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四十一通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?


 あれから今のところ平和な旅が続いておりますが、この先は必ず厳しいことになるという予感がひしひしと感じられております。


 というのも魔獣の痕跡を追うたびをしておりますが、どこに行こうとも凄まじいまでの戦闘痕……いや虐殺の跡と言ったほうがいい酷い有様が広がっているのです。


 魔獣は動くものを手あたり次第攻撃して回るのですが、あの強さですので一度攻撃するだけで周囲の環境を一変させてしまわれるのです。

 

 おかげで道はボロボロであちらこちらにクレーターが出来ており、かと思えば不自然に長々と続く谷のような穴が開いていたり毒霧が漂っていたりととんでもない状況になっております。


 ただ道中で今のところ一切魔物を含む敵には出会っておりません、何と音食馬も条件を満たしても現れる様子がないのです……やっぱり絶滅してしまったのではないでしょうか、南無。


 まあとにかくそういうわけで周りの環境にだけ気を付ければ今のところは平気そうです、ついでにその関連で食糧事情も何とかなっております。


 あの王国から旅立った際にリース様は特殊なマジカルバックを持ち出しておりました、冷蔵庫機能付きと言えば分かりやすいと思いますが中に入れたものを長持ちさせてくれる効果があります。


 とはいえ中身は殆ど空っぽです、復興中の王国内に品物がほとんどなかったためです。


 そのためもっぱら当初は僕とクー様が事前に用意していた物資の中から生活必需品を消費している有様でした、まだまだ沢山あるとはいえこの人数では半年持つかどうか。


 おまけに魔獣が原型も保たせずに魔物を退治していくものだから肉の調達もできない、はずでしたがある時こんがり焼けた魔物の肉が落ちていたのです。


 原型が残る程度に魔獣とやり合える魔物、それはドラゴンでした。


 大抵血液が抜かれているので不老長寿とかは得られませんでしたが、血抜きされた分厚い肉は表面は腐りかけていましたが内側は食用になりうる部分が残っていたのです。

 

 それらを下ごしらえしたうえでリース様の冷蔵バックに詰め込んでいきました、そしてそれを何度も繰り返したことで肉料理に関してはほぼ尽きることは無くなりました。


 そう何度もです……あの魔物はふらふらと着地と飛行を繰り返しているようで既に旅の間で五匹ものドラゴンの死体を見つけました。


 あの吸血攻撃が対象のマナを抜き取れるとしたらお姉さんを超える勢いで強くなっていってる可能性があります、となるともう退治しようが無いのではという絶望的な思いすらしてしまいます。


 それでも魔術師様は、むしろだからこそあの魔獣を放ってはおけないようです。


 他の方も同様でした、何とクー様はおろか子供たちも同意見でした。


 それは魔獣の生態の関係上、いつどこで襲われてもおかしくない上に襲われたら確実に殺されてしまうからでした。


 あの魔獣の戦力は確実にこの世界にあるあらゆる国を亡ぼせてしまうでしょう、つまりあの魔獣がこの世にいる限り安泰の地は存在しないのです。


 ならいっそこっちから攻めてやろうと考えているのです、座して死ぬより戦って死のうと……まあ微妙に違うかもしれませんがそういうことです。


 なにより僕たちのパーティは戦闘できる人間こそ三人と少ないですが皆至宝持ちです、下手すれば一国ぐらい落とせてしまえるぐらいの戦力がありますから現状この世界でもトップクラスに強い集団と言えます。

 

 そういう意味では彼らと一緒に戦えるのは心強いことこの上ないのでしょう、最も魔獣の強さからすると焼け石に水ですけども。


 とはいえ何も無策で死にに行く気はないので、毎晩野宿して眠る前にはリース様の巨大な馬車に集まり対策会議をしております。


 今回は大人も子供も関係なく全員参加です、しっかり育ってきているめーちゃんや双子もちゃんと会話に参加しています。

 

 しかし今のところ決定策は出ておりません、とりあえず南側に向かっていることからお姉さんが滅ぼした王国に立ち寄り至宝を集めようという方針が決まったぐらいです。


 旅路は順調だというのに先行きは真っ暗です、本当につらい旅になりそうです。


 だけど僕の隣には魔術師様がいらっしゃいますから幸せなんですけどね。


 もうここの所は離れようとしません、件の剣を手放した今もう手を握ることを遠慮することもありませんからずっと繋がっております。


 この間など恥ずかしいことにお風呂……そういえばお風呂事情について話していませんでしたね。


 魔術師様と二人で旅をしているときは水滝を生み出してその中で距離を取ってお互いの姿が見えない状態で身体を洗っておりました。


 人が増えてからは魔術師様が定期的に地形を改善し温泉を作りそこで身体を洗っております、勿論戦闘員はローテーションで非戦闘員と一緒に入ります。

 

 風呂に入っているときに襲われないためです、クー様とめーちゃんの四人旅の時は魔術師様含む三人が一緒に入り僕は魔術師様が見守る中水滝で我慢しました。


 双子と一緒の時も魔術師様と双子が入り僕はやっぱり水滝でした、ジーク様が来てから僕はようやく温泉に入れるようになりました。


 そして今は魔術師様とリース様とジーク様の三人が分かれて他の方と一緒に入ります。 


 基本的に負担を平等に分配するため魔術師様は双子とレイ様、リース様はクー様とめーちゃん、ジーク様は……消去法で僕しかいません。


 まあ男のジーク様が他の方と一緒に入るわけにもいかないのですが、そんな折にたまたま双子が道端で遊んでいるときに泥に突っ込んでしまったことがあり少し早めにお風呂に入った時でした。


 双子がパパとママと入りたいとおっしゃり、それを聞いたレイ様が気をきかせてくれてリース様たちと一緒に入るからといってくださり……その日僕は魔術師様と双子で家族風呂に入らせていただきました。


 詳細は語りませんが、僕らは手をつなぎながら真っ赤になって双子と一緒に湯船につかりました……ええ、可愛い双子がいましたから特に何もありませんでしたが家族で入るお風呂は幸せでした。


 そのあとは一人で入るジーク様が寂しがって家族風呂と口にしてリース様にすさまじい目で睨みつけられたり、レイ様とめーちゃんにキスしたか聞かれたり、クー様にからかわれて恥ずかしそうにしている魔術師様を見たり……本当にとても楽しく幸せな日でした。


 確かにこの度の行く手には辛い絶望が待ち構えているかもしれませんが、だけどやっぱり僕は今とても幸せな平和を実感しておりました。

 

 願わくばこの幸せが永遠に続きますように、そしていつまでも皆と共に……魔術師様の隣にいられますように。


 今回はこの辺りで終わりたいと思います、では失礼いたします。

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