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改変と、結果と

 帆乃佳と別れたあと、急いで自分の教室のある校舎へと走る。走っている間に予鈴は鳴っている為、外にはもう生徒は由岐以外に居なくなっていた。


 ふと、視界の端にわかなを見た気がしたが、そんなはずはないだろうと、頭を振り走る速度をあげる。


 品行方正を人の形にすると、わかなになる。


 そう言いきれる程、温見わかなは真面目である。遅刻どころか、私生活すら五分前行動が当たり前になっている程に何かを破る行為はしない。


 だからこそ、由岐はわかなに頭が上がらないのだ。


 どちらかと言うと由岐は、細かいことにこだわる癖に変なとこで大雑把なのだ。


 小学生の遠足の時、誰も持ってこなかったレジャーシートを一人だけ持ち込み、弁当を忘れる位に。


 そんなことを考えて居たら、担任の角昇(つの のぼる)が前を歩いていた。


 由岐は、追い抜き様に挨拶をする。


「おはようございます! 先生!」

「ん? あぁ、急げ……よっ。て、折原じゃねぇかっ! 貴様は本日、遅刻にする! この角昇が、先に教室にたどり着いて見せる!」


 なぜか、目の色を変え、急加速で由岐を抜き去りつつ、角は叫んだ。


「また、新たな美少女と登校してきた、お前は必ず屠る!」

「ちょっ! あんた先生でしょうがっ!!!!」


 こうして、普通科のある校舎まで残り僅かと言うところから、担任と由岐による危険なレースが始まった。


 由岐も、加速し体育教師とは言え、中年の角を若さで抜き去る。


 しかし、角も老練な(わざ)を使い、離された距離を縮める。


「ちょっ! 先生! 教員用のタブレット投げつけてくる? ふつう!」


 後頭部にクリーンヒットした由岐は、手で押さえた為手の振りが落ち、速度が低下する。


「ふはははは! 例え壊れようが、所詮は学校備品よ。貴様に泥を塗るためなら壊れても構わん!」


 その隙に、野球のランニングキャッチよろしく、地面に落下直前のタブレットを掴みあげ、角は加速し、由岐と並ぶ。校舎は既に目の前である。


 校舎に入り、階段へと二人はもつれ込むように突入し、踊場、二階、踊場、三階へとインとアウトを交互に変わりながら登っていく。


 四階へと先に躍り出たのは角であった。三階の踊場で、由岐とすれ違う際に襟を引き速度を落とさせたのだ。


「ふはははは! 勝った! 勝ったぞ! 折原ぁ~~~!」


 だが、ここで後ろから角の足に赤いなにかが直撃し、教室を通りすぎるように転がりながら滑って行った。


 由岐は廊下の角にある、消火器を投げていた。角の足を目掛けて。


 見事に転がり滑っていった、担任の姿を確認して由岐は、ゆっくりと教室のドア、ゴールテープを切るのだった。


 ガッツポーズと共に。


 次の瞬間、脳天に強い衝撃と、その後水が降ってきた。まるで、バケツの水をひっくり返したかのように……。


 正確には、水の入ったバケツが降ってきたかのように。で、あるが、足元で鈍色に輝くアルミバケツが存在を主張していた。ここにいるよ? と。


 そして、次の瞬間には拍手と喝采、笑い声が教室を抜け、廊下に響き渡った。


「いやぁ、折原くんはやっぱり、水も滴る……だねぇ」

「おい、平田、笑いながら抜かすな!」

「いやいや、ほら俺ら折原様から見たらモブじゃん? ハーレムとか無理じゃん?」

「知らんっ! というか、何がモブだ佐々木!」


 ずぶ濡れの由岐に、そっとタオルを掛けながら秋人は言う。


「落ち着け、ゆっき。世界は、どこまでも残酷なのさ」

「おい秋人。なんで皆を止めなかった?」

「……無理言うなよ。人間、出来ることと出来ないことってあるもんだぜ?」

「じゃあ聞こうか、どうして、こうなった?」

「ほら、これ朝のレスな」

 秋人はスマホを取り出し、スレッドを開き、由岐に見せる。


 そこには、数多の写真と、ハッシュタグが付いていた。『折原まじ滅殺』と。


「いやね、ほら。ほのっちで、まぁ荒れるだろうなぁとは思ったから、沈炎剤の剛くんを用意してたのよ?」

「でもさ、まさか咲桜ちゃんまでってなると……ね?」

「なにが、ね? だ! 咲桜は妹だぞ?」

「義理のだろ?」


 秋人は目を怪しく輝かせ、続ける。


「昔、偉い人は言いました。義理の妹なんて」


「「「「「「萌えるだけだろうがっ!」」」」」」


 クラスの男子全員の声が揃い、由岐は心底引いた。


「なんなの、お前ら……打合せしてたの?」


「これが、男子の魂の叫び、さ」

