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二十一通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?


 僕は今ストレスとプレッシャーで死にそうになりながら、事務処理に追われております。


 というのもですね、実はお姫様の依頼された討伐軍の結成及び装備を含む物資の調達を一手に引き受ける羽目になったからです。


 何故こんなことになったかと言いますと、お姫様がわざわざ直接社長のもとに赴き説得してしまったのです。


 更に僕の賛同を得ようと彼女はクー様の家にまで押しかけて演説を行った挙句に、ちょっとしたことから魔術師様の正体に気づかれてしまったのです。


 流石に異種族と知った時は警戒していましたが、僕らが信頼していることと獣人ではないこと、何より魔術師様本人と会話した結果実直であるお姫様はあっさりと受け入れてくださいました。


 しかしこの時点で弱みを握られた僕は逆らえなくなりました、おまけにお姫様は今回の討伐が上手くいった暁にはお姉さんの探索に全力で協力すると約束してくださったのでもう信じて動くしかありません。


 こうなると魔術師様も覚悟を決めたようで獣人の偵察に行くと言い出し、そこに王女様も付き合うと姫騎士スタイルに着替えて戻ってきました。


 本当に勘弁してほしかったです、敬愛する魔術師様とこの国の要人である姫騎士様が二人で危険な紛争地帯に突っ込むという事態に僕は死にそうなほどのストレスを覚えました。


 かといって付き合ったところで足手まといになるだけ、抗弁したところで説き伏せられるのが落ちでした。

 

 二人の強気な女性を前に僕は斯くも無力なのでした、勿論二人を気遣うクー様の言葉もめーちゃんの声も彼女らにとっては奮起する材料でしかありませんでした。


 仕方なく僕は彼女らが帰るのを待ちながら必死で討伐軍のための予算の算出、物資調達のルートの確保、優秀な装備の選定、地形図の作成、目的地までの移動手段の準備……やることが多すぎて死にそうです。


 せめて王国内の内務官に手伝ってもらいたいところですが、第二王子派閥の彼らはこの度の討伐に反対のようでむしろねちねちと書類の不備をつついて邪魔をしてくるのです。


 既に王女派と見られている僕はもしこの度の討伐が上手くいかなければ確実に処罰されるでしょう、いやそもそも魔術師様たちが戻ってこなければそれだけで終わりです。


 まあ魔術師様がこの世を去れば後を追う覚悟ですのでそれはともかく、会社としてもこの事業に社運をかけて投資してますから成功しなければ潰れて社員全員路頭に迷うでしょう。


 それらの全てを背負っての準備です、ストレスとプレッシャーで死にそうになる僕の気持ちが少しはわかっていただけたでしょうか。


 ちなみにこの王国内の派閥についてもう少し書きますと、それなりに高齢でそろそろ後継者を決めなければいけない王様の下に成人したばかりの第一王女ともうじき成人するという第二王子の二人が居ます。


 他にお妃さまの弟君夫婦もおりますがこちらは継承権から外れており、一貴族として王宮外に住んでおりますので除外されます。


 本当はもう一人一番上に第一王子が居たのですが、この方が勝手に野に下ってしまったから話は混迷を極めているわけです。


 クー様に情報を集めて貰ったところ、どうやら王様は立場上年功序列を覆す気はないようですが、内心は男ということで第二王子派のようで故にお姫様が継承権を失うきっかけを求めているようで討伐などという危険な任務に携わるのを許可しているようです。


 お妃さまは聡明な方でこの件に口出しするつもりはないようですが、代わりに大臣達はやはり若く美味しい汁を吸えそうな第二王子派。


 末端の兵士や国民などは常日頃から市政に交じり善政を行おうとしている第一王女派ですが、正直余り力にはなりません。


 そして肝心の第二王子ですがよく言えば無難な、悪く言えば周りに流される体質のようです。


 ですので本人の意思としてはどちらでもよいというもので、それがまた事態を悪化させております。


 せめて前からの悲願であった今回の討伐を成功させれば領土拡張の手柄もあって間違いなく第一王女の即位は確定するでしょう、それだけに妨害もどれだけ増してくるか想像するだけで胃が破裂しそうです。


 何故一労働者が、それも余所者の僕がこんな複雑な王位継承に関わらなければいけないのでしょうか。


 勘弁してほしいのです、久しぶりの胃の痛みに本当に僅かにちょっぴりだけですが前の世界が懐かしいと思ってしまいました。


 さて今回は何の話をしましょう、ちょっと忙しいので走り書きになってしまいそうです。


 そういえばこの世界の地形について説明していませんでしたね、聞いてびっくりだと思いますがそちらの世界で言う地球平面説のような形になっているようです。


 平面とは言っても地平線が存在することから恐らく全体的に上側に反り曲がっているようですが、それでもそちらの世界より遠くまで見通せます。


 このような平面な大陸で気象がそちらの世界とほとんど変わらないのはよくわからない所ですが、太陽や月が同じ働きをしているからこそ成り立っているのでしょうか。


 お陰で前に重力に疑問符をつけたと思いますがこの世界では大地の裏側は宇宙になっているのですが、何故かそこからも下に向かって物は落ちていくのです。


 他にも平面で真上に太陽と月がある関係上だと思いますが、端のほうは氷河におおわれており極寒の大地が広がっていると言います。


 その端から下に氷やら水やらが落ちると何かとの摩擦で蒸発して雲として地上に戻ってくるそうです。 


 この辺りはもう僕の知識では追いつきませんからろくな理屈付けもできません。


 ただ一説では宇宙というかこの大陸の真下に大いなるマナの大元になる存在があって、そこから吹き荒れる風か何かに乗って浮かんでいるのがこの世界だそうです……検証されたわけではないので眉唾ものな話ですが。


 ですからひょっとしてこの世界の宇宙もまたそちらの世界の宇宙とは理がまるで違うのかもしれませんね、最も一定以上高く飛べない関係上ロケットのようなものがつくられることもないので調べようがないのですけどね。


 さて今回はとても忙しいのでこれぐらいにして、そろそろ仕事に戻ろうと思いますので失礼いたします。

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