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四十七話

 前略、皆さま方いかがお過ごしか?


 すまない、まだこの日本語とやらに慣れていない。


 無理やり魔法で翻訳してるから、読みづらかったら申し訳ない。


 あの馬鹿は……旦那様は書けないから私、今までの手紙で魔術師様と呼ばれていた私が書いている。


 あの馬鹿の戯言にずっと付き合ってくれていた相手だ、なら最後の手紙を書くべきだと思って記している。


 つまらない内容かもしれないが、付き合っていただけたら幸いだ。


 さて何から書こうか、悩むところだが……やはり最初から書くべきだろうな。


 多分結婚式のことまではあの馬鹿が書いていたと思う、あの日は一日中本当に緩み切った顔をしていたから書かないはずがないな……思い出しても腹が立つ人を初心だと笑いおって、自分とて経験のない下手くそだったではないか。


 まあそれはどうでもいい、その後のことだが私たちは魔獣のことを置いて一旦北上した。


 手に入れた至宝の指輪と帝国で見つけた魔法陣を組み合わせることで威力が跳ね上がることは知っているか?

 

 そして筆の至宝によって指輪を好きなだけ増やせることも知っているなら話は早い……要するに人の数を増やせば増やすほど私たちの魔法は二次関数的に威力が跳ね上がる。


 だからあの……確かこの手紙ではリースと書いていたな、彼女が収めていた国に協力を仰げばすさまじい威力になりえると考えた。


 むろん協力を得られるかはわからんが、あの魔獣は世界の脅威だから処理する手段は多いほうがいい。

 

 現在あの国を治めている王様と第二王子に話を通しておこうと思って移動していた、ついでにそのまま北上して違う国の至宝を集めることも考えていた。


 戦力は多いほうがいいからな……だがどちらも上手くいかなかった。


 魔獣が海の上で隕石を降らせたのだ、大津波が襲って海の向こうの大陸も沿岸部は全滅した……うむこれは余談だな、話を戻そう。


 隕石は当然あの国からも観察できていた、脅威は伝わっていると思った。


 しかし第二王子は話を聞いてくれたが王様は断った、今は復興支援で忙しい上に前回の戦闘の傷も癒えていない中で住人にもう一度戦闘に協力しろなど言えないというのだ。


 リースと……確かこの手紙ではジークだったな、あの二人が申し訳なさそうな顔をしていたな。


 全く私の仲間は無駄に気負う輩ばかりだ、あの馬鹿もそうだ……本当にあの馬鹿め……馬鹿だ、すぐ約束を破る大馬鹿だ。


 すまない話を戻そう、仕方なく私たちは至宝を集める旅を続けたが他の国は逆に隕石を危機に思い至宝で武装していた……話など聞いても貰えなかった。


 どうやら前に姉の呪死行軍で犠牲が出ていたらしい、警戒するのも無理はない……責任を問うのならそれこそ姉を追い詰めた私に咎がある。

 

 それを言うと皆困った顔をするから言えなかったがな、特にあの馬鹿が辛そうな顔をするから……馬鹿のくせに。


 とにかく私たちは助力は愚か至宝を集めることもできなかった、戦力の補強に失敗した。


 だから次の方針を探した、私たちだけで魔獣と戦うか……私の探知魔法で逃げ続けるか。

 

 まあ逃げたところで僅かに延命するのが落ちだがな、それでも……皆と共に在れる時間が少しでも長引かせられるならそれでも良いと思った。


 けれども結局私たちは戦うことを選んだ、あの馬鹿がこんな幸せな時間をずっと続かせたい……一緒に夫婦として過ごしたいなどとほざくから私はその気になってしまった。


 事前に準備を済ませて、確か手紙ではクー殿とめーちゃんにレイ、いーちゃんにこーちゃんだったかな……わかりずらいな。

 

 彼女らに増やした至宝の筆を渡した、筆自体も増やせたからな……それであの馬鹿の指示で森林の中に陣取り片っ端から木々に魔法を反射する盾の効果をつけていった。


 ついでにマナを共有する指輪も強引にねじ込んだ、流石に魔法陣での魔力強化までは出来なかったが強引に盾として機能させることは成功した。


 この場所なら私の魔力が尽きない限り、木々が物理的に崩壊するまでは魔法を跳ね返し続けられるからな……本当は鎧の効果も付加したかったそうだが一つの物体には一つの効果しか付加できなかったのだ。


