表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/49

十八通目

 前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?


 前回は取り乱してしまい、大変失礼いたしました。


 我ながら情けないばかりです、何だかんだ言ってまだブラック企業時代に負った心の傷は癒えていないのでしょう。


 結局三日ほど休暇を取った後で魔術師様とクー様に支えられながら出社いたしましたところ、皆がわっと集まってきまして口々に……大丈夫かと心配されました。


 働きすぎだと咎められました、頼りすぎていたと謝罪されました……いつも助かっていますとお礼を言われました。


 温かい言葉の数々に涙が零れました、僕は皆の役に立てていたのだと嬉しくなりました。


 前の王国での失態を生かして常日頃から仕事のマニュアルを作ってクー様に渡しておいたのがよかったようで、実務もそこまで影響は受けていないようでした。


 最も書類は沢山溜まってしまっていましたが、署名捺印ぐらいは持ち帰ってゆっくりしてくれて構わないと社長からも気遣われてしまいました。


 全く持ってこんな優しい人たちに囲まれていながら気付くこともなく気負って暴走していた自分が恥ずかしいです。


 お言葉に甘えてその日の仕事は無理をしない程度に行い、持ち帰れる仕事は持ち帰って少しでも休むようにしました。


 そんな僕に魔術師様は改めて、いつも助けられていると感謝の言葉を告げたうえで身体を大事にするように諭してくださるのでした。


 ありがたいことです、僕は魔術師様に拾っていただいて本当に良かったと思いました。


 だけど問題が一つだけ残りました、添い寝についてです。


 流石に先日のように全員で抱き着いてくるということはなくなりましたが、代わりに日替わりできちんと僕が睡眠をとる様に添い寝するようになったのです。


 今までは一応二人用の個室ということでベッドが二つあったのでそれぞれに寝ていたのですが、わざわざダブルベッドの部屋を取り直されてしまい困っております。


 無論僕は椅子のほうが落ち着くからそっちで寝ると言ったのですが当たり前のように却下されました、というわけでローテーションで僕は魔術師様とクー様とめーちゃんの順で一緒に眠ることになりました。


 めーちゃんはまだ子供ですのでお守りぐらいの気持ちでいいのですが、美しい魔術師様や色気のあるクー様とベッドを共にするのは……もはや拷問です。


 だけどそんなことを言い出せるはずありませんし、何だかんだ言って皆さまの寝顔を見てると頑張ろうと気力がわいてきますので結局この状態がずるずると続いているのが現状です。


 ちなみに魔術師様の探し人は未だ見つかっておりません、というか僕のせいでそれどころではなかったというのが正直なところでしょう。


 僕ももう少し強くならないといけないですね、せめて動揺しないよう精神面を。


 さて今回もこちらの世界で経験したことを紹介したいと思います。


 少し前に食べ物について語ったことを覚えておりますか? そして潜伏虫という魔物についてはどうでしょう?


 二つ並べたところで何となく関連が分かったと思いますが、こちらの世界では果実という食料は野生にありふれておりその内部に寄生している魔物や擬態する魔物もまたありふれているのです。


 潜伏虫は決まった植物の、ちょうど瓢箪のような見た目をした桃のような柔らかい果肉の内部に潜伏している芋虫に似た魔物です。


 見分ける特徴は侵入した穴が開いているかどうかなのですが、計算の上なのでしょうか髪の毛ほどに小さくあいた穴は果肉に付いている黒い染みに溶け込んでしまい見分けるのが難しいのです。


 そして生き物が果肉を食べ終えると共に体内に入りこんだこの魔物は体液を吸収してスポンジのように巨大化し、柔らかい臓器を食い散らかしていくのです。


 恐ろしいことにこの魔物は寄生していた植物と共生関係にあるようで、そうして殺した宿主を栄養にして果肉に付着していた種が芽吹き成長していくのです。

 

 さらには食べる物が無くなり餓死する潜伏虫の死骸をも栄養にしてしまいますが、その際に潜伏虫の胎内についていた卵が植物にくっつき自然と孵って生まれた幼体はその果肉にまた寄生するサイクルを繰り返すのです。


 ちなみに卵の数は生る果実の量より少なく、いくつかは安全に食べられるので食料にする際はそこを見極めなければいけません。


 これは恐らく安全な当たりを混ぜておくことで生物に完全に避けられないようにする工夫だと思っています、何せ生き物が口にしてくれなければ魔物も植物も繁殖することができませんから。


 なおこれは余談ですがどうも宿主にした生き物によって果肉の味は微妙に変化するようです。


 同族を依り代にした果肉は舌に突き刺さるような刺激と吐瀉物のような味に感じられ、他の種族の場合は甘ったるい極上のパフェのような触感になるようです。


 僕が食べたのは四足獣のものだったのでその後のことを忘れれば美味しい部類でした、しかし魔術師様は顔をしかめており少し首を傾げたものですが後で実は甘いものが苦手だったと知りました。

 

 まあ一度寄生された身としてはできれば二度と手を出したくはないのです、では今回はこの辺りで失礼いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