二十七通目
前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?
僕は先日ついにパパになりました、片言で喋れるようになった子達からパパと呼んでいただけました、ああパパとはなんと良い響きなのでしょう。
もう頬が緩みっぱなしです、パパ抱っこ~などと言われたらずっと抱っこしていたいのですが魔術師様が独占しているのでとても辛いところです。
まあ僕は馬車を操る大事な仕事がありますし、魔術師様のほうが抱っこが上手ということもあって仕方がないのですが双子もどちらかと言えば魔術師様に懐いていて羨ましい限りです。
そんな魔術師様もママと呼ばれてからはご機嫌の一言で、もはや過保護なのではと言わんばかりに双子の世話をしております。
最近は二人とも独力で歩けるようになったのですがまだまだふらついており、魔術師様は危ない危ないと言って歩かせようとせず常に抱きかかえて移動させようとしています。
余り体力に余裕がないはずなのにそこまでできるのは、魔法で筋力やら体力やらを補強しているからという以上にやはり愛の力なのでしょう。
まだまだ幾らでも書きたいことはありますが一旦子供のことは置いておいて、僕らの周りに起こった変化についてお話したいと思います。
先日ついに王国の領土を超えて無法地帯へと突入したところ、早速様々な敵からの襲撃を受けました。
最初は前にも出会ったことのある音食馬がやってきました、どうやら赤ちゃんたちの泣き声に反応して接近してきたようです。
もちろん魔術師様が瞬殺いたしました、赤ん坊に近づく敵に容赦するはずがありません。
しかし次に襲ってきたのは山賊でした、よくこんな危険な世界の野生で生きていられるなと僕は逆に感心してしまいました。
それはそれとして人間を殺傷するのは流石に魔術師様も嫌なようで、仕方なく氷漬けにして放置する形をとりました。
その状態で他の魔物に襲われれば命はないでしょうが、そこまで気にしてあげる必要はありませんし。
まだまだ襲撃は続きます、魔術師様が馬車を止めろと言われて止めたところ杖から炎を放ち前方の泥を蒸発させました。
すると泥は苦しそうにうごめきながら消失していきました、あれは泥状の身体をした吸血性の魔物だそうです。
気づかずに触れると泥のように皮膚に張り付いて、ゆっくりと血液を吸い上げながら巨大化し最終的に獲物を丸ごと取り込み干からびるまで吸い上げるという魔物です。
事前に気づくのは難しく一度張り付かれたら面倒ですが魔術師様なら探知魔法でこの通りです、全く頼りになるお方ですね。
しかしこのように魔物に襲われるのも久しぶりです、ようやく旅に出た実感がわいてきました。
僕もまた気を引き締めなければいけませんね、この世界にはいくらでも危険があるのですから。
今回は一応前の王国でレアな魔力がこもった石がたまたま売りに出ていて買い占めてきましたから僕だって少しは活躍できるはずです。
まあ使うのはもったいないから基本魔術師様にお願いするのですけどね。
他にも色々な出会いがありました、前の僕たちのように馬車に乗せてほしいという人もいました。
しかし獣人の子供を見ると露骨に嫌な顔をしたので、そんなやつを載せるわけにはいかず僕は追い出しました。
逆に僕を襲おうとする異種族にも出会いました、力強く屈強な身体をして魔法で大地を操るドワーフにも似た存在です。
こちらは逆に馬車に乗っている獣人を見ると僕を見逃してくれましたが、魔術師様はフードをかぶって警戒しておりいつでも攻撃できるよう杖まで構えておられました。
やはりエルフっぽい種族とドワーフっぽい種族だけあって敵対しているのかと思いましたがそういうわけではなく、単純に僕が攻撃を受けそうになって怒っていたのだと双子との会話を盗み聞きした結果知ることができました。
ちなみに彼は帝国によって故郷を奪われ仲間を奴隷として連れ去られており、だから人間を忌み嫌い襲い掛かっているようです。
彼は獣人を連れて帝国に向かっている僕らに警告を発して立ち去りました、あの国は異種族を片っ端から攻め滅ぼし奴隷としてこき使っているから気をつけろというのです。
前の王国とは違う意味で異種族差別が激しそうな国に魔術師様達を連れて向かっている事実に僕は戦慄しながらも、絶対に彼女達三人は守り抜くんだと決意を固めたのでした。
そしてそんな帝国に身を置いている魔術師様のお姉さんのことを思うと、一刻も早く辿り着かなければいけない思いに駆られるのです。
とにかく今までは赤ちゃんの可愛さでどうかしていましたが危険な場所を旅している現実を思い出して、気を引き締めている昨今です。
さて最後に前回の続きとして大陸の形状について紹介したいと思います。
とは言っても正確な世界地図が存在しないので二種類の地図から想定した地形図となるので、ひょっとしたら正確ではないかもしれませんがそこはご了承ください。
この世界が楕円形なのは知っていると思いますが縁の外周部を氷の大陸が覆っていることはお話ししましたね、そしてその内側には一繋がりの海が満ちています。
そのさらに内側に円を描くように大陸が点在しており、その中の一つに僕らが立っている大陸があります。
凡そ上向きの三日月のような形状をしているようで、僕らはちょうど南から北に向かって旅をしています。
魔術師様のいる里は本当に南の端のほうらしく、海に面しているとのことでした。
今のところ二か所立ち寄った王国はどちらも位置づけ的に内陸にあったため僕は未だにこの世界の海を見れておりませんが、やはりこちらの世界特融の現象や光景が広がっているとのことで今から見るのが少し楽しみです。
何故見ると断言するのかって、それはもちろんこの度が終われば一度魔術師様と一緒に里に戻らせていただくからです。
勿論いーちゃんとこーちゃんも連れていく予定です、今からママと呼ばれる魔術師様を見た里の皆様の反応が楽しみでなりません。
では失礼いたします。




