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四十五通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?


 この間から余り時間がたっておりませんが報告したいことがあって筆を執らせていただきました。


 僕は世界で一番幸せ者かもしれません、もう何も後悔はありません……この先何が起ころうとも。


 今回は本当に私的な報告でしかなく、魔獣に関する話は何もございませんがよろしければお付き合いお願いいたします。


 それは大陸を北へ北へと昇っていた途中の話でした、ある滅んだ村を見つけ一応至宝があるか確認していた時のことです。


 村の一角に教会を見つけました、どうやら旅の人の宿を兼ねていたらしくそこそこ広く頑丈に作られていたために内装も外面もほとんど崩壊しておりませんでした。 


 とはいえその時は全く興味もなく、僕と魔術師様は先に進もうとしたのですが何故か他の皆が中を探索しようと言い出したのです。

 

 ここに何かがあるとは思えなかったのですが何しろ七対二ですから僕と魔術師様は首を傾げながら探索に参加することになりました。


 当然いつも通りに分かれて僕とジーク様は中へと入っていきました。


 すると何故かジーク様はある部屋に僕を引きずり込むと、持ってきたバックから妙な衣装を取り出しました。

 

 真っ白なタキシードによく似た形の衣装でした、早くそれに着替えろとジーク様はにやにや笑いながらおっしゃるのです。


 この時点で大体のことが見当がついた僕でしたが、本気ですかと尋ねるとお前ら二人以外全員なと答えられました。


 どうやら前に僕らを二人っきりにしたときに話し合っていたようです、こうなると先ほどと同じく多数決の原理で逆らえるはずがありません……逆らう気もありません。


 僕は生まれて初めてタキシードに着替えると、ジーク様が鉱石を加工して作ったという指輪を持って緊張した足取りで礼拝堂へと向かいました。


 まだ誰も姿を現しておらず、ほっとするやら残念やら複雑な心境でそわそわしながら椅子に座ったり立ったりを繰り返しておりました。


 ジーク様は何度も落ち着けとおっしゃいましたが、どうして落ち着けるものでしょうか。

 

 ドキドキしていると不意に正面のドアが開いたと思うとそこそこ身支度を整えたクー様とリース様が先導して入ってきます。


 そしてその後ろから……世界で一番美しい女性が入ってまいりました。


 裾の長い白いウエディングドレスに身を包み、恥ずかしそうにうつむいていた魔術師様はだけど抵抗することなく引っ張られてこちらに向かって歩いてきます。


 後ろから双子とめーちゃんが裾を持ち上げて歩いてきます、こちらも軽く正装していて可愛いことこの上なかったのですが申し訳ないことに僕は魔術師様のことしか目に入りませんでした。


 リース様とクー様は僕の元へ魔術師様を連れてくると後は任せたとおっしゃい、近くの席に座ってしまいました。


 その際にお二人が普段と変わらない格好をしているジーク様を咎めておりましたが、そんなことすらろくに耳に入ってきません。

 

 僕はもうドキドキを隠すこともできずろくに言葉も発せずに、魔術師様を見つめておりました。


 すると魔術師様が震える声で何か言えとおっしゃいます……僕は反射的に素敵ですと答えました。


 魔術師様の手が持ち上がり殴られるかと思いましたが、その手はしずしずと僕の目の前に力なく差し出されました。

 

 僕は宝物を頂くように優しく手に取ると、気が付けば壇上で無駄に偉そうに胸を張っているドレス姿のレイ様の元へ向かって歩きました。


 レイ様が適当に愛を誓うがよいとおっしゃいます、僕は何も考えていなかったので困ってしまいましたがとりあえず魔術師様と向き合いました。


 魔術師様はベールで包まれたご尊顔をずっと恥ずかしそうに伏せてしまっていて、ただ長く伸びる耳が真っ赤なことから顔中真っ赤なのだろうと伝わってきました。

 

 どうしても顔が見たくて、僕はベールを持ち上げて顔を持ち上げました……魔術師様は抵抗することなくこちらをまっすぐ見つめました。


 本当に顔中が真っ赤でした、白い肌に良く映えると思いました……瞳を潤ませながらも口元に隠し切れない笑みがこぼれている姿はとても魅力的でした。


 気が付けば僕は愛していますと口にしていました、結婚してくださいと慌てて付け加えました。


 そうよく考えたらプロポーズもしていませんでした、というか交際期間ですらこの間の告白から換算しても一か月程度です。


 魔術師様が黙り込んでいて、思わず強引に付き合わせてしまったかとか本当は嫌だったんじゃないかとか瞬間的に不安が恐ろしいぐらい湧き上がりました。


 特に魔術師様が瞳から涙を零した時はしまったと思いました……けれど魔術師様は嬉しそうに頷いて、私も愛していますと口にしてくださったのです。

 