 最もどちらも隕石の前では虚しい限りだが、とにかくあの隕石を攻略しないことには話にならない。


 あの馬鹿は考えた、必死になって考えていたよ……私が無能でないと言ったから無能でない僕なら絶対に思いつくと断言してな。


 ずっとそうだ、あの馬鹿は私の言葉を何でも無条件に信じる、受け入れる……その癖肝心な約束だけ破り続ける、酷い男だ。


 どうしても脱線してしまうな、すまない……全部あの馬鹿のせいだ。


 とにかくだあの馬鹿は考えて考えて……何とかする方法を提示した。


 傘を差せばいいという、姉が呼び出したようなゴーレムを使うのだと。


 隕石をどのような原理で降らせているかはさておくが、宇宙から流れ星のように降り注いでくるのは事実だ。


 そして重力にひかれて速度が上がるからこそぶつかった際の衝撃が強くなるのだから、その隕石を地上に落とさなければいいと……手前で何かにぶつけてしまえば弾けるかもしれないし破裂させてしまえば少なくとも自分たちのところには振ってこない。


 だから分厚く横に広げたゴーレムを出来る限り上空……できれば宇宙辺りまで飛ばしてしまえというのだ。

 

 無茶を言うやつだ、大体どうやって浮かせておくのだと言ったら奴は飛行魔法を使った至宝の杖を突き立てておけばいいと言った。


 どうせ杖は増やせるのだから一つじゃ壊れたら怖いから無数に作っておけばいいと、ゴーレムの傘も同様に何十にも打ち上げてやればいいと言ったのだ。


 空を飛ばす際に問題になりえるドラゴンも今の私たちなら、そして魔獣にとっても敵ではない。

 

 その日から私たちはまるで風船を飛ばすかのようにゴーレムの打ち上げに掛かった、当然太陽の日差しも来なくなりそうだから出来る限り透明に加工した奴を飛ばせと……本当に無茶を言うやつだ、魔法を使うほうの身にもなれ。


 まあそうして準備しているうちに、他の大陸を飛び石のように伝いちょうど円を描くような動きで北から魔獣は迫ってきた。


 ほとんどの大陸の人間が死んだと思う、この大陸もリース達の王国とその付近のいくつかを残して全滅したはずだ。


 姉の愚行がここまでの被害を引き起こすとは……あの馬鹿は剣を使って魔獣を生み出した自分のせいだと責めていたようだがどう考えても姉と私のせいだ。


 仮にあの剣を使わなかったとしてもその場合は姉が私以外の人類を滅ぼしていたはずだ、ならまだ生き残りが居る時点で今のほうがマシだろう。


 だけどあの馬鹿は私のせいではないと否定する、皆もあの馬鹿に同意した……皆、私に甘すぎる。


 でも責任は取らないといけないだろうと思った、魔獣騒ぎが収まったらどんな形であれ償いはしなければならないと思った。


 あの馬鹿はついて歩くと言った、隣で私を支えると言ってくれた……だから私は安心したんだ、なのに……嘘つきめ。


 そして戦闘が始まった、この世界の存亡をかけた……私たちの旅の終焉になる戦いが始まった。


 いや戦いなんて呼べるものではなかった、あれはただの蹂躙だった。


 事前に準備していたからこそ虐殺にはならなかった、だが無様なものだった。


 奴はあらゆる魔物の能力全てを持ち合わせていた、姉よりも強固な身体能力を有していた、人間の知性も持っていたのか……言葉を発した。



 悉く滅ぶべし……人間も異種族も魔物も知性の有無は愚かこの世に存在する全てが滅ぼす対象だ


 

 姉の意志、ではないだろう……かといって他の生き物の意志でもないだろう。


 あれは何だったのか今でもわからない、魔獣とは何なのか……奴が泣き声をあげると空中からスライムが雨のように産み落とされた。


 ジークが叩き潰しリースが跳ね返し、その隙に私たちは必死に凍らせて回った。

 

 至宝の杖は二百以上作って半分を防御魔法に、半分を回復魔法に当てた。


 それでもなお魔獣が目に見えない速度で尻尾を薙ぎ払うと唯一反応できたジークが受け止めて瀕死になって意識を失った、多分ジークが威力を減衰していなければそれだけで我々は全滅していた。


 魔獣が全ての口から同時にドラゴンのブレスを一か所に集中して放った、木々が反射してまっすぐ魔獣にぶつかったが傷一つ付かなかった。


 魔獣が叫ぶと宇宙まで届きそうな規模の凄まじい渦巻きが生み出された、大地がドリルで削られる勢いで板のように剥がれていき私たちに降り注いだ。


 リースが必死で叩き落とした、私達も暴風魔法で竜巻を生み出したが僅かに勢いをそぐことしかできなかった。


 襲い来る土砂を受けて周りの木々がどんどん崩れていき魔法を跳ね返す力を失っていった、渦巻きが迫ってきてリースが反射的に盾の効果がある槍を束ねてぶつかりに行った。

 

