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プロローグ

新作はじめました。しばらく連続更新しますので、よろしくお願いします。

「――戦闘の途中で勝手にいなくなるし、荷物は放り出すしで、まじでリル……おまえなにしたいの? やる気あるの? ないよね? もう追放だから」



魔王決戦前夜のことだった。



ラーニバルス王国から三ヶ月歩いたところにある、魔王が治める国……シェルリング。



その王都ハーシェルのおおきな防壁を目の前にして、とうとう俺は、この日を迎えた。



野営する十万前後の兵士たちの前で、公開処刑されるかのように。


軍の総大将を務める勇者ライス直々に、俺は追放を宣言された。



「何か異論は? 言い訳とか最後に聞いてあげるけど」


「いや、ない」



いつか、そんな日が来るんじゃないかと薄々気がついていたから、もう心の準備はできていた。


むしろ待ちくたびれたほどだ。


まさか魔王決戦前夜に言われるとは思わなかったが。



「……あのさ、リル。最後なんだから教えてくれてもいいじゃん? おまえ、戦闘中どこに行ってんの? 荷物放り出して」



俺と同じ黒髪を冷たい夜風になびかせて、ライスは目を細めた。


好奇心、というヤツだろうか。


あるいは、憐憫(れんびん)か。


紫色の瞳には、追放は覆らないけど情けはあげてもいいかな、なんて甘い光が宿っていた。



「………」



さて、戦闘中……俺は何をしているのか。


はなはだ困る質問だった。



まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか言っても、ぜったい信じないだろ。



俺だって数ヶ月前まで信じられなかったし、信じたくなかったよ。


今年で十八歳になる俺が、九歳前後の幼女になって魔術を使うんだぜ?


俺、魔術の才能ないから剣を鍛えたのに。まあ、それはこの際どうでもいいか。



「いやね。俺はおまえのことを買ってたんだよ。剣士としてのおまえをね? 戦闘力20万は勇者パーティの一員として鼻が高いと思うし、おまえが真に平和を望む心には熱いものを感じる。(とうと)いと思う。


――けど、ここ数ヶ月、口だけ達者で何もしてないよね? 夢だけ語ってれば成功する世の中じゃないの。わかる? わかってるよね? もう子どもじゃないんだよ? 十八歳って成人だよ? 行動しなきゃ思考は変わらないって偉い人も言ってるよね?」


「その通りだと思う」


「なにその態度。反省してるの? なに俺関係ありませんみたいな口ぶりなの? その舐め腐った態度はなんなん?」


「――もうやめときなって。どうせこっから追い出すんでしょ? 死んだも同然じゃん」



止まらないライスの言葉をさえぎったのは、同じ勇者パーティのマリナ。俺と同じ剣士で、ライスの幼なじみだ。


明るい雰囲気に短く揃えられた金髪。整った顔立ちは、隣に立つ王女様と引けを取らない美しさだ。


マリナの小馬鹿にしたような視線が俺に向いた後、ライスへ熱い視線が向けられた。



「夜明けからいよいよ決戦でしょ? ライスが勝敗の(かなめ)なんだから、こんなヤツにかまってないで早く休も? あっちにテントあるしさ」


「そうですわ」



マリナの隣。月にきらめく銀色の長髪を指先でくるくるまわすウルティナもまた、マリナに同意した。



「剣も振るわず、荷物もろくに運べない無能にかまけている時間はありません。あなたはこの十万の軍を率いる総大将なのです。早くお休みになって?」



勇者パーティだけでなく、ラーニバルス王国の花形であるウルティナ王女が、俺を冷めた瞳で見やる。


彼女は、幼少の頃から魔術師としての才を開花させ、莫大な資金のもと英才教育を受けてきた。


そのおかげで、妖精のように美しい見た目とは裏腹に、戦闘力28万オーバー。勇者パーティでは、ライスに次ぐ戦闘力の持ち主だった。


ぞくに天才と呼ばれる実力者のウルティナは、王女という身分にもかかわらず、この戦争に参加していた。



「うん、マリナとウルティナ様のいう通りなんだけどさ。……おいおい、みんなもそう騒ぐなって……うん、わかったから。早く追放するから、でもせめて理由を聞きたいじゃん?」



野次を飛ばす十万の兵士を(なだ)め、再度、ライスが俺を見やった。



「どうして戦わないのか。あれだけ世界平和とかたいそうな夢掲げてたくせに、急に戦わなくなった理由。聞きたくない?」


「………」



俺は、それでも答えなかった。



だって、恥ずかしいじゃん。数ヶ月前、魔物の攻撃を喰らって気絶したあと、女の子に変身できるようになった……なんて。



ぜったい笑うだろ。馬鹿にするだろ。俺ならそうする。


この一年、苦楽を共にしたおまえらだからこそ、俺の正体が『さすらいの美幼女様』だって言いたくないんだよ。



ちっぽけなプライドなのかもしれない。


きょう、はじめて会った相手なら俺だってためらわず変身して説明したよ。


でも、ちょっとそんな勇気は出ないかな。



それに――この戦争。


個人的に思うところもあったわけだし。


そのことについては、この際だから言わせてもらおう。




「……俺は、平和を望んでいる」


「やっと口開いたかと思ったら、なんだよ。これは、平和のための戦いだろ? 何が気に食わない?」


「他の魔王国ならよかった。けど、この国は比較てき平和な国だったろ。ここ数十年は、小競り合いぐらいしかしてないし。シェルリングの魔王は穏やかな気性の持ち主なんじゃないのか?」


「んー、不服(ふふく)なんだ? この戦争に」


「ああ」



俺の返事に、ライスのみならず他の人間たちも、忌々(いまいま)しいと言わんばかりに俺を()めつけた。


この場にいる誰もが、この戦争に疑問を抱いていない。


俺だけだった。


いや、俺がおかしいのかもしれない。そんなことを疑問に思う、俺が。



「リルはさ、戦争孤児なんだっけ?」


「ああ、俺は戦争で家族と家を失った」


「うんうん、そうだよね。戦争を憎む気持ちはわかるよ。世界を平和にするために軍隊入りましたって、最初の自己紹介でも聞いてたし。でもさ、でもさあ」



ライスはいう。



「俺はともかく、おまえは軍人だぜ? 軍人なら命令に従うのが当然だろ。上の命令に疑問を抱いも、まっとうするのがおまえの選んだ道だろ? 俺もそうだよ。勇者として選ばれてからは王様の手駒さ。


――けど、やった分は報酬もらえてるしさ。戦争も王国の繁栄のためだろ? もらった報酬分は働こうぜ? いち兵士がお偉いさんの賢い頭をうたがうなよ。おまえよりよっぽど賢しいこと考えてるはずだぜ?」



正論だと思う。


俺は何も言い返せない。


ただ、それでも、何も言い返す言葉がなくとも、俺はそれが間違ってると思うから。



「……俺は俺なりに、方法を探してみるよ。平和への道ってヤツ」


「あっそ。ま、頑張ってくれよ。俺も、ただやりたいことをやるだけだし。――さあて、明日は魔人の奴隷何体つくれるかな~」


「もう、ライスぅ? 私という女がいながらそれはないでしょう?」


「そうですわ。この身ではまだ満足できないと仰るのですか?」



緊張感のかけらもない、勇者パーティののんきな会話を背に、俺はその場を去った。



軍隊に入って二年。勇者パーティに臨時加入して一年。



濃厚な時間を共に過ごした軍の同期や上司たちにも別れを告げず、俺は林の中へと進んでいった。


突き刺さる(いきどお)りの視線を、全身に感じながら。





「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


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[一言] あまりにも正論
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