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四十三通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?


 正直何を書いていいかもわかりませんが、それでも今まで続けてきましたからこうして筆を執っております。


 前回感じた絶望は未だに払拭しきれてはおりません、先行きも真っ暗なままです。


 それでも頑張ろうと思います、絶対に死んでやるものかという強い決意があります。


 みんなも笑顔を取り戻しました、そうですまだまだ勝ち目がなくてもあがいてやろうと思います。


 いきなり何を書いているのか自分でもわかりませんが、上手く気持ちが整理しきれていないのだから仕方ありません。


 ですから一から書いていきますが今回も長くなることをお許しください。


 あれから僕たちは絶望のまま旅を続けました、全く希望は見えておりません。


 皆黙り込んで考え込むことが多くなりました、僕も魔術師様はおろか他のメンバーとも殆ど話しておりません。


 それでもいつも通りリース様の馬車での定例会議は行いました、魔術師様が何か使える情報があるかとジーク様に話しかけました。


 今まで見聞きしてきたことをどんな細かいことでもいいから教えて欲しいと、ジーク様は重い口を開いて語り始めました。


 異国の生活習慣、出会った異種族の特徴、海の色の変化や生物……リース様がそんなことはどうでもいいと怒鳴ってしまいました。


 ジーク様も怒鳴り返します、当然ですよね細かいことを話せと言っておきながらそんなことどうでもいい……ですからね。


 だけどリース様も頭に血が上っていて、ジーク様も冷静になれなくて……二人は取っ組み合って喧嘩してしまいました。


 みんなで止めました、僕はジーク様を魔術師様はリース様を……少し時間をおいて冷静になってもらおうと思いました。


 暫くしてリース様が申し訳なさそうに謝罪されました、ジーク様もバツが悪そうに頭を下げました。


 みんな気が立っていました、苛立つものと落ち込むものと……僕は落ち込む方で怒りより自己嫌悪だとか無力感に苛まれていました。


 子供たちも大人も、あんな実力差を見せつけられて冷静でいられるものがいるでしょうか。


 空気が悪くなる中でクー様が提案しました……酒宴を開こうと。


 このまま落ち込んでいくぐらいならいっそお酒に溺れて色々吐き出してしまおうというのです、意外だと思いました……だけど前にクー様が酔っぱらって弱音を吐いていたことを思い出しました。