 槍は全て圧し折れてリースは全身がねじ切れて、回復魔法のお陰で命こそつないだが意識を失った。


 お陰で渦巻きは跳ね返り魔獣に直撃して、だけど傷一つ付かなかった。


 魔獣の瞳が全て上を向いた、怪しく輝いて私たちは咄嗟に目を背けた……空のゴーレムたちの悲鳴が聞こえてきた。


 隕石は止められた、だけど一時的だった……どんどんゴーレムが減っていくのを感じていた。


 私たちは全員で氷結呪文を紡いだ、山より大きい魔獣の全身が凍り付いた……一瞬で砕かれて破片が私たちを襲った。


 こーちゃんをかばったレイの身体が真っ二つになった、回復魔法で即座につながったが衝撃で二人とも気絶してしまった。


 いーちゃんは二人に泣きついて号泣して気を失った、私とクー殿とめーちゃんは三人で炎を巻き起こして降り注ぐ氷の刃を溶かしていった。


 あの馬鹿は……旦那様は無力さを嘆いていた、この状態で魔法を使えず近接戦闘の技術も低い役に立てない自分を責めた……やはり無能だと泣いた。


 ここまで戦えたのは……いや誰も死んでいないのは旦那様が対策したからなのに、だから私はそんなことはないと頼りにしていると言った……言ってしまった。


 私にそう言われたら旦那様が答えないわけないのに、どんな状況でもどんな無茶でもやってしまう人なのに……頼ってしまった。


 魔獣が咆哮を上げた、全ての魔法が効力を失った……幾ら魔力をつぎ込んでも駄目だった。


 ドラゴンの咆哮より遥かにすさまじい分解力だった、地上の全ての杖が効果を失ったが上空にまでは届いていないようでゴーレムは落ちてこなかったのが救いだ。


 唐突に周りに桃色の霧が発生した、まさかと思ったが炎の雨が降り始めた。

 

 クー殿が咄嗟にめーちゃんを抱きかかえるのと同時に炎が彼女たちの身体に当たり、強引に服を脱がせて対処したが二人とも気絶してしまった。


 風の流砂があちこちに発生してあらゆるものを引き裂いていた、何とか皆を安全なところに引っ張っていこうとした……安全なところなどなかった。


 魔獣が分解したマナが複数の現象を同時に引き起こした、魔法はまだ使えない……お終いだった。


 旦那様が口を開いた、もし魔法が使えるようになれば大型のゲイトを生み出せるかと……魔獣を飲み込むほどのゲイトを作り出せるかと。


 出来るはずだった……だけど旦那様が考えていることが分かってできないと言った。


 ゲイトが送れるのは最初に投函したものか、本人が直接持って入ったものだけだ……どうにかして咆哮を止めさせてあの魔獣ごとゲイトに飛び込んで魔獣を連れて旦那様の世界に飛ぼうというのだ。


 自分と自分の生まれ故郷を犠牲にしてでもこの世界を、私たちを助けようというのだろう。


 この手紙を見ている者からすれば飛んでもない話だな、旦那様に代わって私に謝罪させてほしい……すまない。


 だけどそんなことをさせる気はなかった、旦那様を一人犠牲にして生き残りたくなかった。


 こちらの世界のことを考えた、仲間の生死も考えた……だけど私は旦那様と離れたくなかった、隣に居たかった。


 ただの我儘で私はこの世界を見捨てることにした、仲間を見捨てることにした……多分仲間は私の選択をわかってくれると思う。


 旦那様に一緒に逝こうといった、最後まで一緒にいてほしいと言った……旦那様は一緒にと呟いて何かに気が付いたように私を見て、微笑みながら優しくキスをしてくれた。


 そして、一言ゴメンといって私を突き飛ばすと……魔獣に向かって走り出した。

 

 私が手を伸ばす中で旦那様は魔獣に接近した、何故か魔獣は旦那様に攻撃しようとはしなかった。


 そういえば旦那様は最初からジークやリースと並んで前線に居たのに一度だって狙われなかった、魔獣は最初から一度だって旦那様を狙っていなかった。


 これは推測に過ぎないが魔獣はマナを目指して攻撃していたのではないかと思う、海の向こうの大陸から大陸へ的確に移動を繰り返したのもマナを目指したからではないのかと。


 指輪で旦那様もマナを共通はしているはずだが身には宿したわけじゃない、マナが元々ない旦那様を魔獣は認識できないのかもしれない。


 だけどそれがどうだというのだろう、あの巨体でドラゴン以上の硬さと回復力を持っている魔獣を旦那様一人でどうやって倒せるというのだろう。


 わからない、だけど私は少しだけ嬉しかった……これなら旦那様は生き残る可能性があると思った。

 

