改変され行く、世界
とりあえず、なんか、サクサク書けてしまったので、上げます。
折原由岐(主人公)
折原(大崎)咲桜(義妹)
谷原秋人(幼馴染み、親友)
温見わかな(幼馴染み、普通科生徒会長)
本郷剛(つよし、アダ名はごうと読む)
本郷帆乃佳
商店街に入る頃には既に、周りは多くの学生で溢れていた。まだ、朝のため、ほとんどの商店はシャッターを下ろして居るなか、パン屋や、豆腐屋などがひっそりと、営業をしている。風に乗って、香る芳ばしい焼きたてのパンの香り。そして、バターの香りが広くはない商店街のアーケード内を流れていく。
そんななか、香りを楽しむでもなく一人居心地の悪さを感じながら、大きな楽器ケースを引く生徒が居る。折原由岐である。
周囲の学生からスマホ兼生徒手帳を向けられ、シャッター音が先程から至る方角で聞こえる。
「ねぇ? 由岐くん。なんか、皆に見られてない?」
「…………」
由岐は答えられなかった。
温見わかなは綺麗系女子。咲桜は、可愛い系女子。そして、目の前の帆乃佳もまた美少女なのだ。守りたい系女子。つまりは、姫系なのだろう、その容姿につられ、視線を移すと先には折原由岐も居るのだ。
そう。裏山けしかランキング殿堂入りの。
「やっぱり、見られてるよね? うーん、なんだろう」
「…………」
そんなことは露とも知らず、帆乃佳は由岐に質問を重ねる。由岐は足早に、アーケードを抜け校門を目指す。だが、世界はそんなに甘く無かった。
アーケードを抜けた瞬間に、由岐の体に抱きついて来た小柄の人物がいた。
「お兄ちゃん! 一緒にいこっ♪」
咲桜であった。身長は百五十センチ程度のため、百七十まであと二センチの由岐からしたら、咲桜の頭が肩より少し高い。
それもあってか、咲桜は腕に抱きつきながら肩に頭を乗せるようにして、なに食わぬ顔で由岐と同じ歩調で歩き出す。
由岐は、もうどうにでもなれと、胸ポケットの震えが止まらぬスマホ兼生徒手帳を押さえ、服の上から電源ボタンを長押しして、シャットダウンした。
そうして、長く響く振動を最後にスマホは完全に沈黙した。
「咲桜……お前なぁ」
「おはよう、咲桜ちゃん」
「ん。おはよう、ほのっち!」
由岐の心情など知らぬまま、明るい挨拶をし、左腕に咲桜。右手側には帆乃佳と、なぜか分かれて由岐を挟みつつ登校を続けた。
「なぁ、二人とも、恥ずかしくないのか? 特に咲桜」
「なにが? お兄ちゃん大好きだから問題ないよ?」
「? 由岐くん? なにか恥ずかしいことあるの?」
「いや、帆乃佳は生徒手帳見てないのか?」
「見たよ? でも、内容は言えないんだよね……鉄の掟? が有るみたいで異性には他言したらダメみたい」
帆乃佳は顎に指をやり、不思議そうに首を傾げた。
「そのなかに、僕に関する何かはあった?」
「うん。というか、それがメインだったよ。SNS。あ、そっか、だから視線を感じてたのか。由岐くんの話題が多いってことは、由岐くんは有名人! なるほど」
やはり、どこかズレた答えにたどり着き一人納得しては頷く帆乃佳を見て、由岐はため息を漏らす。
「ところで、咲桜。髪型変えたのか?」
以前は肩までのセミロングを整えただけだったが、今日は髪止めを使い、片側だけサイドアップをしている。
「うん。似合うかな?」
「あぁ、うん。似合うと思うぞ」
普通科特進科の制服は、赤のラインが基調のギンガムチェックのスカートに赤のリボン、そして、咲桜の髪止めは赤の花が付いたもので、とても似合っていた。
素直に由岐が誉めると、咲桜は頬を染め、腕により強く抱きつくのだった。
それをどこか羨ましそうに帆乃佳は眺めつつ、笑顔で告げる。
「やっぱり、由岐くんと咲桜ちゃんは誰が見ても仲良しだよね」と。
こっそりと、腕に抱きついて肩に頬を寄せる咲桜に由岐は聞く。
