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八通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?


 唐突ですが僕は今非常に困惑しており、忙しい中ですが落ち着こうと思うあまり手紙を書いてしまった次第であります。


 さて何に困惑しているかと言いますと魔術師様が初めて僕に御尊顔を拝見させてくださったのですが、彼女は人間ではありませんでした。


 そちらの世界で言う所謂エルフと称される種族が近いのではないでしょうか、耳が長く尖っており非常に整った美しすぎる顔立ちにサラリと靡く艶のある長い金髪が印象的です。


 後は目の色が少しだけ赤茶色をしていること、犬歯がキバのように長いなどの特徴もありますが正直とても似合っていて魅力的だと感じてしまいます。


 ちなみに彼女と書いた通り女性のようで、素の声も聞かせて貰いましたが小鳥のような聞き心地の良い綺麗な声でした。


 しかしこの世界でもやはり人種差別のような概念があるようで、異種族である証を隠すために警戒を重ねていたようです。


 僕はこちらの世界でいう一般的な人間と同じ特徴の持ち主なのでやはり正体を明かせずにいたようですが、この度ついに理由があるとはいえ信頼の証としてフードを脱いでくださったわけでございます。


 さてその理由ですが簡単に言ってしまえば僕とのお別れを言うためのようでした。


 実のところ彼女は里の至宝を持ち逃げしたお姉さんを探すためにマナの残り香を辿りながら旅を続けており、その果てにこの王国へと到着したのですが何故かここから一切跡をたどれなくなってしまっていたそうです。


 長らく進展は見られず最近は心が折れかけていたようですが、ここにきて僕が色んな会社に出入りして書類整理をするようになるとそこからの情報でついにお姉さんが働いていた跡を見つけられたとおっしゃいました。


 そこから聞き取りなどをしていくうちにどうやらお姉さんは自らの魔力を完全に偽装した上で違う国へと旅立ったと結論づいて、彼女はそのあとを追う決心をしたのだと伝えてきました。

 

 だから成功して居場所を見つけた僕とはここでお別れだと彼女はおっしゃるのです。


 しかし僕としては彼女への恩返しがまだ済んでいないので当然ついていくつもりでいます。


 確かにここでは成功を積み上げそれなりの立場になりましたが、そもそも僕は既に死んでいる身です。


 彼女に救い上げられたからこそ今があるわけで、そんな僕にとって地位や金銭なんかより彼女への恩返しこそが生きる目的なのですから。


 ですから今は彼女が旅の支度を終えてしまう前に諸々の始末をしなければならず、今は必死に引き継ぎ書の作成をしているところです。


 ブラック企業時代の名残で仕事の全てを一人でやっていましたがこんなことなら後輩を育てておけばよかったと後悔しております。


 さて話は変わりますが今回もこちらの世界で体験した現象についてご紹介したいと思います。

 

 そちらの世界には流砂というものがありますね、簡単に言えば砂でできた渦巻というか落とし穴というべき代物です。


 こちらの世界にも同じような現象があるのですが、これがまた厄介なことに大気中に発生するのです。


 見た目としてはゆっくり回転している扇風機の羽をイメージすると分かりやすいと思います。

 

 あのような形で縦向きだったり横向きだったり、とにかく渦を巻いているわけですがこれがまた空気ということもあり非常に薄く無色で見分けにくいのです。


 更に風は内側に吸い寄せられていて結構吸引力も強いため、気づかずにある程度の距離まで近づくと大の大人であろうとも四足獣であろうとも踏ん張ることもかなわずに飲み込まれてしまうのです。


 そして一度飲み込まれると雑巾絞りのようにあっという間に肉も骨も関係なく粘土細工のようにバキバキに捻じられていく恐ろしい天然の罠とでも言うべき現象でした。


 これは魔術師の方が指摘してくれたから気づけたので僕自身は巻き込まれずに済みましたが、近くには獣の血痕が飛び散りさらには渦を巻いたピンク色の肉片があちこちに転がっている始末でした。


 この現象はやはり大気中のマナが関係しているようですが発生する場所は限られているようで、特に近場に川や池などの水気がない窪地に定期的に発生すると言われています。


 対処法はやはり何をおいても近づかないことに尽きるようです、一応より強い風の流れをぶつけることで一時的に無効化は出来るようですが万が一飲み込まれれば一気に致命傷を負うことから出来る限り避けることが賢明だそうです。


 避ける方法にしても発生する場所が限られている関係上地元の人から情報を集めればたやすく、また大抵は野生の獣が先に巻き込まれているためそういう死骸があるかないかを見て判断することもできるそうです。


 初見であった僕としてはインパクトが強かったのですが、こちらの世界ではただの風物詩ぐらいの扱いのようです。


 長々と書いてしまいましたが時間に追われている身ですので、このあたりで失礼いたします。

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