ミスリードの予兆
本日の更新はここまでです。
思った以上にハーレムって難しい。これ、うまく行くのか?と本人が不安です。どうか、お付き合いよろしく、お願いいたします。
学校を後にした由岐たちは、商店街を抜け駅ビルへ入った。六階建ての駅ビルの中では、一階はコンビニ、切符売場、携帯ショップ、昔からの定食屋、二階がホーム、三階が飲食店のテナントと、なっているため、三階へと向かう。
駅に来るのも久しぶりだな、と内心で思うが、目につくのはやはり『改変』の跡であった。
通りすぎた携帯ショップには、『ハーレム割』の文字、たどり着いた、三階の飲食店テナントの全ての店に、『ハーレムテーブル完備』、『ハーレム定食』など、ハーレムと言う文字が踊るように飾られている。
ソレを見て違和感を感じているのは、僕だけなのだろう。そう、思うと孤独感が胸を締め付ける。
エスカレーターを昇ったため、今の由岐は単独である。
その後ろから来た咲桜は、三階の様子を見て首を傾げていた。
「どうした? 咲桜」
気になった由岐が尋ねると、うーんと唸った後、後ろから来る帆乃佳達との距離を見て小声で言う。
「ねぇ。なんでハーレム広告ばっかりなの?」
「え? これ、咲桜の望みの改変じゃないのか?」
その答えは咲桜の首を振る動作で得られたが、追い付いてきた帆乃佳、わかなが合流すると、この話はそれきりとなった。
短く、胸ポケットのスマホが震える。取り出すと、先に店へと歩く咲桜からのショートメッセージだった。
『気になることが有るから、夜に話そう』
それだけだが、由岐は一気に不安になる。
今までは、咲桜の望みによる改変。そう思い込んでいたが、咲桜は否定した。つまり、この改変は別の誰かの望みによる改変と言うことになるのではないか? と。
だが、咲桜のときと違い、少し行動は変だが、帆乃佳、わか姉に違和感を感じはしないのだ。人格のズレとも言える違和感を。
いや、もし感じたとして、それがドッペルゲンガーによる入れ替りと確信は出来ない。
それに、向こうに、咲桜以外の二人が存在するとは限らないのではないか? と由岐は思考を続ける。
もし、知らない誰かの入れ替りで改変が起こったとして、対処は不可能だろう。例え、特定出来たとしても、その人の入れ替りを取り消す、無いしは再度入れ替りをさせる事など出来るとは思えない。
「——じゃ、ゆきちゃん、お願いね♪」
「由岐くん、ありがとうございます」
「さすがお兄ちゃん! やっぱり、ハーレム王を目指すだけはあるね」
え? なんの事? とは言えない。既に、レジ前には僕しか居ないのだから。
「お会計は、ハーレム割と、学割を致しまして、三千二百六十円となります」
一人頭、千百円!? え、僕は何も頼んで無いのに?
「あ、じゃあスマホ決済で」
「では、こちらにどうぞ」
小気味良い、明るい電子音と共に由岐の懐が寒くなる。
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ。あ、店内での猥褻行為は禁止となっておりますので、ハーレムであってもソコはご留意ください」
「公開プレイに興味無いわっ!」
その反応を確認してから、女性店員は続けた。
「では、まさか……多目的トイレで……」
「おい、店員。さすがに怒るぞ」
「失礼しましたぁ♪」
明らかに反省していない感じで、軽く謝られた由岐は溜め息と共に、咲桜、帆乃佳、わかなのいる、ハーレムテーブルと言う良くわからないものが置かれているブースに向かう。
「お兄ちゃん、遅い! まさか、店員さんもハーレム要員に?」
「おい咲桜、僕はハーレムは目指してないからな?」
「え? 由岐くん、去年はハーレム王に俺はなる! だから、帆乃佳はメンバーな? って言ってくれたのに……」
「ゆきちゃん! ほのかちゃんを泣かすのはどうかと思うよ?」
「ぐ、わ、悪かった。咲桜との軽い冗談のつもりだから」
全く身に覚えのない言動と、帆乃佳をハーレムメンバーに指定する図太さ、傲慢さは僕には無いのに……。そう、内心でぼやきながら由岐は席にようやく座る。