「はい、席に着けぇ。あ、折原はそのまま立ってなさい」

 いつの間にか立ち直り、さっきの叫びにも参加していた角は、由岐をそのままにHR(ほーむるーむ)を始める。


「ええー、本日の進路相談は出席番号十五番迄のやつな。場所は進路指導室、わかるか? よく、谷原が行く部屋の隣だ。わかるな?」


 生徒指導室の隣、と誰もが理解し、頷く。秋人を除いてだが。


「先生、どこのことっすか?」

「よおし、谷原。お前はこの後、生徒指導室な」

「え? なんで?」


 HR(ホームルーム)は、すぐに終わり、今日の進路指導ではないものは、そのまま帰路に着いたり、新入部員の勧誘に行ったりと様々だった。


 僕は、出席番号五番、つまり今日が進路相談日だ。現状から言うと、進学で間違いないのだが、学部は正直、考えていない。何がしたいのか? 何が出来るのか? その選択肢そのものが曖昧で、選ぶことが出来ないでいる。


 それと、気になるのは、今日のやり取りである。教室もそうだけど、担任との競争。あれも、あの先生ならあり得る。


 そう思う自分と、違和感を感じる自分が心のうちでせめぎあっている。教室のやり取りもそうだ。女子が止めてないだけでなく、秋人すら止めなかった。


 もちろん、虫の居所が悪いだけ、とも考えられるが、どうにも腑に落ちないのだ。


 考えを巡らせていると、校内放送が掛かる。


『二年A組、折原由岐、進路指導室へ』


 どうやら、僕の番が来たようだ。まだ帆乃佳は入学式の途中だろうから、余裕で間に合いそうだ。教室を出て、二階の進路指導室に向かう。


 ほどなくして、進路指導室前に到着し、扉をノックする。

「入れ」


「失礼します」


「まぁ座れ、折原。で、お前の進路希望は一年の終わりと変わらないか?」

「はい」

「そうか。全く、お前みたいなリア充は消滅すべきだ」

「は?」

 由岐はなぜ、進学がダメなのか、理解が及ばなかった。だが、次の担任の言葉で本当の意味で改変という、未知の異変の怖さを味わう事となる。


「まさか、進路希望が一年の終わりと変わらず。ハーレム王とはな」


「え? なにそれ?」

 一瞬、何を言われたのかが理解できず、思わず聞き返す。


「なに惚けてるんだ? お前の出した進路調査表に書いてあるだろうが。ほら」


 目の前に出されたのは、紛れもなく一年の終わりに書いて提出した進路調査表であった。


 ただ、違うのは進路の希望が由岐の記憶と大きく異なっていた。


 第一希望 ハーレム王

 第二希望 進学


 何度見返しても、由岐本人の字で、そう書いてある。


「あの、先生」

「なんだ?」

「僕、ハーレム王なんて目指さず進学します」

「おいおい、大丈夫か? まさか、朝のアレで頭が」

「いえ、多分これふざけて書いたんだと思いますよ」

「ん~? そうか? 両親ともノリノリでハーレム王を目指せとか、言ってたがなぁ」


 なにその展開。息子の進路相談で、ハーレムを推すとか本当にわけがわからない。というか、違和感を感じている事から、これはやはり改変なのだろう。


 ただ、そうなると、この改変は咲桜が望んでいるとも取れる。何しろ、この世界は、咲桜が望んだ世界として生まれたはずなのだから。


 なんとか、進路は考えると言うことで保留にし、校舎を後にする。


 まだ帆乃佳は、入学ガイダンスを受けている時間なので、人目の無い場所を探し、スマホの電源をいれる。飛び込んでくる咲桜の下着姿を無視して、スレッドを検索する。


 そして、由岐は携帯を取り落とした。


 スレッドには、タグで公式折原由岐のハーレム。その文字と、わかな、咲桜、そして、今日の日付で帆乃佳が写真付きで上がっていた。

 本日はここまでです。


 応援、閲覧ありがとうございます。


 どうなるのか?とワクワクしていただけているなら幸いです。


 また、気づいたことや、分かりにくい、わかりづらい、読みづらいとかありましたら気軽に指摘いただけるとありがたいです。


 ブックマークや評価、レビューなどもお待ちしております。


 とりあえず次回の更新は日曜日。と言うことで、次回もお付き合いいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  設定。ドッペルゲンガーにより変わった世界で、両方の世界を知る主人公がどうなっていくか。 [一言]  入れ替わりをすんなり認めるために、もっと納得しやすい理由があるともっとすんなりいったか…
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