十一通目
前略、皆さま方いかがお過ごしでしょうか?
などといつも通り筆を執ったのは良いのですが、正直今回はあまり書くことがありません。
何故なら旅路は平穏無事にまったりと進んでいるからです。
一応変わった点を言うのならば途中で馬車を見かけて同乗させていただいているぐらいでしょうか。
勿論きちんと謝礼は前払い済みであり、前の王国で調達した物資との交換で賄った次第であります。
ちなみに態々物々交換している理由についてですが、こちらの世界は基本的に王国制で通貨も当然王家が刷っているわけで国ごとに全く違う物へと変わってしまうのです。
しかもあの王国で流通していたのが金貨や銀貨にも似た物体で、要するにお金自体に同等の価値のある物が使われているという本位貨幣的な側面があったのです。
当然そうなると貨幣を持っていかれると自国の金銀のような物を外国に持ち出されるということになるので嫌がられてしまいます。
ですから貨幣の代用品として宝石類を集めようとしたのですが資産額が多すぎて難しかったため結局物々交換をすべく、件のマジカルバックに長期保存がきいて交換がしやすい食物系の必需品や酒類などの嗜好品、薬のような消耗品などを手あたり次第詰め込んできた次第です。
今回は酒と煙草の提供と道中の食料を提供することで同意がまとまりました、馬車には運転手にその妻と娘が載っていて三人分の食料を提供することになりますが全然余裕です。
何せ前の王国で稼いだ貯蓄のほとんどを注ぎ込んで用意したのです、はっきり言って仮にこの状態が数年続いても物資が尽きることはないでしょう。
魔術師様は魔法こそすさまじいですが体力面はそこまで優れておりませんから、今回馬車での移動になったことで存外ほっとした様子を見せております。
最も馬車に乗っているのが皆人間であるためにローブを脱ぐことはおろかフードを外すこともできないのでその点は窮屈そうです。
この調子なら次に手紙を書くのは目的地に着いてからになりそうです、新しい国でも上手く仕事を見つけて魔術師様に恩返しができればいいのですがこればかりはついてみないと何とも言えません。
さて今回も何かしらこちらの世界の不可思議な光景を紹介しようと思いますが、今回は趣向を変えて違う意味での景色を紹介したいと思います。
それはどういう意味かと言いますと鳥についてです、ひょっとしたら疑問に思っているかもしれませんが今までの手紙に僕は一度も鳥について書いたことがないことにお気づきでしょうか。
実はそれには訳がありまして、こちらの世界には飛行する鳥のような生物が存在しないのです。
何故と思うかもしれませんね、でもその答えは確実にそちらの世界の皆さんも知っている強大な魔物のせいなのです。
巨大な空を飛ぶ蜥蜴即ちドラゴン、こちらの世界の制空権はそいつらに牛耳られているのです。
ほんの僅かでも何かが大空を飛ぼうものなら奴らは何処に居ようともすぐに察知して襲い掛かり、辺りの地形が一変するまでひたすらに攻撃を仕掛けるのだそうです。
おかげで滑空程度ならばともかく鳥のような飛翔する生物はこの世から駆逐されていて、おまけに航空技術も発展していない有様です。
魔術師様も魔法を使えば強引に大空を飛ぶことは出来るようですが、音よりも早く飛ぶというドラゴンを相手にするのは嫌なようです。
だからこちらの世界では木々よりも高く飛ぶ生物は存在せず、空を見上げても何一つ遮るものは何もなくて雲ぐらいしか視界に移ることはありません。
しかし抜けるような大空とはよく言ったもので、そんな障害物のない空を雲が流れていく光景は見てて心が安らぎます。
さてどうでしょうか、今回は全体的に少し調子を変えて書いてみましたが少しは楽しんでいただけたでしょうか。
ここの所、あるいは最初からかもしれませんがどうしても独りよがりな手紙ばかり送っている気がして申し訳なく思っていたところです。
出来る限りこの手紙に読む価値が生まれるよう努力していきたいところです、ではこのあたりで失礼いたします。




