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三十六通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょう?


 こちらはそこそこ平穏な日々を送っておりますが、どこか不安が拭いきれない状態が続いております。


 さてあれから、という前に前回書きそびれた話を追加しておきたいと思います。


 野宿をすることになり食事を終えたときのことです、寝落ちした魔術師様をテントに寝かせると自然と双子も一緒に横になりました。

 

 結果として焚火のそばには僕とジーク様とレイが残ったのです、パチパチと火花を散らす焚火を見ながらレイは僕たちに今日のことを尋ねました。


 確かにレイにはまだちゃんと僕たちの目的を話していませんでした、ジーク様は僕に目配せしましたがもう構わないと思い聖杯関連だけ除外して話してあげました。


 暫く黙っていたレイでしたが、わらわのせいじゃなと呟きます。


 自分の帝国が犯した罪のせいでお姉さんが暴走したのならそれは自分のせいでもあるというのです、僕は少し驚いてしまいました。


 最初にあったころのレイからはまるで想像もつかない姿でした、はっきり言ってもっと責任転換でもするかと思っていたのです。


 ジーク様ははっきり違うとおっしゃいました、やった奴の責任であってお前にはそんな責任はないと断言します。

 

 しかし王族としての責任について言及されると途端にジーク様は勢いがなくなります、耳が痛いのでしょうね。


 こうなると僕が言うしかありません、ため息をついて僕はレイと向き合います。


 正直言って僕は未だに最初のころに受けた悪印象が消えておりません、だけどこれは間違いだと分かっています。


 僕は頭を下げてこーちゃんを守ってくれてありがとうと言いました、レイは友達を守るのは当たり前じゃと答えました。


 でも僕はレイがしたことにお礼が言いたい、そしてレイがしていないことを責めるつもりもないと伝えました。


 恐らく馬車内で一番レイを嫌っていたであろう僕にそう言われて、彼女はうつむいてしまいました。

 

 改めて僕は本当に感謝していることと、これからも二人の友達でいてほしいと告げるとレイはゆっくりと頷きました。


 そして最後に早く眠るよう勧めました、ジーク様が夜更かししてるとまたお漏らしするぞと茶化すとレイは無礼なといつもの調子を取り戻しテントへと入っていきました……最後にお礼を口にしてから。


 僕とレイの仲も少しは改善したと思います、まあこれは余談ですね。


 さて話を進めますと次の日目が覚めた僕たちが出発の準備をしておりますと、珍しく一番最後まで寝ていた魔術師様が僕の元へとやってきました。


 そしてデコピンするとこの嘘つきめと睨みつけてきます、僕はごめんなさいと謝るしかありませんでした。

 

 だけど魔術師様は許してくれません、もうお前は信用ならないからずっとそばで監視させてもらうといって僕の手を取るのでした。


 こうなると僕には抵抗できるはずがありません、いいなと言われてもうなずくだけです。


 そして次に魔術師様は深呼吸されると、皆に向かい謝罪し頭を下げました。


 私の姉がとんでもないことをしてしまった、皆には大変迷惑をかけた、申し訳ないと。


 双子はよくわかっていないようですがママは悪くないよと言います、レイはむしろわらわの国の人間がといって謝罪を口にします。


 ジーク様は気にしてねえよ、これぐらいいつものことだと笑います。


 魔術師様は頭を下げたままもう一度謝罪を口にしました、僕も気にしてませんからと口にしましたがお前には言ってないと叩かれてしまいました。


 ええっと驚く僕を見て皆クスッと笑いました、魔術師様はフンと顔を背けてしまいます……手は離さずに。


 まあ空気が軽くなったので良しとしようと思いました、そして皆が出発の準備に取り掛かる中で僕も魔術師様と一緒に支度をしておりました。


 一時的に二人きりになったところで、顔をそむけたままの魔術師様がぼそっと呟きました。


 お前には今日まで散々迷惑をかけられてきた、だから私もこれからはお前に思いっきり迷惑をかけてやるぞと。


 確かに何度も死にかけて足手まといになりそのために助けてもらってきました。


 そんな魔術師様が僕に迷惑をかけると、どんどん頼っていくとはっきり言葉に出されたことが嬉しくて仕方がなく喜んで頷かせていただきました。


 魔術師様はもう一度フンと顔をそむけてしまいますが目立つ耳が真っ赤に染まっているのがわかりました。


 そして僕たちは徒歩で進み始めました、もう馬車はありませんし腐っても魔物である音食馬を利用するのも止めておきました。


 双子はピクニックピクニックと嬉しそうにはしゃいでおり、レイがばててもしらぬぞと咎めております。


 ジーク様には後方の警戒をお願いして、僕と魔術師様は先頭を歩きました。

 

