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二十通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?


 先日の戦後処理への尽力が認められ、僕はまたしても王国に相談相手として呼び出されました。


 しかも今回面談した相手は何と件の姫騎士様だったので、対面したときは緊張の余り椅子に座るのも一苦労でした。


 鎧ではなくドレスに身を包んだまさに昔話のお姫様の姿は、庶民の僕には眩しすぎて自然と首が垂れてしまいました。


 さてそこでの会談の内容ですが、要するに軍備を整えるための物資の調達や軍資金の確保についてでした。


 どうやらこのお姫様は今回の犠牲にリンゴさん……胸を痛めており、本格的な討伐軍を結成し獣人を一掃しようと考えているようです。


 勇ましくまた民の安全を思っての発言は素晴らしいと思いましたが、しかし素直に強力するとは言えません。


 流石に見返りがなさすぎるからです、野生で生きる獣人を退治したところで戦利品があるわけでもないのですから。


 無論地域一帯の安全が確保されれば自然と仕える土地も広がり、結果として領土は増えて収益も増えるでしょう。


 ですがそこに至るまで、儲けを確保できるまで時間がかかりすぎるうえに上手くいくかもわからないのですからハイリスクすぎるのです。


 しかもお姫様にはその辺りの現実が見えていないようで税収を上げるなどの民に負担をかけることはしたくないようです、お金に携わる立場にないので仕方がない話なのですが。


 となると仮に協力するとなれば会社を上げての支援が必要になるでしょうしそうなれば使えるようになった土地の所有権もある程度は優先的に配分して貰えるようにしてもらわなければ負債で会社が潰れかねません。


 とにかく余りに博打すぎて僕の一存ではとても決めることはできません。


 一刻も早く民から不安を取り除いてあげたいらしいお姫様はどうにも不満そうでしたが、次の会談の期日を決めてその場は解散となりました。


 帰り道王国内で鍛錬する兵士たちの様子を見れたのですが、お姫様に影響されてか士気旺盛で練度も高まっています。


 ただこれだけでは勝算があるのかすら判断できません、できれば獣人側の戦力も知りたいところです。

 

 まあともかく僕は会社に戻りまして社長に報告相談したところ、やはりどうしても難しいという結論になりました。


 獣人に対する恨みつらみはあるけれど、実はこの間犠牲になった中に従業員の家族が居たのです。


 その方の余りに痛ましい姿を見ていたら、わざわざ討伐軍を結成して兵士を……この国の若者を死地へ送るのは心苦しい限りなのです。


 一応その方には弔慰金を多めに支払いましたが、やはり心労はお金で何とかなる話ではなく他にできることもなく申し訳ない限りでした。


 しかも僕はまだ戸籍登録しておらず正確には余所者です、徴兵の重みを知らない身で口を挿むわけにもいかないのです。


 ちなみにクー様とめーちゃんは最近この国に戸籍登録いたしました、貯蓄も程よく溜まったので毎日の宿代も馬鹿にならないし二人はもう他所へ出向くこともないでしょうから思い切って一軒家を購入したついでに行ったのです。


 そして僕らも宿屋を引き払い、今はそこでお世話になっています。


 四人での暮らしは最初こそ戸惑いはありましたが、とても楽ですし……幸せを感じます。


 家事は食事の用意をクー様と魔術師様が交互に行い、ゴミ出しや掃除は僕とめーちゃんのお仕事です。


 洗濯に関しては僕とクー様と魔術師様で時間がある方がやるのですが、基本的に仕事をしていない魔術師様が行っております。


 というか僕がやるとどうしてもお二人の下着、特に胸部を支えるアレを意識してしまいますので出来る限り二人にお願いしております。


 そういえば魔術師様ですが最近は異種族に対する偏見が強まっていることもあり、念のため空気が落ち着くまで外に出歩くのを控えています。

 

 結果として家事の割合は魔術師様が多くなってしまい正直申し訳ないのですが、かといって素性がバレたら困るので家政婦等を雇うわけにもいきません。


 ただお陰でか同じく家にいる時間が多いめーちゃんとよく遊んでいるようで、子供をあやしながら穏やかな笑顔を浮かべられる魔術師様を見ていると僕も嬉しくなり同時に胸の奥がポカポカと温かくなるのでした。