ハーレムテーブルなるものらしいが、何が違うのかわからない。と、思ってたら直ぐにわかった。
席が半円状に繋がり、テーブルが半円の真ん中を開けるように二つに分かれている。そして、由岐は開いているど真ん中へと、誘導され腰かける。
左右には、わかな、帆乃佳。膝の上に咲桜が座る。
「なぁ、なんでソファ空いてるのに膝の上に座る?」
「特等席だから」
「いいなぁ、さくらちゃん」
「うぅっ。咲桜ちゃん、少ししたら変わってね?」
「おかしいのは僕なのか?」
明らかに、ドーナツ屋という、ありふれた店での座り方ではない。僕はそう確信もしてるし、それが常識の筈だ。
だが、わか姉をはじめ帆乃佳や咲桜はこの異常を普通ととらえているようだった。
「はぁ、とりあえず食べよう。冷めると美味しくなくなるし、帆乃佳も早く味わいたいだろ?」
「うんっ♪ 由岐くんありがとう! じゃあ、いただきます」
そう帆乃佳が告げたあと、皆で続く。
テーブルを見ると飲み物が、三つしかない。
抹茶フラッペ、抹茶ラテ、抹茶シェイクとどれも抹茶フェアの商品だ。帆乃佳は抹茶オレを一口飲んだあと、由岐の視線に気づき笑顔でグラスを手に、口にしたばかりのストローを由岐の口元へと持ってくる。
「飲みたかった? はい♪」
たしかに、由岐は喉が渇いている。考えてみれば、学校では全力疾走、膨大な量の会話などと、かなりの水分を体から放出している。
だが、目の前にこうも当たり前の様に、飲みかけを異性が出してくると言うのはどうなのだろうか? そう、由岐は一瞬考えるが、帆乃佳の瞳が僅かに揺れ出したので、迷わずストローを口に含み、抹茶の爽やかな苦味、ミルクの甘味、シロップの糖分を味わう事にする。
「ん。旨いな、抹茶ラテ」
「うん♪ でも、そっちの抹茶フラッペも美味しそう」
「ん? ほのかちゃん食べる?」
「うん♪」
わかながスプーンでフラッペを崩し、食べていた手を止め、スプーンで一口分掬い帆乃佳の口へと差し入れる。
もちろん、この際由岐の膝の上の咲桜は由岐に抱きつき、前のスペースを開けてやり取りがしやすくする。
「なぁ、咲桜。食べづらくないか? 降りても良いんだぞ?」
「ん~? ふぇいきぃ~。んぐ。お兄ちゃんも、抹茶クローラー食べる? はい」
そう言って、有無を言わさず、手にしていたドーナツを由岐の口へ突き入れる。
「ぐっ!」
柔らかなドーナツと、中のとろけるような抹茶クリームが口に広がり、先程少しは癒された口内の渇きがまたも由岐を襲う。
「あ、お兄ちゃん喉渇いてた? はい、じゃあ抹茶シェイク♪」
咲桜は鬼であった。口内の水分を奪われ、苦悶の表情の由岐に対し、吸引力を一番要するシェイクのチョイスである。
涙目で帆乃佳の抹茶ラテに視線を送ると、帆乃佳は一瞬で応える。
「はい、抹茶ラテ♪」
今度は迷いすらなく、ストローに口をつけ渇いた口内を潤す。
「助かった。帆乃佳。しかし、ドーナツって口の中の水分奪われるな」
「ううん、いいよぉ♪」
「ゆきちゃん、ほのかちゃんばっかりずるい。はい、抹茶フラッペ」
横から突き出されたスプーンが、由岐の口へ無造作に突き入れられ、由岐は喋るのを諦めフラペチーノを味わう。
抹茶の濃厚な苦味が、氷の融解と共に和らぎながら口のなかを巡る。甘味は少ないが、それがドーナツのお供にちょうど良い。
そのあと、膝の上を、わかな、帆乃佳と変わり、全てを食べきった後、由岐は気づく。
いつの間にか流されていた、と。
そして、周りのテーブルの学生達からスマホを向けられていたこと、刺すような目で睨まれていた事などを知り、本気で学校へ行きたくなくなるのであった。
日曜日更新は多分一話になるかと思います。が、更新はしますので、どうかよろしく、お願いいたします。
分かりにくい、これ、なんで?とかありましたら気軽にメッセージ等お待ちしてます。
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