 途中で泥蠍が潜む泥にこーちゃんが足を踏み込みそうになったり、破裂虫の立てる物音にレイが腰を抜かしたり、土中鮫の背びれをいーちゃんが追いかけ回したり、トラブルがたくさんありました。


 しかし何とか誰一人かけることなくついに僕たちはリース様の王国へ戻ってくることに成功したのです。


 早速クー様のお屋敷に向かいたかったのですが、僕たちは入り口でせき止められてしまいました。


 前はこんなことなかったのにどうしたのか尋ねると、最近不審な出来事が多いから出入りを制限しているというのです。


 そして僕たちを見回し、六人中四人もフード付きローブで顔を隠している怪しい集団であることを指摘したのでした。


 言われて最もだと思いましたが、かといって帝国に比べればましとは言えこの国も余り異種族に対する感情はよろしくないのでフードを取るわけにもいきません……一人を除いて。

 

 僕と魔術師様の視線がジーク様に集中しますが当の本人は気まずいのか口笛を吹いて誤魔化しておりました。


 これではらちが明かないと思った僕は、ふとこの国を出る際にリース様に貰った命令書を思い出し提示してみることにしました。


 門番はリース様直筆の命令書を確認すると暫く待たれよといい、伝令をお城に向かわせました。


 すぐにリース様が駆けつけてきました、僕の顔を見てよくぞ戻ったと笑顔で歓迎してくださいました……約一名その言葉でびくっとしている人が居ましたが放っておきます。


 そして門番にお役目御苦労と言い放つと、僕らを中へと引き連れてくれました。


 早速クー様のお屋敷へ先導するリース様でしたが、道中僕たちにすまないと謝られました。

 

 どうやら次来るまでに異種族差別をなくす約束をしていたのにまだ果たせていないことを申し訳なく思っているようです。


 しかしいくらリース様ほどのカリスマであっても数か月でできることではないでしょう、本当に真面目な方です。


 次にリース様はもう一人顔見せしているレイを見て、どこかで会ったかなと口にされました。


 恐らく庶民の服を着ていることとかつての高圧的な姿からかけ離れていて気付かなかったのでしょう、レイはおずおずと正体を耳打ちしました。


 これは失礼したしましたと王家の礼でもって答えるリース様に気にするでないとレイは答えます、うむと頷きながらもリース様は後で王宮にお出迎えさせていただくがその前に召し物を用意させるとおっしゃい近くにいた兵士を捕まえ指示をだしたのでした。


 しかしレイがこんな格好をして僕らと一緒にいることに関してはその時点では何も聞こうとしませんでした。

 

 もう一人増えているフードについては何も言いません、どうやらクー様の家についてから情報交換したいようです。


 さてそうこうしているうちにクー様のお屋敷に到着すると、めーちゃんが嬉しそうに手を振ってお出迎えしてくれました。


 久しぶりだねと声をかけられた双子が不思議そうに見上げておりましたが、いーちゃんは匂いを嗅ぐと覚えがあるらしく先に飛びつきました。


 こーちゃんはよく覚えていないようで年の近いレイを見上げますが、こちらは初対面ですので首を振るばかりです。


 家の中に入ったことで魔術師様はフードを取り払い、ついで双子のフードも外してあげると早速いーちゃんはめーちゃんと遊び始めます。


 そのうちにこーちゃんもめーちゃんの元に向かって行き、レイは少し寂しそうにしておりましたがめーちゃんが近づいてきて挨拶するといつも通り偉そうな口調で挨拶いたします。


 最もそんなしゃべり方しかできないだけで今はもうそういう人間ではないことを僕たちは知っています。


 めーちゃんは最初こそ面食らったようですが、元々人懐っこいのですぐに懐いてしまったようです。


 気が付けば子供三人から引っ張られていて、レイは助けを求めるようにこちらを見ましたが微笑ましい光景なので見守るだけにしておきました。


 リース様は成長した双子を見て嬉しそうに頷いております、そしてパパママと僕らがよばれるところを聞いてうむめでたいとおっしゃいました。


 絶対に勘違いしておりますがずっと手をつないでいる状態を見られてますから何を言っても無駄でしょう。


 ところで家主のクー様の姿が見当たらずリース様に尋ねてみると仕事中だというもっともな発言が帰ってきました、どうやら最近では王宮内の仕事も手伝ってもらっているようで実に優秀であるとおっしゃいました。