 いずれはここも立ち去らなけばならないでしょうが今ぐらいは力を抜いて平和を満喫していただきたい、なんて思うのは僕の思い上がりでしょうか。


 なのでお姉さんの情報収集はもっぱらクー様にお願いしている有様ですが、この間は酒場で話を聞いているうちに泥酔したようでふら付いた足取りで帰ってまいりました。


 とりあえず部屋へと連れていこうと肩を貸したのですが、クー様は旦那さんの名前を口にして涙を流していました。


 バタバタと忙しくて忘れがちでしたが彼女も又身内を失っているのです、そんな彼女ですが今まで辛い様子を見せずに僕らを気遣ってくれていたのです。


 分かっていたことですが僕はやっぱり愚か者です、もっと彼女をフォローしてあげないと行けないですね。


 さて僕の近況報告はこのぐらいにして、恒例のこちらの世界の紹介を行いたいと思います。


 今回は少しいつもとは違う点を紹介したいと思います、それはこちらの世界の建築事情です。


 というのも実はこちらの世界では基本的に一戸建て、あるいは長屋と呼ばれる横に連なる建物ばかりで二階建ての建物は殆どありません。


 王宮も同じでお城だというのに縦ではなく横に広がっていて、僕がお邪魔した二つの王国ですら見張り塔すらありませんでした。


 何故だと思いますか、実は皆さんは既に答えを知っています。


 前に鳥がいない理由を書いたと思います、そうドラゴンです。


 空を飛んでいなくても一定以上の高さに生き物がいると、例え建物の中だろうと障害物があろうとすっ飛んでくるそうです。


 今でこそ理由がわかっていますが、昔はよくそれが原因でドラゴンに襲われ国一つ丸ごと消滅することがあったそうです。

 

 一応木々と同程度の高さ、十メートルぐらいまでなら平気だと言われてますが前にもっと低い高さでも襲撃されたという話もあるようで念には念を入れてということでしょうね。


 さらに余談ですがこちらの世界には素の大きさが十メートル以上の巨体の魔物もいるのですが何故かそいつらはドラゴンの襲撃対象にならないようです、最もそいつらが何かしらの手段で空を飛べばやはりドラゴン君は駆けつけてくるようですが。


 話を戻しますがというわけで二階建ては理由がなければ認められないので、こちらの世界では高い建物が存在しないのです。


 少し内容が薄い気がしますから、ついでですからドラゴンについてもう少し書いていきたいと思います。

 

 この世界においてもドラゴンは非常に強敵であり、恐竜にも匹敵する巨体の全身を覆う鱗は鉄の矢はおろか大砲すらはじき、咆哮は魔法をかき消し、その翼で音よりも早く飛行します。


 しかも体内に流れる血液には回復効果のあるマナがふんだんに含まれており、流血するや否や即座に怪我を癒してしまうのです。


 話によると剣聖と呼ばれる方が身体を切り裂いたところ、剣が通り抜けた傍から傷が塞がっていき振り切った後には傷跡は残っていなかったとのことです。

 

 そのためかその血液を直接身体に浴びる、または飲み干すと不老不死に近い生命力を得られると言いますが本当かどうかわかりませんしそもそも先ほど説明した通りそこまでの量を出血させることすら難しいのが現実です。


 しかも口からは高濃度に圧縮したマナを光線状に打ち出すようで、これがまた空間を歪めるほどの熱量と速度でもって直線状にあるあらゆるものを溶かして進みます。


 そして吐き終わると歪んだ空間が戻ろうとするためにか、射線上にすさまじい規模の爆発が巻き起こるのです。


 こんな生き物をどうやって退治するのでしょう、僕にはまるでわかりませんが大昔には龍の討伐例が片手で数える程度ですがあると聞きます。


 とはいえどれも先ほど挙げた剣聖クラスの人間が集まり、さらに天より生まれた者すなわち天生者という選ばれた者達と協力してようやくという有様ですから実際には不可能なのでしょう。


 流石の魔術師様もドラゴンには勝てないと断言しております、というのも一度遊びで大空を飛んだところを襲われて野原を荒野にしてしまった経験があるのだそうです。


 誰かを巻き込まなかったのは本当に幸運だったと語ります、ドラゴンがブレスを吐く瞬間に顔を氷漬けにして暴発させることができたのは物凄い偶然で、その隙に逃走できたのはもっと凄まじい奇跡だったと言います。


 けれどその話を聞いて僕が一番興奮したところは、ドラゴンではなく魔術師様が子供のようにジェスチャーを交えてどこか自慢げに武勇伝を語る様子だったことは内緒にしておきたいと思います。 


 さてこの辺りで筆をおかせていただきます、それでは失礼いたします。

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