四十四通目
前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?
あれから数か月が過ぎました、未だに僕たちは生きております。
一応最終決戦に向けて努力を重ね切磋琢磨しておりますが、まだ決め手を一つしか思いついていない次第であります。
そう僕はふと前回の手紙を書き終えた際に一つだけあの魔獣をどうにかする方法を思いついたのです、ですがそれは禁断の手段ですので出来ればしたくありません。
そもそも僕一人の力ではできませんし色んな人に迷惑をかけてしまいます、きっとみんなに話してもこの方法は許されないでしょう。
だから本当にどうしようもない時だけ、ジーク様かリース様に相談してみようと思います……僕が確実に犠牲になる関係上魔術師様には相談できませんから。
まあこの話は置いておいて前の手紙から変わったところを書いていこうと思います。
まず前回の痴態のことですが、次の魔獣対策会議における第一声で封印することが満場一致で可決されました。
みんなあの日のことは忘れることにしたようです、すぐは無理でしたが今では前とほとんど変わらない関係に戻っております。
まあそれはともかくとして次に僕たちは、滅んだ王国を回り巡って至宝を六つ回収することに成功しました。
入手の経緯は指輪を見つけたときとほぼ一緒なので省きます、手に入れたものは剣、盾、鎧、兜、靴に筆が一つずつでした。
順番に説明していきます、一つ目の剣は何でも切り裂ける剣でした。
刃が触れると一切の抵抗もなく、どんなものも滑らかな断面を残し切断されるのです。
しかも周辺のマナを勝手に吸って効果を発揮しているらしく僕でも使うことができました、ただし魔法を無効化するほどの力はなくあくまで物理的に触れれるものしか切れないようでした。
おまけに鞘に納めておくこともできず抜き身で持ち歩かなければいけないのでかなり怖いです、また手を滑らすと大地にすっと刃が埋もれ柄しか見なくなります……まあ簡単に誰でも抜けてしまうのですけど。
一応これは僕が持つことにしました、恐らく魔獣の身体も切り裂けるでしょうけども魔法を阻害できない以上切りつけてもその場で回復されるのが落ちですのでそこまで使い物にはならなそうです。
次に盾ですがこれはマナを一定の流すことで、何と受ける魔法の威力に関係なく跳ね返せるようになるという素晴らしい一品でした。
ただ前に使っていた僕の剣と違い跳ね返すだけで無効化はできないことと、あくまで盾を当てて弾く必要があります。
やはり持ち主まで無効化の特性が付くあの剣は特別だったのかもしれません、ただこちらは持ち主は魔法を使えますし受けることもできます。
おまけに魔力を一定以上込めることで一時的に盾の端がオーラのようなものが出て面積を広げることができますから魔法を跳ね返すのはそこまで難しく無く、上手く跳ね返せば相手に打ち返すこともできます。
これは魔獣がドラゴンのブレスのような遠距離攻撃をしてくるようなら跳ね返して使えると思われましたが、物理的衝撃はやはり跳ね返せないので隕石には無力でしょうし仮に跳ね返してもダメージに繋がるかは微妙なところですが。
これは前線を張る人が持つべきかとも考えてジーク様かリース様に使っていただこうと思いましたが、後で他の至宝の効果が判明したときに持たせる人間は選ばなくて良くなりました。
その詳細は後で説明するとして次に鎧ですが、これは体内のマナが尽きない限り物理的ダメージをマナへのダメージへと転換してくれる特性を持っておりました。
要するに魔力がある限り一切傷を負うことがなく代わりに魔力を消費するのです、当然マナが無くなれば普通にダメージは入りますがマナ自体は薬を飲んで即時回復できるので結構有効かもしれません。
ただ当然受けるダメージに比例して消費するマナも増加するので、やっぱり隕石クラスの衝撃を受けては魔術師様の魔力でも耐えきれるかは疑問でした。
兜は情報処理能力の強化と言いますか、マナを注ぎ込むことで周囲の状況を詳細に伝えてきてくれる代物でした。