「これが、強制力ってやつか?」
「まだお兄ちゃんは覚えてるんだ? うーん。やっぱりお兄ちゃんは何かが違うのかなぁ」
思案げに首を傾げながら咲桜は続ける。
「そう、元から仲の良かった義理の兄妹。そう言う風になってるはずだよ。強制力で改変されて。スマホで確かめてみたら? 多分、昨日の入学式のスレとかで変化を見つけられるんじゃないかな? かなり、男子のスレ、盛り上がってたよね」
「待て、なんで男子のみ閲覧制限のスレッドを知ってる?」
「昨日の夜に、お兄ちゃんのスマホをハックし……ううん、見せて貰ったの」
「お前、ハッキングまで出きるのかよ……。あと、本人確認と指紋認証はどうした」
「そこは、アクセスポイントに履歴が残ってたから拾って……ううん、愛の力で開いたんだよ♪」
「可愛いこぶっても無駄だ。マジで止めろよ?」
「ぶー、あ、でも待ち受けは変えといたよ。あんな無機質の壁紙なんてダメだよ?」
そう言って、また腕に頬を寄せご機嫌で歩き続ける咲桜をみて、スマホを点け、壁紙を見て即また電源を落とした。
目に飛び込んだのは、ピンクのフリルと白の水玉模様の、下着姿の咲桜の画像だった。
「おい、咲桜。これはなんだ?」
「♪」
「マジでこれどうすんだよ。起動して、最短で壁紙を変えるには……」
「あ、無理だよ。ロックしたから」
「は?」
「壁紙の変更をロックするコードいれたから、変更はできません。あ、もしかして裸の方が良かった?」
どうしたものか、と悩む前に咲桜は胸を張りいい仕事をした様な満足げな表情で見上げて来ていた。
「マジか?」
「おおマジ♪ 裸の画像送る?」
どうやら僕の確認の仕方が悪かったらしい。この咲桜はどうしてこんなにも脳内がピンクの花畑なのか、今度しっかりと話をしなければならないらしい。
「そうじゃない! 変えられないのがマジなのか?」
「うん♪」
この時、僕のスマホ兼生徒手帳は、人前で電源を入れることを諦める事となった。
ほどなくして、校門を潜り、手を振りながら校舎へと咲桜は入っていき、帆乃佳と由岐の二人は東の校舎へと向かい歩き出す。
「ところで、由岐くんのスマホ壁紙がなんで咲桜ちゃんの下着姿なの?」
帆乃佳の爆弾発言と共に、冷や汗が吹き出すのを由岐は止められなかった。
帆乃佳の一言で、由岐の体感温度が先程までは過ごしやすく、柔らかな陽射しで照らしていた太陽が雲に隠れたかのように、そして、冬が戻ってきたかのように一気に下がる。
「いや、あれは昨日咲桜が、寝てるときにやったらしくて。しかも、変なコードでロックしてるらしいんだ」
誤魔化さずに、正直に伝えると帆乃佳は、振り向きとても冷めた目で口を開いた。
「嘘下手だよね。由岐くん。あんな、えっちな写真撮ってるなんて」
「待て! 誤解だ!」
正直に伝えたはずが、なぜか嘘と捉えられ由岐は肩を落とす。
「でも。そっか、由岐くんも男の子だから……なら、私も……咲桜ちゃんに勝つには……うん。頑張ろう!」
落ち込む由岐に帆乃佳の独り言は聞こえて居なかった。
後日、由岐の携帯には、際どい手ブラの帆乃佳の画像が送られてきたのは別の話である。
帆乃佳を校舎まで送り届け、チェロを生徒用ロッカーへと運び、教室へ向かおうとしたところを帆乃佳に止められる。
「あ、今日の帰りも一緒に帰ってくれるかな?」
「ん? あぁ。大丈夫だよ」
「良かった! 駅前のドーナツ屋さんで、今日から抹茶フェアやるらしいから、お願い付き合って」
帆乃佳は無類の抹茶好きだ。きっと、抹茶系のドーナツやらが数種類あって、食べきらないけど全種味わいたいから、処理係として人手が欲しいのだろうと納得する。
「わかった。お腹は空けとくよ」
「うん! よろしくねっ♪」
先程までの不機嫌はどこへ行ったのか? そう聞きたくなるほどの笑顔で、帆乃佳は自身の教室へと向かっていった。