 天にも昇る気持ちとはまさにこのことでしょう、僕は生まれてきて良かったと……この瞬間の為に生きてきたのだとはっきり悟りました。


 頭の中が真っ白になって何も考えられませんでしたが、レイ様が指輪の交換じゃとおっしゃってくれて僅かに正気に戻りました。


 それでもまだ雲の上にいるようなふわふわした心境で現実味がまるでありませんでしたが、慌ててジーク様が渡してくださった指輪を取り出し……魔術師様の薬指にはめさせていただきました。

 

 少しだけサイズが緩かったのはまあご愛敬です、魔術師様は嬉しそうに左手の薬指に光る指輪を眺めました。


 レイ様が先を促さなければいつまでも見惚れていたと思います、魔術師様も普段の冷静さはどこに行ったのかバタバタと指輪を取り出して僕の薬指にはめて……こっちはちょっときつくて強引に押し込まれました。


 まあ入ってしまえば気にはなりません、魔術師様が付けてくれた結婚指輪は僕の目には輝いて見えました。


 最後にレイ様が誓いのキスじゃとおっしゃいます、魔術師様が再度恥ずかしそうに顔を伏せてしまいました。


 僕は魔術師様が恥ずかしいならと言ってみましたが、レイ様がだめじゃとおっしゃいました。


 いやでもと燻っている僕に向かい、魔術師様はふいに顔を向けられると目を閉じて顔を突き出されました。

 

 ここまでしてもらってヘタレるわけにもいきません、僕はみんなが見守る中で魔術師様に……口づけいたしました。


 皆から歓声が上がり、同時に拍手が聞こえてきました……そんな中で僕たちは長々とキスし続けたのでした。


 最後にレイ様がどこに持っていたのか花束を渡すと、ブーケを投げるのじゃとおっしゃい自分も壇上から降りて待機するのでした。


 恐らく前に僕から聞いた話を中心に考えたサプライズ結婚式だったのでしょう、ただひたすら僕は嬉しくて幸せでした。


 魔術師様も嬉しそうに微笑むと、力いっぱいブーケを皆に向かって投げたのでした……誰が拾ったかは言わないでおきますがクー様とジーク様以外は結構真剣に拾いに行っておりました。


 その後はお酒、はまだちょっとまだ嫌な記憶が抜けきっておりませんでしたので普通の食事と飲み物でお祝いをしてくださいました。


 少しだけ冷静さを取り戻した魔術師様がこんなことを黙って準備していたことを軽く咎めます……だけど口元に笑みが隠しきれていない上に指輪を大事に握っていることから誰も気にしてくれません。


 僕はみんなにありがとうと素直にお礼をいいました、ものすごくうれしかったと。


 何より魔術師様の衣装はとても美しく似合っていて、どうやって用意したのか気になりました……どうやら手作りのようです。

 

 魔術師様も僕の衣装を褒めます、馬子にも衣裳だと……こういう時ぐらい素直に褒めてほしいものです。


 でもまあそういうところも可愛くて魅力的なんですよと口にしてみたら、何処から取り出したのか杖で軽く小突かれました。


 白いウエディングドレスに髑髏の杖は何というかミスマッチというか逆に似合っているというか不思議な光景でした。


 そんな魔術師様に僕は二度とこの指輪は外さないと誓いました、魔術師様の旦那様でいると約束しました……魔術師様も恥ずかしそうに指輪を握り締めて頷きました。


 その日は一日中からかわれ、持てはやされ、ちやほやされ……そして二人っきりの初夜を過ごさせていただきました。


 詳細は語りません、語るものですか……こればっかりは僕と魔術師様だけの秘密です。


 ただ次の日は魔術師様の歩き方がとても変な具合で皆からニヤニヤと笑われたことだけは記しておきたいと思います。


 こちらの世界に来て僕は本当に幸せでした、皆と……何より魔術師様と出会えて僕は幸せになれました。


 だから今度は僕が魔術師様を幸せにしてあげたいと思います、皆からも僕に出会えてよかったと心の底から言ってもらえる人間になりたいと思います。


 本当に自分語りばかりですみませんでした、では失礼いたします。

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