五通目
前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?
前回街中は安全だと書きましたが訂正いたします、意外と治安が悪く盗賊も居ればゴミ溜めから魔物も発生しております。
この世界に安心できる場所はないのだと文字通り痛いぐらい実感させられました。
魔術師様が前に渡してくれた護身用ブザーがなければ間違いなく死んでいたでしょう、あの方には足を向けて寝られません。
そうそう、雇用の件ですがとりあえず肉体労働で雇っていただくことが出来ました。
こちらの世界では魔法で何でもこなすのが主流で滅多に肉体労働は必要ではないのですが、逆にたまに需要が発生しても疲れるし危険だと倦厭され誰一人やりたがらないというのが現状だそうです。
僕としては魔術師様の荷物持ちをやらされていたこともあり体力的に問題はなく、お陰様で何とか日銭を稼ぐことができております。
今はまだ自分の生活費だけで精いっぱいですが、いずれは魔術師様の負担を少しでも軽くできればと思っている次第でございます。
魔術師様も今は街中でふさわしい仕事を探しており、当面はやたら危険な王国の外に出るつもりはなさそうです。
さて余白も少なくなってまいりました、最後に僕がこの世界に来たときのことを書いてみようと思います。
あれはちょうどブラック企業への通勤中の出来事でした、ストレスでボロボロだった僕は既に思考も定まらず条件反射的に足を動かしておりました。
そんな最中、急にトラックの荷物が歩道へと滑り落ちてくる轟音に気づきました。
どうやら道路に飛び出した子供を見て咄嗟に急ブレーキをかけたために、荷台に積んだ鉄筋が崩れ落ちてきたようでした。
動こうと思えば動けたのでしょうが、僕はその時このまま押しつぶされれば会社に行かなくていいと考えてしまい動けなかったのです。
降り注いだ鉄筋は僕の身体を押しつぶし、余りの痛さに反射的に目を閉じたところ唐突に辺りが静かになりました。
不思議に思い痛みをこらえて何とか目を開いたところ、何故か木々が生い茂る森の中でフードを被った怪しげな人間がこちらに駆け寄ってきたのです。
そして即座に回復魔法をかけてくれたその人こそが魔術師様でしたが、この続きはまた今度にしたいと思います。
本当にぎりぎりになってしまいました、次はもう少し配分を考えて書いていきたいと思います失礼します。