 案外すっきりするのよと言われて、僕たちは酒宴を開きました……あまりいいことではありませんが子供たちも参加させました。


 いざとなれば魔法で治療すれば最悪の事態は回避できるし、もし魔獣に出会えば明日にでも死んでしまう身ですから少しでも多くを経験させておこうと……言い訳ですね。


 皆でお酒を持ち出して、何故か僕が乾杯の音頭をとることになって上手いことが思い浮かばなかった僕は……明日に乾杯しました。


 乾杯と皆が叫び、そして酒宴は始まりました……わざと度数の高いお酒を無理やり飲んでいましたのですぐに酔っぱらいだしました。


 すぐに苦い苦いと言っていた子供組が酔っぱらいました、いーちゃんが魔術師様の元にすり寄り甘え始めこーちゃんが僕の身体を駆け上がり耳を引っ張り始めました。


 めーちゃんがクー様に私も結婚したいなぁと言い出しました、レイ様はリース様とジーク様に第二王子のことを聞き始めました。


 大人組もどんどん酔っていきます、まず魔術師様がいーちゃんを抱いたまま僕の元に来ました。


 赤みを帯びて瞳を潤ませながら僕に近づき顔を寄せて……思いっきり頬を引っ張り笑いだしました。


 すごく痛かったのですが変な顔だと言って指をさして笑います、いーちゃんも僕の身体に張り付きもう一つの耳を引っ張ります。


 どうやら魔術師様と同じ耳にしたいみたいです、痛いと言っても重いといっても離れてくれません……それどころか重くないと殴られました。


 そんな僕らを見てリース様がバンと足を踏み鳴らし片膝立ちするとこちらを指さし羨ましいことをするなと叫びました。


 更にジーク様に向けて怒鳴りだします、兄上が居なくなったせいで私がどれだけ苦労したか……彼氏を作る余裕もなくなれば縁談話すらなくなったのだぞというのです。


 意外ですがどうやらリース様も恋愛に憧れがあったのでしょう、そうこうしているうちにジーク様は泣き顔になってしまいます。


 俺だって……俺だって好きで家出したわけじゃないといって、お妃さまの名前を呼びました。


 泣き上戸というやつでしょうか……僕も酔っぱらってしまいたいところでしたが無駄にブラック企業で飲まされていただけあってこの程度では酔えませんでした。


 クー様も旦那の名前を何度か呟きました、がめーちゃんを抱き寄せるとキスしようとします。


 めーちゃんは子供じゃないからやーといってレイ様の元へ逃げました、レイ様はめーちゃんにおねーちゃんと呼ぶがよいと言いました……実は姉と呼ばれることにあこがれていたのでしょう。


 更にレイ様は双子に近づくと姉と呼べと強要します、双子は笑いながら逃げ出しジーク様の首根っこを持ち上げているリース様の身体に駆け上ります。


 よしよしと双子を撫でながらリース様は私も子供が欲しいと叫びます、ジーク様はまだ一人で泣いております。

 

 魔術師様は胡坐をかく僕の足の上に横たわりながら鼻を潰してでこを叩いて遊んでいましたが、クー様と目が合うとそちらに向かい夫婦生活はどうだったのか尋ねだしました。


 それはどうかとも思いましたがクー様は意外にも嬉しそうに話し始めました……夜の生活も含めて。


 魔術師様は初心なのか顔を赤くしてうつむきながらも興味津々とばかりに聞き入っています、気が付けばリース様もふらふらと近寄り魔術師様の上に乗っかるようにして聞き入っております。

 

 レイ様も少し近づいて耳を傾けておりましたが、残りの子供は興味ないとばかりにジーク様を玩具にして遊び始めました。


 めーちゃんが背中にまたがり、いーちゃんが耳を引っ張り、こーちゃんが髪の毛を結んだりしています。


 ジーク様は気にした様子もなくお妃さまの名前を呼んで未だに泣いております、吹っ切れたのではなかったのでしょうか。


 僕はようやく一人になれてほっとしながらお酒を飲んでおりましたが、未だに酔っぱらえそうにありません。

 

 ふと気づくと皆が僕のほうをじっと見つめていました、思わず逃げようとした僕を指さしリース様が裏切り者が居る、捕らえよと叫ばれました。


 逃げる間もなく僕は魔術師様を除いた女性陣に固められました、ジーク様に助けを求めますが顔を上げてこっちをちらっと見てまたうつぶせて泣き出します……このヘタレめ。


 リース様が一升瓶に相当する大きなお酒を手に近づいてきました、まさかあれを一気飲みさせようというのでしょうか。


 僕は抵抗しようとしますが両足を双子に、右腕をめーちゃんに、左腕をレイ様に、正面からクー様に抱き着かれて動けません。


 魔術師様はそんな僕を見て爆笑しております、僕は本当に愛されているのでしょうか。


 リース様が僕に一気飲みさせようと瓶を近づけますが、流石に勘弁してほしかったので口を固く閉じて首を背けます。

 

