十五通目
皆さま方、いかがお過ごしでしょうか?
こちらの国についてから数か月が経過いたしました、僕はようやく仕事が決まりほっと一息ついたところであります。
前回お話しした通り他所からきた人間として中々信用が得られずに困っておりましたが、運が良いことに先日前の王国でお世話になっていた方が交易のためにこちらへと来ていたようでたまたま再開したところで相手先に僕のことを紹介してくださったのです。
お陰様で何とか前と同じような業務内容の仕事にありつけることになり、給料も前ほどではありませんが何とか四人が生活していける程度には稼げるようになりました。
魔術師様は心配そうに前のように無茶はするな、一日で5時間は寝ろと口にしながらもぽつりと助かると言ってくださりもうそれだけで二十四時間フル稼働できそうなほど気力が沸き立ってくる有様です。
しかしクー様は未だに仕事が見つからず僕らに負担をかけていることで肩身が狭いようで、早く仕事を見つけようとこの間は風俗店に顔を出そうとするまでに追い詰められてしまっていました。
仕方なく利子抜きの借用書を作って貸している形にすることで、多少は落ち着きを取り戻したようですが何とかこちらのフォローもしていきたいところです。
めーちゃんは最近お友達ができたようでよく王国の中央にある噴水周りで遊んでいて微笑ましさを感じます。
しかしながら勉強はまるでしておらず、そもそも前の国でもそうでしたがこの国においても余り教育に力を入れていないようで学校もなく一部の貴族階級の人達が家庭教師を雇っているくらいでした。
当然識字率は相変わらずの低さで、おかげで僕なんかが有能として扱われているわけですがそれはともかくめーちゃんの未来を考えれば最低限読み書きぐらいは出来るようになって欲しいので空いた時間を使って勉強を教えることにしました。
最初は嫌がっていためーちゃんでしたが、少しずつ単語が読めるようになった際にご褒美として絵本を買ってあげると食い入るように読み始め今では進んで読み書きの勉強をしております。
元々こちらの世界で僕のように翻訳札を使わずに言葉に触れていたせいでしょうか、覚えが早くこの調子ならあと少しで読み書きに関しては僕を追い抜いてしまうでしょう。
そうなったら今度は算数を教えてみようと思います、本人のためでもありますがそれ以上に素直に授業を受けてすごいすごいとほめてくれるめーちゃんが可愛らしいので僕個人も家庭教師を続けたいのです。
少し自慢っぽくなってしまいましたね、付き合わせてしまって申し訳ありません。
さて今回も最後にこちらの世界で体験した出来事について紹介したいと思います。
そちらの世界ではゴブリンとかスライムといった魔物が有名ですよね、実はこちらの世界にもよく似た魔物がいるのです。
どちらのことから書こうかと悩みましたが、遭遇した順番ということでまずはゴブリンについて書いていきます。
最もよく似た魔物というだけあって見た目は、特に雄に関しては某ゲームのごとくまあ小鬼と表現して間違いではないでしょう。
そして知性は人間より劣るけれども二足歩行で火を含む道具を使うことができ、更には独自の言語体系をも操っていて将来的に人類のように進化する可能性もあるように思われます。
普段は雄と雌の混じった群れで生活していて、雄にはおでこに角状の出っ張りがあるのですがこれが大きかったり数が多かったり要するに立派な個体ほど群れの中で優位に立てるようです。
そして一番上に立つ個体がリーダーとして振る舞い群れ全体の方針を決めていきます、そのため乱暴な思考の持ち主がリーダーに立てば凶暴に暴れまわるし理性的な個体がリーダーになれば人類と取引をしたり共存できるほどに穏やかにもなるようです。
要するに物凄く賢い類人猿といった感じの生態で少々がっかりするかもしれませんが、やはり魔物と称されるだけあって危険度はこちらのほうが遥かに高いと思われます。
何せ知性があるために人のように悪だくみができてしまう個体が多いこと、そして群れのトップに立てないと分かるとさっさと見切りをつけて一人で生活するようになるものも多いのです。
そうなると好き勝手放題に暴れまわるようになり、特に群れではトップがハーレムを築いていて雌に近づけなかったうっぷんを晴らすように性的欲求を満たすため様々な悪事を行うようになりやすいと言います。
群れの隙を見て雌を攫ったり襲ったりは当たり前、それどころか姿かたちが似ている別種族を襲うこともざらにあると言います。
特に弱い個体を見極め狙うずる賢さもあるため、人間の女子供は被害に会いやすく身近にある脅威として恐れられています。
また噂によればはぐれ個体同士で結託して人の里を襲い男を惨殺しつくし、女子供を奴隷として連れ帰ったことがあると言います。
勿論噂ですので本当とは限りませんが、実際にはぐれ個体が集まりゴブリンの群れを襲った事例は何度かあるようなので眉唾とも言い切れない脅威を感じたものです。
最もこちらの世界ではゴブリンは筋力こそ人の比ではないほど強いのですがマナを扱うことができないため、基本的に魔法が使える人類が負けることはほぼあり得ないそうです。
ちなみに僕が遭遇したゴブリン達は手に木の棒を持って四足獣を追いかけていて、最初は魔物ではなく昔話に出てきそうな小人の狩人なのではと微笑ましさすら感じてしまいました。
というのも狩りをするのはもっぱら雌の仕事だそうで当然出会ったのは雌なのですが、その顔立ちや体型は醜悪さとは無縁で人間の感性からしても結構可愛く感じる見た目をしていたのです。
だから警戒心も持たずに眺めていた僕はあっさりとゴブリン達に見られてしまったのですが、彼女達は凶悪な表情を浮かべるどころかむしろ脅えた様子すら見せて悲鳴を上げました。
するとすぐに雄がやってきて、こちらはまあ凶暴そうなそれこそ鬼という感じの顔つき体つきをしていて少し恐怖を感じてしまったのですが何故か彼らは武器を置くとすぐに頭を下げて許しを請うのでした。
翻訳札のお陰で言葉が通じるようなので話を聞いてみると、どうにも一度人間に襲われたことがあり敵わないことは骨身にしみているというのです。
しかし彼ら曰く何も悪いことをしない穏健な群れだというのに何故人間が攻撃するのだと不思議に思っていると、魔術師様がそっと耳打ちしてくれました。
はぐれ個体が人を襲って罪を擦り付けられることもあるけれど……見た目が良い雌ゴブリンを奴隷にしようとして襲う輩も少なくないと。
それはもはやはぐれ個体の行為と何も違いが感じられません、所詮欲に駆られればゴブリンも人間も大差ないということなのでしょうか。
結局僕らはその群れに何をすることもなく立ち去りましたしその後どうなったかはわかりません。
魔法が使えない僕にとっては脅威でしかないはずのゴブリンが、何故だか妙に哀れな生き物に思えてしまいました。
少なくとももしも僕がそっちの世界に戻ってゲームをする機会があったとしても、前と同じようにゴブリンを攻撃する気にはなれないでしょう。
ちょっと同情的になってしまいましたね、最も次回する予定のスライムは一転してひたすらに凶悪ですので安心?してください。
ではこのあたりで失礼いたします。




