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六通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?


 暫く王国で過ごすうちに気づいたのですが、どうにもこの国の識字率は余りよろしく無いようです。


 元々魔法で意志の疎通ができてしまうためでしょうか、それとも腕や手首を動かす僅かな肉体労働すら厭うせいなのか文字を書くこと自体が好まれていないようでした。


 そのせいで経理関係は非常にガバガバで、物品の管理までも適当な有様でかなりの無駄が発生している状況にかつてのブラック企業の惨状が思い出されて頭が痛くて仕方ありません。


 仕方なく翻訳札を利用して単語と数字だけ独自に学んだ上で、かつて会社でしていたようにサービス残業で帳簿を作成し環境改善に取り込んだところ収益が倍近くに跳ね上がりました。


 皮肉にもあちらで強引に取らされた簿記等の資格が生きたようです、しかしこちらではきちんと評価してくださり一気に役員扱いを受けることができましたので嬉しい誤算でした。


 お陰で給金も増えて余裕ができたこともあり、徐々にですが魔術師様に恩返しが出来るようになりようやく人心地付くことができました。


 その魔術師様ですが魔法事態は非常に優れているのですが、魔法労働は需要と供給が釣り合っていないことと何よりフードを取って顔を見せることを頑固に嫌がるためか中々就職が上手くいっておりません。


 僕も未だに魔術師様の御尊顔は拝めておりません、それどころか時折発生する声も魔法で歪めているためか性別はおろか年齢まで全く把握できておりません。


 分かるのは肌が透明感のある綺麗な白であること、成人の自分と同じぐらいの身長から大人であるということぐらいでしょうか。


 そんな魔術師様も仕事が見つからないことで落ち込み気味ではありますが、とりあえず今の自分なら二人分の生活費ぐらい何とか負担できるのでこのまま職が見つからなくても養い続けるつもりです。


 何せ初めて出会った時から命の恩人であり、累計すると既に20回以上は助けていただいた恩がありますから当然のことだと思います。

 

 そういえば前回書いた、魔術師様との出会いについてですがあれは魔術師様が召喚魔法で僕を呼び出したのだと後で教えてもらいました。


 訳あって生まれ育った村を後にした魔術師様は荷物持ちが欲しくて丁度良い相手が出てくる魔法を唱えたところ、身よりもなく死にかけていた自分が選ばれたようであります。


 当時完全に精神が死んでいた僕は異世界に飛ばされる前から現実味を失っていたこともあり、何の抵抗もなくその事実を受け入れました。


 そして言われるがままに魔術師様の後をついていくことにしたのです。


 その後は異界の見たことも聞いたこともないような風景や現象に触れ、文字通り死にたくなるほどの苦痛に見舞われ、仕事のプレッシャーから解き放たれた解放感を味わい、心がだんだんと生き返っていくのを実感しました。


 全て魔術師様のお陰であり、僕は呼び出されたことも含めて感謝しかありません。

 

 これからもできる限り魔術師様の力になっていきたい、それが今の僕の生きがいです。


 何やら自分語りのようになってしまい申し訳ありませんが、そのような経緯で僕はここにいる次第でございます。


 ようやく手紙も自費で購入するようになり長々と書けるようになった矢先にこのような駄文を書き連ねてしまい申し訳ありません。

 

 さて今回はこのぐらいにしておこうと思います、生活がある程度安定してしまいましたから手紙自体はいつでも出せるのですが余り頻繁に送っても迷惑かと思いますので変化がまで控えようと思います。


 もし次に送る際は、せっかくですので僕が目にしてきたこちらの世界特有の出来事について詳細に報告してみようかと考えています。


 それでは失礼いたします。

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