で握られた身の丈の大鎌も合わさり、死神のようにも視える。
年老いてはいるが、それがまた妙にしっくりくる。
この男、かなり強いぞ。
「何者かは問わん。そんな余裕はなさそうだ」
「そんなこと言って、ちゃっかり葉巻をくわえるじゃないか」
「これがあってはじめて、俺は戦えるんだよ。お嬢さん」
胸元の戦服から葉巻を取り出し、指にともした火で煙を燻らせる。
そして一服……きめた瞬間に、老人の姿がかき消えた。
目の前から、一瞬も目を離していないというのに。
この強化された視力ですら見逃すほどの超スピード。
――否。
「気配遮断の究極……ものすごいスキルの練度だな」
「褒めてやる。見えないのによく防いだ」
真正面から薙ぐ大鎌。
それをかわし、宙を飛翔しながら魔弾を手当たり次第に放つ。
しかし手応えはなく、それを証明するかのように――半円の刃が迫る。
「―――」
「これも躱すか」
攻撃のタイミングにだけ姿を現し、避けた瞬間にはもう、そこにいない。
まるで空と同化しているかのように。
戦いにくい相手だ。
「障害物の多い場所で戦うと、際立って厄介なスキルに化けるな」
しかし、ここ遮るものはない。
攻撃が接近に限られているのなら、対策はある。
「――全方位、回避不能の弾幕をぶちこむ」
首を刈る大鎌の一撃を大杖で弾き、間髪入れず魔弾を生成・射出。
そのまま大杖を槍のように構えて、イメージを膨れ上がらせる。
秒速よりはやく生成される黄金色の魔弾。
俺の周囲に尋常ではない数の魔弾が生成され、
「夜空穿つ星虐の杖」
俺の合図によって、超強化された魔弾が一斉に瞬いた。
俺の半径一キロ圏内。魔弾が上下左右、暴れ狂うように射出される。
魔弾同士がぶつかることによって消失することはない。
むしろ、本懐はぶつかることにこそある。
「跳弾に次ぐ跳弾――この結界内から抜け出すことは不可能だ」
「――チクショ、これはまず――ッ」
「見つけた」
隙間のない魔弾の嵐。
回避は不可能……ならば、切り落とすしかない。
そして、必然と姿を現すことになる。
全方位から襲いかかる魔弾を喰らいながらも、八割ほど捌いてみせる老人。
敵ながら恐ろしいが、それでも……これで終わりだ。
「夜空穿つ星虐の杖」
この大杖によって、星の力を引き出す。
無尽蔵にある星の源から力を引き出し、通常の強化魔術とは一線を画す強化を魔術にほどこす。
生成した一発の魔弾が星の力によって殺傷力を増し、放たれた瞬間に凄まじい余波が襲う。
威力は道中、遭遇したドラゴンで実証済み。
防御力に超特化した岩竜を一撃で屠るその威力は、いくらバケモノじみた強さをもつ老人であろうと木端に消し飛ぶ――はずだった。
「――くっ……久々に、血を流してしまった」
結果、魔弾が直撃することはなく、軌道をそらされた。
着弾した数キロ先の山が吹き飛ぶ。
……さすがに、強化し過ぎだったか?
ともかく、俺は新たな乱入者を見据えた。
「……陛下……なぜ、俺を」
「大事な配下だ。守るのは王として当然……しかし」
俺を見て、目を細める美女。
絶世と呼んでも差し支えのない、妖艶たる風柄。
そこに立っているだけで絵になる美しい姿を一目見て、俺は確信した。
禍々しいオーラでおおわれた太刀を片手で振るい、魔弾の軌道をそらしたその練度。
無傷とはいかず、握った指の爪が数枚めくれ上がってはいるものの、取るに足らぬと気にした素振りを見せない胆力。
俺は、かすかに笑みを浮かべた。
「おまえが、魔王だな」
俺の問いに、薔薇色の長髪をなびかせた女が、答えた。
「ああ――私が、魔王だ」
「おもしろかった!」
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