 リース様は強引に顔をこちらに向けますが流石に両手を使えない以上、口を開かせることまではできません。


 いい加減にしないと口移しで飲ませるぞとリース様がおっしゃいます、子供たちが歓声を上げてキスコールをします。


 流石にそれは不味いと思ったのか魔術師様が止めに掛かりました、助かったと思いました……それは私の役目だと言い出してリース様からお酒を受け取りました。


 両手がフリーになったリース様はとてもいい笑顔で僕の顔を固定して魔術師様を促しました、魔術師様はお酒を口に含むと……本当に口移しを始めたのでした。


 正面に魔術師様の顔があっては噴き出すわけにもいかず僕は飲み干し始めました、全員おおーっと歓声を上げて僕らを見守ります。


 二度三度としているうちに僕らの口移しに意識が移った皆の身体から力が抜けて僕は自由になりました……だけどあえて抵抗しませんでした。


 お酒臭いとはいえ好きな人からの口づけを避けられるものでしょうか……気が付けばお酒は空っぽなのに口づけだけ続けておりました。


 さてその辺りから僕も酔っぱらってしまったようで、ふらふらになりながら……朦朧とする意識でブラック企業時代に習得した酒宴芸を始めてしまいました。


 詳しくは恥ずかしくてとても語れませんが、双子を除いた女性陣は一部に釘付けになっておりました。


 しかも怠そうにしているジーク様も巻き込んでしまい申し訳ない限りです……しかし興奮したリース様が熱いと言って服を脱ぎだしたときは大変でした。


 魔術師様も同意して脱ぎ始めるしクー様は止めてくれないし、レイ様は脱げ脱げと囃し立てるし……めーちゃんは恥ずかしいと顔を背けながらジーク様の一部分を注視しているのが印象的でした。


 双子はさっさとすっぽんぽんになっております、どうやら酔ったせいで体毛が敏感になって服がくすぐったく感じたようです。


 そんな中でみんなとバカ騒ぎしながら、だけど誰もわざとらしいぐらい魔獣のことは話題にしませんでした。


 口にしたらその瞬間恐怖に飲まれてしまうような気がしたから……これではお酒を飲んでの現実逃避ですね。


 だけど現実逃避でも構いません、あのまま恐怖に飲まれてしまうよりは全然いいと思いました。


 だから僕もあえて魔獣のことは言わずにまた何年後か或いは子供たちが大人になったら改めて飲み会をしようと言いました……みんな脱いだり騒いだり飲んだり喚いたりしながらもうなずいてくれました。


 そんな風に楽しい時間を過ごしました……が次の日起きたときは死にたくなりました。


 二日酔いで頭が痛かったのもありますが、僕とジーク様は全裸と言ってよく女性陣も殆どみんな半裸と言っていい状態でした。


 みんな酔っぱらってもどこか脳裏に魔獣の脅威が残っていてやけくそになっていたところも大きいのでしょうが、やはり酒が抜けると恥ずかしいようで最初に起きたクー様が僕らを追い出しました……服を着る間も与えずに。

 

 流石に後から服は返してもらいましたが暫くの間、クー様が皆を起こして回ったようで馬車から悲鳴に近い叫び声が連鎖しておりました。


 ようやく馬車に戻る許可を頂いたときは皆服を着ておりましたが、恥ずかしそうにしたり僕らを睨みつけたりしていて大変でした。


 特に僕は脱ぐきっかけを作ったことと、あれをモロに見せてしまったことで魔術師様からきつく説教されたのでした……あんまりです。


 多分酒宴は二度と無いんじゃないかなと思います、何せ子供たちすら少し後悔した様子を見せておりましたから。


 クー様も言い出しっぺとして申し訳なさそうにしております……だけど僕らの苦しかった気持ちは確かに大分楽になりました。


 少し前まで皆暗く黙り込んでいたのに、今では顔を合わせると赤くなったり早口で照れ隠ししたり……逆にからかったりからかわれたりできるようになりました。


 だから結果としてはとても良かったと思います……例え魔術師様が僕の顔を見るたびに顔を赤くして違う意味でもう二度とするなというようになったとしても、双子がパパのエッチといってちょっと厭らしいものを見るような目になったとしても。


 クー様が魔術師様とリース様とレイ様から畏敬の目で見つめられて赤面するようになっても、レイ様が子供たちからお姉ちゃんと呼ばれてむしろ恥ずかしそうにしていたとしても。


 ジーク様がマザコン呼ばわりされるようになったとしても、リース様がめーちゃんに男友達の作り方をレクチャーされて恥ずかしそうにうつむくようになっても。


 魔術師様が子供三人からキス凄かったねと褒められて赤面する羽目になっても、めーちゃんが僕やジーク様を見て顔を真っ赤にするようになっても。


 いーちゃんが恥ずかしいことをしたと厚着をするようになっても、こーちゃんが照れながら薄着をするようになっても……やっぱり良くなかったかもしれませんね。


 まあでもこの世界にはまだまだ楽しいことがあって、笑えることも恥ずかしいこともいっぱいあります。


 ですからまだまだ生きることをあきらめる気にはなれないのです……死にたいほど恥ずかしいのですけどね。


 今回はこんなところにしておきたいと思います、では失礼します。

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