魔術師様の探知魔法より範囲は狭いですが性能は上で、例えば相手がどのような魔力を体内に練っているかやそれが解き放たれたらどれぐらいの威力を発揮するのかがわかるようになります。
さらに魔術師様クラスの魔力を注ぎ込むと、僅かにですが未来予測が可能になると言います。
最も自分の行動で結果が変わってしまうためか、精度は五十パーセントほどと高くはなくあくまで最悪の事態の回避にしか使えなさそうです。
靴は履いて立ち止まっていることでマナの自然回復量をすさまじく増強してくれるという代物でした。
兜を用いて詳細を調べるとどうやらこの世界の下側にあるというマナの大元から直接吸い上げているようで、ほぼ無尽蔵にマナを回復してくれるという代物でした。
とはいえ本人の許容量以上には回復してくれないので、鎧と合わせて全ての物理ダメージをカットとまではいかなそうです。
逆に言えば魔力の許容範囲の物理ダメージであれば無限に受け止められるようになりますが、やはり魔獣との戦いではそこまで頼りにならないでしょう。
とここまで説明しましたが、最後の筆が全てを一変させる恐ろしくもすさまじい性能でした。
最も単品では一番役に立たない代物なのですが……この筆は要するに物に魔力の効果を付加できる効果を持っていたのです。
どういうことかと言いますと決まった模様を物に書き入れることで、その模様に沿った効果が付与させることができます……要するに魔法の武具を無限に生産できてしまうのです。
しかし決まった模様というだけあって適当に書いても効果がないので職人でなければ使いこなすのは難しい、はずでしたが実物をお手本にその通りに書けばいいと分かり評価が一変しました。
お手本、そう即ち僕たちが持ち合わせている至宝です。
そこに描かれているマナの軌跡をそのまま書き写せば、どんなものにも同じ効果を付加できてしまうことが分かったのです。
至宝を無限に生産できる、そのことを知った時は流石に度肝を抜かれて……これは魔獣にも勝てるのではと興奮しました。
当然真っ先に上記に上げた防具を人数分生産しました、前回手に入れた指輪も人数分増やしました。
杖は百個ぐらい増やしました、まだまだ増やします……これと靴を組み合わせれば杖の数だけ魔術師様級の魔法を放ち続けられますから。
さらに指輪と鎧と靴の組み合わせで僕すら含めた全員が魔術師様の魔力以下の物理攻撃は一切喰らわなくなりました。
兜は使いこなすのが難しく元々探知魔法を使っていた魔術師様しか上手く扱えませんが、盾は全員使いこなすべく訓練しております。
何せ筆で描ければどんなものでも至宝にできるのですから、前線の二人は両手で武器を扱う関係上腕にはめ込める形に成形された小型の盾に効果を付加しております。
後衛の方に至ってはバットの要領で跳ね返せるよう長い槍に付加して脇に抱え込むようにしております。
調子に乗って武器の至宝もコピーしまくりましたが、こちらは使い手が居ないので結局放置してあります。
もはや一大革命と言わんばかりの勢いで戦力が強化された僕たちですが、しかし冷静になってみるとこれでもまだ魔獣に対する決定打がない事実が恐ろしい限りでした。
できればもう少し有利に戦えるようもっと至宝を集めて回りたいところですが、これ以上集めるには北のほうにあるまだ滅んでないであろう王国に行かなければなりません。
そこまでたどり着ければいいのですが、途中で魔獣に出会ってしまえばそれでお終いです……最も魔術師様曰く今魔獣は海の上で暴れているようですけども。
ですから僕たちは一応北のほうへ向かいながらも、万が一いつ魔獣と遭遇して戦闘になってもいいように戦い方を考えておりました。
その際に一度実戦に兼ねておこうとリース様がおっしゃいました、新しく増えた至宝を試す意味でも今まで戦闘に参加してこなかった皆に実戦の空気を味わってもらうためにも強敵と戦っておこうというのです。
しかし魔物なんて殆ど魔獣が駆逐している今、どうやって何と戦おうというのでしょうか……というとリース様はニヤリと笑ってドラゴンだと言いました。