 さらに個人的な話し相手にもなってもらっているようで、合鍵もいただいているようです。


 公務は忙しいから時にはこうして気を休めんとな、とのリース様の言葉に未だにフードを被っている一人がドキッとしております。


 リース様はそんなジーク様にいい加減フードを取ったらどうだとおっしゃいます、ここには種族の違いで差別するものなどおらんと言うのです。


 ジーク様は裏声を出しお気になさらずにとこの国に来てから初めて声を出します、それを聞いて不思議そうな顔をするリース様。


 僕たちにあの者は一体とお尋ねになると、その背中でジーク様が必死で両手を合わせて頭を下げています。


 魔術師様が露骨に呆れた様子を見せて、力づくで脱がせてかまわないと言ってしまいました。


 そしてクー様が来るまでの間子供四人の追いかけっこと、大人二人の追いかけっこが始まるのでした。


 さて暫くしてクー様がやってくると僕たちを見て嬉しそうにおかえりと言ってくださいました。


 僕と魔術師様はただいまと言わせてもらいました、帰る場所があるのはいいことですね。


 そして双子をめーちゃんに任せて、僕たちは居間のテーブルを囲んで情報交換を行うことになりました。


 まず最初に帝国に向かった僕たちに何があったのか、帝国で何が起こったのか、そしてなぜレイがここにいるのかを話しました。


 ちらりと子供組が遠くにいるのを確認して、僕たちはお姉さんの身で起きたことも一緒に話します。


 クー様は自らの旦那を殺した元凶が魔術師のお姉さんだと知ってなお責める様子も見せず、痛ましい顔で魔術師様とレイを見つめるのでした。


 リース様は二人に頭を下げられました、自分がしっかりしていれば……この国にいる時点でお姉さんを保護できていればこのような事態にはならなかったと。


 レイはそれは違うのじゃ、悪いのはわらわの国の者達とそれを止めれなかったわらわじゃとはっきり言いました。

 

 それに対して魔術師様は私の姉の不始末だと皆に頭を下げますが、二人はさらに自らの責任だと言い張ります。


 このままでは話が進まないとフードを守り通したジーク様が話を進めようとします。


 その声を聞いて首を傾げながらもリース様はそれもそうだとおっしゃいました。


 領内で現れたドラゴンの情報は知っているようでしたが、まさかそのような事情があったとはと難しい顔をされるリース様は次いでだとすると厄介な情報があると言います。


 それはと聞くとその前に領内で最近起きている不審な事件について話します、それによると出入りしている商人がどんどん少なくなっているのだと言います。


 そしてこの間かなり前に出かけて行った商人が帰ってきたのですが、そいつが件の呪死行軍の一員だったのだと語ります。

 

 何とか兵士を総動員してありったけの解呪矢をぶつけることで呪いの腐臭ごと解除して強引に始末したらしいのですが、それでも十人ぐらいの犠牲者が出たと言うのです。


 まさか呪いである腐臭を抑えてしかも生前と同じ行動をするという信じられない出来事に直面したがために、警戒が高まっていたというわけでした。


 その元凶を調べるために商人が向かったという取引先に斥候を出したところドラゴンが何匹も飛んでいくのを見たのだと言います。


 そしてさらに斥候が慎重に時間をかけて先に進むと荒れ果てた荒野にドラゴンの死体が七匹分転がっていたというのです、しかも不審なことに体内の血液は一滴も残ってなかったと言います。