 それがどうしようもなく嬉しかった……旦那様と一緒に死ねないことは悲しいし寂しいけれど良かったと思った。


 元々私が勝手に呼んで巻き込んだのだ、この世界で暮らしていて多少なりとも利害の一致があった仲間たちと違い旦那様だけは私が強引に巻き込んだのだ。


 しかもゲイトを利用すれば帰還させれることを知っていて、旦那様が聞かないことをいいことに黙っていた。

 

 我ながら身勝手な女だと思う、そんな我儘な女に付き合い続けてくれた旦那様の……せめて残る人生に幸が在らんと私は祈った。


 本当に私は馬鹿だと思う、旦那様が私をおいて逃げるわけがないのに……私を助けるために命を投げ捨てないわけがなかったのに。


 旦那様は最後に私に一度だけ振り返ったと思うと笑いながら、全身に空いている口の中から脚部についているものを見つけると……口の中に飛び込んだ。


 口の一つが物を飲み込んだためだろう、魔獣が咆哮を止めた。


 私は無意識のうちに杖で皆を回復した……周りの現象を打ち消しながら皆を集めた。


 だけど虚しい抵抗だった、旦那様もいない今この行為に何の意味があるのだろう……私はただ旦那様が消えていった口を見つめていた。


 魔獣が私に迫ろうとした、一歩一歩と歩くたび……苦しそうな悲鳴を上げた。


 ドラゴンのブレスが吐き出された、だけど妙に威力が低かった……私は無事な杖をかき集めて防壁を無数に張って凌いだ。


 魔獣が炎を吐き出した、大地が融解するほどの熱気はなくて表面を焼くだけだった。


 魔獣が渦巻きを生み出した、私でも作り出せるような大きさだった。


 魔獣がどんどん弱くなっていった、明らかにマナの総量が減っていった。


 旦那様は何をしているのか、旦那様に何ができるのか……何故体内に入ったのか……私は必死で考えた。


 旦那様が持っている至宝の数々、私たちが持っている至宝の数々、違いと言えば何でも切り裂ける剣ぐらいだろうか。

 

 いや何か忘れている気がした、何か思い出したくないことの気がした……必死で思い返した。


 旦那様と初めて会った時のこと、初めて魔物の潜伏虫にやられた時のこと、それからの冒険の数々……姉のこと。


 そこで私はようやく思い出した、私の旅のきっかけとなった至宝のことを。


 相手の体液を入れて飲み干せばマナと寿命の総量の半分を強引に吸い上げる聖杯、使用回数に制限はないし飲む体液は何でもいい、唾液でも精液でも……胃液でも。


 魔獣が弱っていく、寿命を失いマナを奪われ悲鳴を上げる。


 その姿は本来の魔獣の在り方だった、ドラゴンから吸い上げたマナで強引に持たせていた身体が……崩れていった。

 

 まるで現実味のない光景だった、今までの攻防もだがあれほどの猛威を誇った魔獣が力なく大地に横たわっているのだ。


 私は立ち上がるとふらふらと魔獣に近づいた、そして声をかけた……身体を切り裂いて旦那様を探した。


 気が付けば意識を取り戻した仲間が集まっていた、私は多分泣きわめきながら事情を説明したのだと思うがよく覚えていない。


 ただ必死で魔獣を解体した、旦那様を探して皆でバラバラにして……そしてまるで原型を留めていない旦那様を見つけた。


 私と交換した指輪が聖杯と一緒に落ちていた、私は変わり果てた旦那様を抱き上げて今度こそはっきりと泣いた。


 それが私たちの最終決戦の顛末だった、結局私は何もできなかった……全部旦那様に頼ってしまった。


 全てが終わった後は何やら風が通り過ぎるみたいにあっさりと物事は進んでいった。


 まずスライムを氷漬けにした状態で慎重に対消滅させた、ぴったりいなくなった。


 次に私たちは国を作ることにした、このような悲劇をもたらしたものとして責任を取るべく万が一にも魔獣が生き返らないよう見張りもかねて死体の近くにだ。


 あいにく魔獣が地盤を荒らし切っていたので平らにするのはむしろ簡単だった、余りまくっている杖を魔力が流れる防壁に突き立ててどこからでも魔力を流せば全周囲に攻撃できる防壁が誕生した。