驚きの声を上げる僕らに向かい、リース様は魔獣に勝つにはドラゴンぐらい倒せる実力がなければ話にならないとおっしゃいました。
全く持ってその通りです、おまけにドラゴンなら空さえ飛べば駆けつけてきます……魔獣に滅ぼされていなければですが。
皆色々と思うところはあったでしょうが、結局最後は覚悟を決めた様子で頷いたのでした。
そして魔術師様が飛行呪文を唱え、早速ドラゴンを呼び出しにかかりました。
凄まじい勢いでドラゴンが飛んできて、僕たちを暴風が襲います……しかし魔法によるものでなかったためその衝撃波は鎧の力で完全に無効にすることができました。
魔術師様がまず杖を用いて回復魔法を全員に対して唱えて大地に立てました、これで自動回復が続きます。
即座にジーク様とリース様が左右からドラゴンに切りかかります、ドラゴンはリース様に標的を合わせて爪を振り下ろしました。
魔術師様の魔力を共有しているリース様は剣を固く強化すると逆に爪を切り払い、打ち砕いてしまいました。
その隙にドラゴンの懐に入り込んだジーク様が思い切り脛を切りつけます、空気が重く震える振動が伝わりドラゴンが体勢を崩して倒れました。
そこに僕が駆け寄り首を切り裂こうとして、逆に素早く食い掛られてしまいましたがやはり傷一つつくことがありません。
むしろ好都合とばかりに噛みつかれたまま、顔面に剣を突き立てると何の抵抗もなくドラゴンの顔を切り裂きましたが切り抜ける傍から傷がふさがってしまいます。
ドラゴンの血にはすさまじい回復効果があると言いますが実際に目の当たりにすると脅威にもほどがあります、ドラゴンは僕を食いちぎれないことにいら立って首を振って僕を吹き飛ばしました。
思いっきり大地にたたきつけられた僕ですがぺしゃんこになることもなく無傷のままでした、そこに魔術師様がクー様、レイ様、めーちゃん、いーちゃん、こーちゃんと同時に合わせて同じ轟雷魔法を唱えました。
その瞬間天が裂けたような閃光と共に世界の終りのような轟音が鳴り響き、僕は一瞬世界を見失いかけました。
咄嗟にジーク様とリース様が飛びのいて逃げなければ巻き添えを食って消滅していたかもしれません、かつて魔術師様がお姉さんに放った時とすら比べ物にならない……いやお姉さんが使った魔法より遥かに恐ろしい威力でした。
これには魔術師様もとても驚いた様子を見せておりました、どうやら後で聞いたところによると帝国の地下で見つけた魔法陣を引いてみたところ指輪でマナを共有している六人分丸ごと強化されるという恐ろしい相乗効果を発揮した結果のようでした。
哀れなことにドラゴンは完全に炭化して力なく崩れ去り、風に乗って散っていきました。
僕たちは何とドラゴンを正面から退治できる程に強化されてしまったのです、初めて生き物を殺した子供たちは少し複雑そうでしたがそれでも実力のほどがわかり嬉しそうでもありました。
逆に接近戦組は囮ぐらいの活躍しかできず、特に僕など飛ばされていただけでしたので何とも言えない気持ちになりました。
またリース様は、実はドラゴン退治に憧れていたようでどうしても自分の力で止めを刺したいと珍しく駄々をこねておりました。
だからというわけでもないですが、その後も僕たちは何匹もドラゴンを呼んで実戦に対する心構えと経験を積んでいきました。
特にドラゴンのブレスを跳ね返す練習は流石に命がけでしたが、事前に魔術師様が兜で推測して指示を出すことでジーク様とリース様はほぼ確実に跳ね返せるようになりました。
また魔法陣と指輪の相乗効果で跳ね上がった魔術師様の魔力は、かつてのお姉さんのようにドラゴンの咆哮すら強引に突破できるようになっておりました。
今ならお姉さんの呪死行軍ですら正面から強引に退治できてしまうでしょう、まああんな悪夢二度とごめんですけど。
しかしドラゴンを当たり前のように退治できるようになった今、僕たちは間違いなくこの世界一最強のパーティでしょうけれどもやはり魔獣に歯が立つかは疑問が残ります。
それでもやるしかありません……できればもう少しいい至宝が手に入れば言うこともありませんが。
というわけで今回はこの辺りで失礼致します。