 最後にリース様はその場にゾンビの死体の山はあったけれど、異種族の死体があったという報告は聞いていないと締めくくりました。


 重苦しい空気がその場を支配しました、十中八九王国に侵入したのはお姉さんが作ったゾンビでしょう。


 お姉さんは本気で人類を滅ぼす気のようです、一体だけ送り込んできた理由はわかりませんが……いやひょっとしたらもっと領内に潜んでいるかもしれません。


 魔術師様は一応探知魔法で他に潜んでいるものがいないか調べてみようと言います、リース様は助かると答えました。


 しかしそんな水際対策をしたところで肝心のお姉さんが生きているのなら全てが無駄になってしまいます。


 ゾンビを外の村で増やして総動員して襲ってこられたら、いやその前にドラゴンすら叩きのめせてしまう力の持ち主ですから直接乗り込まれてもアウトです。


 困ったものだと全員で頭を抱えてしまいます、本当にアレを倒す手段でも方法でも見出さない限りはいずれ必ず人類は滅ぼされてしまうでしょう。


 自然と皆黙り込み時間だけが過ぎていきます、珍しくジーク様も口を開こうとはしませんでした。


 不意にクー様が、けど本当にお姉さんもすごい魔法使いなのねと言いました。


 クー様も魔術師様が魔法を使うところを見てますから、姉妹揃って魔法の才能に恵まれていることを羨ましそうにつぶやきました。


 自然と皆もうなずきます、確かに魔術師様に敵う魔法使いなんかお姉さん以外に見たことがありませんでしたから。


 しかし魔術師様は首を横に振りました、姉は私ほどマナがなかったから使い方を工夫して誤魔化していただけだというのです。


 少なくとも里において長を除けば間違いなく一番の使い手であった魔術師様に比べて、お姉さんは工夫を凝らしてやっと真ん中ぐらいだったと言います。


 ではなぜあれほどの力をと尋ねたリース様の言葉に、魔術師様は隣に座る僕の手を強く握るとここにいる皆を巻き込んでしまった以上話すべきだろうと一族の至宝について語ったのでした。


 全てを聞いてジーク様はぽつりと、要するにお姉さんはある意味人間に馬鹿なことをされた分パワーアップしたってことかと皮肉気に笑いました。


 リース様はドラゴンの血が抜けていた件について尋ねると、魔術師様は多分その通りドラゴンの分も強くなっているはずだと答えました。


 そして再度皆に頭を下げました、姉が迷惑をかけて申し訳ない……私は命を懸けて止めるつもりだが、巻き込んでしまって言える台詞ではないがどうか皆にも手伝ってもらいたいとおっしゃいました。


 クー様はおっしゃいました、私も娘もあなたたちがいなければ路頭に迷っていた、だから全力で協力しますと。


 リース様はおっしゃいました、恩人に恩を返すのは当然のことだと。


 ジーク様はおっしゃいました、乗り掛かった舟だし最後まで付き合うぜと。


 レイ、様はおっしゃいました、わらわにも出来ることがあればなんでもやろうと。


 僕は何か言おうとしましたが、魔術師様はお前の返事は聞かなくても分かっていると微笑まれました。


 だから僕は魔術師様の代わりに頭を下げて皆によろしくお願いしますと言っておきました、勝手なことをするなと後頭部を叩かれました。


 皆やれやれとあきれた様子で、僕たちにいちゃつくなとおっしゃいました……これっぽっちもいちゃついてるつもりはないのですが。


 さてとリース様が席を立ちあがり、そろそろ公務に戻らなければと玄関に向かい明日また同じ時間に会おうと言って立ち去りました。


 ジーク様はようやくほっとした様子でフードを外されました、そして改めてクー様とめーちゃんに事情を説明しようとしました。


 そのタイミングでリース様が忘れていたと戻ってきました、その手にはレイ様用のドレスがありました。


 丁度部下が持ってきたとまで言ったところでジーク様のご尊顔を確認して、ぱさりとドレスが床に落ちました。


 そのあとのことは割愛しますが、とりあえずジーク様が半泣きで土下座するまでに心身ともにぼこぼこにされたとだけ書いておきます。


 さてレイ様ですが帝国が滅んだこともあり亡命者として扱わせていただくとリース様がおっしゃられました。


 そして政略結婚の件は破談になる可能性が高いと遠回しに伝えらえると、レイ様は第二王子殿によろしくお伝えくだらぬかと言います。


 それ自体は引き受けましたリース様ですが歯切れが悪い様子を見せました、皆が疑問に思っているとジーク様が代わりにあいつは流されやすいから破談だと伝えられたらそっかぁって受け入れちまうんだよとおっしゃいました。


 レイ様はそうかと少しだけ悲しそうにおっしゃいました、リース様はじろりとジーク様を睨むと逃げ出す輩よりははるかにマシなのだとキツイ口調で言い残し今度こそ立ち去っていきました。


 ジーク様はぐすんと涙を零しますが魔術師様は自業自得だと回復魔法をかけてあげませんでした、代わりに子供たちから良い子いい子されていました。


 今回はこんなところですね、では失礼いたします。

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