三十八通目
前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?
あれから僕たち、正確には僕とジーク様は毎日のように至宝になれるための訓練を行っております。
とはいっても普通に素振りだとか模擬戦だとかです、特に模擬線は防御技術をメインに教わっております。
どういう形であれ剣が相手に当たれば魔法が解除されますからね、最近はジーク様の攻撃も十回に一度は防げるようになりました……まあそれでも力の差で吹っ飛ばされますが。
後は魔術師様を相手に魔法を無効化する練習も一応しております、何せ魔法の種類によって速度も軌道も違いますから。
念のため当てれるようにしておきたいのですがこれがまた中々難しい限りです。
何故念のためかと言いますと実は訓練の中で嬉しい発見があり、この剣の刃に触れた人は魔法が使えなくなると思っていたのですが何と剣自体だけでなくその持ち主に触れても同じことが起こると判明したのです。
要するにこの剣を装備している僕に回復魔法をかけても効果は発揮されませんが、代わりに攻撃魔法を受けても触れた瞬間消滅してダメージを負うことがないのです。
さらにこの剣を持った状態で僕が触れた相手は、それこそ魔術師様と手を握ったりすると魔術師様は魔法が使えませんし他の人から回復魔法を受けることもできなくなりますがその状態で魔術師様に攻撃魔法が当たっても霧散して傷を負うことはありません。
つまり魔法に対しての完全耐性があるわけでこの剣の持ち主は魔法に対して無敵の存在となるのです、とはいえ持てる人間は限られているのですけど。
あと例外というか身体強化の魔法が掛かった人間に殴られた場合は当然魔法は打ち消せるのですが、殴られた際の衝撃は魔法そのものでないがためか緩和できずとても痛いことが分かっております。
まあそれは余談ですがそれはともかくとしてこの性質からやはり呪いも打ち消せるのではという期待も高まります、もし本当に無効化できるなら吸ったらお終いという絶望的な状態が少しは改善できます。
まあ何度も言いますが試すわけにもいきません、魔術師様が怒るでしょうし心配もさせてしまいますからそんな状態になってほしくもないです。
さて他に変わったところと言えば、先日魔術師様は帝国の地下にあった魔法陣の解析に成功いたしました。
どうやらあれは上に乗って静止している間だけ魔力を強化してくれる効果があるようでした、恐らく魔力の少ない子供などが間違って抜いてしまわないように念のために仕掛けられていたものだと推測されます。
ある意味鍵替わりですよね、そうなるとあの剣が安置された時点では帝国には剣を抜く手段が別に存在したのでしょうが長い年月の間に失われてしまったのだと思われました。
何もかもドラゴンに消し飛ばされた今では考えても仕方がないことでありますが。
話を戻しますが魔術師様はあの魔法陣を使えるようになれば私も少しは戦力になれるかもと、現在一生懸命研究をしております。
さらにリース様はかつて討伐した獣人の住処へ何度か探索命令をだし、自らも赴いてこの間ようやく隠されていた至宝を見つけ出すことに成功いたしました。
何と杖の形をしたそれは、魔術師様の魔法の効果範囲を前の杖より倍近く伸ばしてくれる優秀な代物でした。
おまけに一度魔法を放ってから手を離すと、持ち主のマナを遠隔で吸い上げ続け魔力が尽きるかもう一度手に取るまでその場に留まり同じ威力の魔法を狙った対象に向けて使用し続けてくれるようです。
ただ問題は魔法を使う必要があるので魔法使いでなければ意味がないこと、だから魔力を移動手段や身体強化にしか使わない獣人たちは利用しなかったのでしょう。
そしてもう一つの問題は、杖の先端が髑髏そっくりな形をしていることでした。
魔術師様はデザインがとても嫌なようでどうにか改造できないかも試していますがこれは上手くいっておりません、まあそんなことを気にしている場合ではないのですけどね。
そういうわけでちゃくちゃくと戦力は増強しているのですが、これでもまだお姉さんに敵う気は全然しません。
