第一話 俺には夢がある
襲い来る獰猛な魔物を切り捨てながら、俺は林を進んでいく。
どれだけ歩いただろうか。もう背後を振り返っても、野営の灯りは見えない。
その代わりに、左に視線を映してみれば、人間族の軍を迎え討つための魔王軍が整列していた。
概算して十二万ほどだろうか。偵察部隊が報告していた数とおおむね一致する。
「この辺でいいか」
立ち止まって、近くの木に背中を預けて座る。
さすがに疲れてしまった。一日中歩きつづけ、やっと休憩かと思えば追放されたのだから。
心の準備ができていたとはいえ、肉体的な疲労はどうにもならない。
麻袋から携帯食料を取り出す。
「これからどうするか……」
間違いなく、王国に戻っても俺の居場所はない。
なにせ国王直々の命令で勇者パーティに従事していたのだ。それに逆らい、追放された俺を黙って捨て置くはずがない。
最悪、死刑だ。
とはいえ、死にたくないので反逆はさせてもらうが。
数ヶ月前、手に入れたこのスキルがあれば、王国を敵にまわしたとしても怖くない。
これは、それほど強力な力だ。
スキル『変性』。
要は、変身だ。
おとぎ話なんかでもよくあるあれ。
女の子が変身することで強力な力を身にまとい、巨悪と戦う話。子どもから大人まで大人気の物語。
ただし異なる点は、男の俺が女の子になって戦う、ということ。
この数ヶ月で、この力のことはある程度わかった。
わかったものの……それがいったいどこまで通用するのかはわからない。
王国は間違いなく潰せる。他の列国に比べるとうちの国は弱い。多分、大陸最弱。
唯一、抜きんでているのは勇者であるライスのみ。
あいつの保有スキルの効果は『不死』だ。どんなに殺されようと、数秒後には生き返る。
そのスキルを最大限つかって、あいつは幼い頃から鍛えられてきた。精神的にも肉体的にも、勇者として相応の強さだろう。
予想では、戦闘力30万オーバーといったところか。振り幅は大きいが、S級冒険者クラスだ。
不死性も合わされば、数字では測れないほどの脅威になる。
純粋な戦闘力で負けるとは思わないが、殺せない時点で勝負に成り立たない。
……対策がないことも、ない。
ただ、あまり第四形態にはなりたくないだけで。
「……魔王には通用するんだろうか」
ふと呟いてみる。
魔王の戦闘力は未知数だ。おそらく、いや確実にライスより格上。
ただあいつは、どれだけ殺されても生き返るから、ゴリ押しでなんとかなってきただけ。今回もそんな感じの意気込みだろう。
純粋な戦闘力だけでならライスに勝ち目はない……はず。
噂で聞く魔王の情報からでしか、わからないが。
しかし、俺ならばどうだろう。
「魔人族はたしか、実力主義なんだったよな……」
強いヤツが上。強ければ偉い。強ければ正義。
そんな脳筋な種族だと聞いたことがある。
もし。
もし、俺が魔王を倒せたら。
俺が魔王になることは、できるのだろうか。
――俺には、夢がある。
子どもじみた夢だが、世界平和という夢だ。
この世から戦争をなくしたい。
この大陸では、長きにわたって戦乱が続いている。
うちの王国だって、同盟を組んでいなかったら即座に潰されていただろう。
俺は、戦争孤児だ。
戦争で、同じ人間に故郷の村を焼かれた。目の前で両親を殺され、俺だけ生き延びた。
戦争を無くしたい――。
奴隷として売られていく、おなじ孤児たちをみて俺はそう思った。
戦争をなくすにはどうすればいいのだろう。
考えなかった日は、なかった。
『俺が王様になって軍隊を使えば、戦争はなくなるかもしれない』
そんなことを幼心に考えて、しかし孤児の俺では、どう足掻いても王族にはなれないと知った。
だから軍隊に入った。
それしか選択肢は浮かばなかった。
軍隊に入って、俺が戦争を終わらせる。すべての国を倒して、統一国家を築く。そうすれば、俺のように誰かが泣く世界は終わると思ったから。
幸い、俺には才能があったようで、トレーニングをこなせばこなすほど、強くなった。
けど、もう……成長限界というヤツが来てしまった。
俺はこれ以上、強くなれない。
戦闘力20万もあれば十分だといわれたが、俺自身、絶望的だと感じていた。
列国には、まだまだ強いヤツがいる。
そいつらと戦うには、戦闘力20万は低すぎる。
しかし、今は力がある。
この力がもし、魔王にも通用するのだとしたら……。
「……試してみるか」
勇者パーティを追放された今が、好機だった。
あのまま、俺が勇者パーティとして魔王を倒しても、魔王国は王国の植民地になるだけ。
けれど、今の俺が倒せれば、俺が魔王として君臨できる。
夜明けには勇者たちが進軍しに来るが、俺なら一人で返り討ちにできる。
だから、これは好機。
この上ない好機。
立ち上がった俺は、山岳地帯に囲まれた魔王国を見つめる。
俺には、夢がある。
戦争をなくすために、統一国家を作ること。
その夢がもし、叶えられるのなら。
たとえ暴力であろうと、築いてみせる。
「――行くか」
そうして俺は、魔王と戦うために動き出した。
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
「早く読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!
ブックマークもいただけると最高にうれしいです!
何卒、よろしくお願いします!