 もう魔物も見ないしやりすぎかと思ったら、どこに隠れていたのかまた魔物が暴れだすようになった……旦那様が大好きだった音食馬も来るようになった。


 ジークとリースの弟がいる国と交易が始まった、第二王子がついに政権を取ったらしく関係は良好だ。


 移民もやってきた、やはり悲劇の責任者として出来る限り受け入れたが始まりの八人として私たちが国のトップとして扱われてしまった。

 

 しかしジークとリースは政治は嫌だとよく旅に出てしまう……この怠け兄妹が。


 結局政治はレイがメインで行っている、サポートはクー殿とめーちゃんだがクー殿も最近は隠居したいと言ってよく私の元に来ては手を休めているためにめーちゃんが一手に引き受けている状態だがとても評判がいい。


 いーちゃんとこーちゃんは獣人ということで成長が早いのか、今ではもう見た目も精神年齢もレイに並んでいる。 


 いーちゃんはめーちゃんの言うことをよく聞いて、国内に設立した学校の教師として自分より齢が上の人たちに読み書きや基本的な四則演算などを教えている。


 こーちゃんはジークとリースと一緒に出かけたかと思えば、国内で遊戯施設を作って遊ぼうと予算を求めてめーちゃんといーちゃんに叱られてはレイに甘えている。

 

 そんなこーちゃんはたまに彼氏と言って男友達を連れてきては私といーちゃんの目を白黒させる、まあただのお友達なのだけれども余り母を驚かせないでほしい。


 恋愛事情で言えば第二王子は兄と姉も認めるぐらいのいい男になった、自国内はおろかこちらの国でも憧れている人が多い。


 しかし彼はレイ一筋のようで毎回告白しては振られることを繰り返している……がレイも内心まんざらでもないらしいがむしろ自分が釣り合わないのではと努力を重ねているようだ。


 いーちゃんはお父さんのようないい人に出会うまで軽々しく恋愛なんかしないと言っている……あれをいい男と言うとは私譲りで男を見る目がない。

 

 めーちゃんは口には出さないが多分ジークにあこがれていると思う、絶対にお勧めしないがクー殿は聖杯を使えば寿命も関係なく一緒に生きていけるから年齢差婚しても問題ないんじゃないかと言っているが……やめたほうがいいと思う。


 そんなジークだがよく旅先で生き残っていた異種族に文字通り絡みつかれたりして婚姻を迫られているが全て断って逃げているようだ、心に決めた想い人でもいるのだろうか……こればっかりはわからない。


 クー殿は無き旦那に操を立てているようで再婚の気配はなく子供たち全員をやさしく見守っている、私も色々とお世話になっているので頭が上がらない。


 最後にリースだが美しすぎる上に余りにも凛々しすぎるのか一時期は全く男っ気がなかった、そして最近は恥も外聞も捨てて彼氏が欲しいと公言するようになり……がっついているせいでやはり男っ気がないようだ。

 

 お陰で最近は女同士でもとぼそっと呟いて私を意味深に見てきた気がする……流石に冗談だと思いたい、私はこれでも人妻だ。


 そうなのだ、私はまだ未亡人ではない……旦那様は赤ん坊だけども。


 マナの飲みすぎで寿命が伸びすぎたせいだろうか、それともマナがないのに強引に吸収しすぎたせいだろうか……旦那様は赤ちゃんにまで若返ってしまった。

 

 最も記憶ははっきりしているようで執拗に授乳を求めてくるくせに杖を持ったらすぐにミルクに吸い付いた……本当に胸に目がない男だ。


 全くずっと付けていると約束した指輪もこの指ではまだ身に着けることもできない、私を隣で支えると言ったのに腕の中で私に抱かれていてどうする気なのだろうか。


 夫婦として一緒に過ごすとも言ったがその身体でどうやって夫婦生活をするつもりだ、ついて歩くとも言ったが……まあ最近は確かに後ろをついて歩いてばかりいるな。

 

 本当にこの馬鹿はあと何年私を待たせる気だ、まあどうせ寿命は聖杯で分け合った身だから何年でも付き合ってやるが大きくなった暁には真っ先に……杖でひっぱたいてやる覚悟しておけ。

 

 そういうわけでこの馬鹿は筆を持つにも持てない身体になり果ててしまったので私が代筆した次第だ。


 大きくなるまで待たせるのもどうかと思うから……おそらくこれが最後の手紙になる。


 いやあるいはこの馬鹿が大きくなれば何か書くかもしれないが、少なくとも暫くは何もないはずだ。

 

 私が締めくくるのもどうかと思うが長らくのお付き合いに感謝する、では失礼する。

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