勝ち目がなかった当初よりは遥かにマシですし、これ以上の勝ち筋も見出せそうにない以上後は作戦を考えて頑張るしかなさそうです。
しかし肝心のお姉さんの居場所はまるで見当がついておらず、当面の目標も分かっていないこちらはこのままでは後手に回ってしまいそうです。
せめて行動理念だけでもわかれば動きを誘導して罠にかけれるかもしれないのですが難しいものです。
さてここからは戦闘とは関係のないことについて説明していきます。
この間めーちゃんと久しぶりに二人でお話しする機会がありました、僕は課題はどうだったか尋ねるとにっこり笑って全部終わっている旨を伝えてきました。
確かにしっかり終わっていて褒めてあげるとめーちゃんは嬉しそうに、更なる勉強の成果を持ってきます。
どうやら僕がいない間はリース様に勉強を教わっていたようです、しかしその中には何やら国内の税収についてやら伝票整理の計算やらが書かれていてちゃっかり公務を手伝わせている跡が見けられました。
最もめーちゃんは非常に数字に強いらしく手早く間違いのない仕事っぷりに意外な才能を見てしまいました。
後にリース様に聞いたところ、成人したら迷わず雇わせてもらうときっぱり断言しておりました。
そんなリース様とめーちゃんはまるで先生と生徒のような関係を築いていて、元そのポジションにいた人間としては正直ちょっとだけ嫉妬してしまいました。
まあ今もめーちゃんは僕を慕ってくれてるので構わないのですけどね、最も他にも遊び相手がいっぱいいるから当時ほど構ってもらえないので寂しいことは寂しいです。
それどころか最近は双子も僕よりレイ様とめーちゃんと遊んだり、お勉強を教えてもらうほうが楽しいようでこの間などパパは後で~などと言われてしまい少し涙を流してしまいました。
これが自立なのでしょうか、まだ一歳にもなっていないというのに……まあ獣人ということで早熟なのでしょうけれども。
そんないーちゃんは既にめーちゃんに追いつくぐらい身長が伸びていて、こーちゃんはそれより一回り小さい体格でだんだん違いが出てまいりました。
いーちゃんは優しく大人の言うことを素直に聞いてくれる良い子で、こーちゃんはちょっと我儘で悪戯してばっかりですがこちらも本質は良い子であります。
ただ二人が揃うと一転してやんちゃになってしまうので困っております、こうなると僕や魔術師様の言うことなんか聞いてくれません。
少し甘やかしすぎかもしれませんね、最もめーちゃんとレイ様の言うことはいつだって従うのですけど。
代わりに余りに悪戯が過ぎるとリース様はビシッとお叱りなさるので彼女には少し苦手意識を持っているようです、それでも嫌ってはいないようでたまにジーク様にするように登り棒代わりに身体をよじ登ろうとしたりしてるぐらいです。
本当は僕たちがしっかり躾をしなければいけないのですが可愛くてどうしても叱ることができず、この件に関してはリース様に諭されては魔術師様ともども首を垂れる始末です。
クー様は僕と並んで一番年上ということもあり、忙しい最中にも関わらず皆に笑顔で接してくださっていて全く素晴らしい女性だと思いました。
またやんちゃした双子もやんわりと窘めることができるのはさすが経験者だと僕らは尊敬しているほどです。
他にも母親と早くして別れたレイ様はかなり慕っているようで、嬉しそうに家事を教わっている姿を何度も確認しております。
そんな子供たちが時に家の中で暴れても許してしまわれるまさに菩薩のような女性です、向こうは僕らに恩があると言いますがどう考えても僕らが受けている恩恵のほうが遥かに大きいと思っております。
なお大昔に作った彼女宛ての借用書はもう処分済みです、僕らの間にこんなものはもう必要ありませんからね。
ちなみにクー様は職場の物品の流れから色々と情報を持ってきてくださるのですが、本格的に近隣の村との取引はほぼ断絶状態で遠方の王国との商人の行き来もかなり減ってきていると言います。
どうやら他の大国でもお姉さんが放ったと思しき呪死行軍に侵入される事件が多発しているようで、出入りする者に対する警戒が強まっていっているようなのです。
この国に関しては違いを見極められる魔術師様が定期的に探知魔法を使っているので往来を制限する必要はなくなり、警戒を薄めたのですがそのせいで売買を求める者や居場所を失った人々の駆け込み寺になりつつあります。
ちょうどこの間の討伐で領土が広がったこともあり、出来る限りそこの開拓者として居住を許可したりしているようですがすぐに収穫に結びつくことがない以上どんどん国内の流通物が不足しがちになってきました。
他の国が出入りを厳しくしている以上どうしても輸入量が減るので自国での生産物だけで賄わなければならず、そこに人が増えれば不足するのは当然の話でした。
幾らリース様が頑張ったところで実物の不足はどうしようもなく、この調子で人口が増えれば色々と不味いことになると頭を悩ませております。
かといって助けを求める人を追い返すことも心苦しいようです、高潔で立派な人格者だとは思いますが相変わらず理想主義者でやはり資金等の現実を顧みれない節があります。
ですからどうしてもストレスがたまるようで、最近はクー様の家に来るなりジーク様を問答無用でどつきまわしたりして発散している有様です。
この国に来てからジーク様は毎日ボロボロになっております、野宿生活のほうが楽そうに見えるのは僕だけではないと思います。
そんなジーク様は未だに一度も王宮に出向いておりません、リース様も魔術師様もクー様までせめて顔は出すべきだとさんざん主張しますが彼の内心を唯一知っている僕としてはついつい庇い立てしてしまいます。
特にリース様がお妃さまの話に触れるたび辛そうな笑みを浮かべており、僕もまた自分のことのように心が痛みました。
ただ何だかんだでリース様もお兄さんの考えはある程度尊重しているようで、まだ誰にもジーク様がこの国に滞在していることは漏らしていないようです。
全く立派すぎるお方です、おかげでレイ様は彼女を理想像としてみるようで元は同じ王族でありながらこれほどまで違いがあったことに自己嫌悪しながらも自らを変えるべくリース様に師事しているようです。
そんないろんな方から畏敬の念を送られているリース様ですが最近は魔術師様とよく二人で話すことが多くなってきました、国内の見回りなどに付き合っているためでしょうけれどもやはり仲が良いようです。
時には魔術師様が恥ずかしそうにしながら笑っているリース様を睨みつけたり、逆にリース様が顔を赤くして笑みを浮かべている魔術師様に食って掛かったりとお互いにからかい合ったりしているようでもあります。
ちょっとだけ二人の仲が羨ましくて、ちょっとだけ二人の仲に嫉妬してしまいました。
さて久しぶりにこちらの世界の紹介を書いてみたいと思います。
前に天候について書いていたと思いますが、今回はその続きを紹介したいと思います。
そちらの世界でも落雷は脅威でしたね、こちらの世界でもやはり恐ろしい現象の一つなのですがマナが絡んでいるせいでより厄介な性質を帯びております。
それは落ちる場所が分からない上に地面から向かってくることもあるということです。
詳しく説明しますとどうやらマナが電気の通り道になることがあるらしく、低いところに居ても強いマナの持ち主のところで誘導されてピンポイントで直撃することが珍しくないと言います。
また一度雷が落ちれば地面に抜けてエネルギーは発散するはずですが、マナが通り道になる関係上なんと地表で跳ね返り別のマナの持ち主に向かうことがあるというのです。
それどころか他の人の身体に当たった後、さらに別の人に向かって連鎖することもあるというのです。
恐ろしい話ですね、ちなみに魔法で作った雷撃でも少し工夫すれば似たようなことを引き起こせるようですがかなり強い電力でないとできないので殺傷目的で魔法を使うことが基本的にありえない魔術師様は試したことがないと言います。
話を戻しますが特にマナが強い魔術師様は落雷が向かってきやすいようで雷雲が見えたら土の中に避難、することもなくむしろ魔法で雲自体をかき消してしまったり防御呪文で無視して先を急いだりしていたようです。
最も僕と一緒に行動するようになってからは側撃雷を心配してか、避難を優先するようになっており申し訳ない次第です。
さて今回はこの辺りにしておきたいと思います、それでは失礼いたします。




