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異世界からの訪問者

 とりあえず、割れた花瓶を片付けて階下に二人で降りる。この時、なぜか咲桜は由岐の腕に抱きつきながら移動している。


 階段を降りながら、この咲桜は咲桜ではない。なのに、どこか懐かしいとすら思えた由岐自身の感情に違和感を覚え困惑していた。


 階下に降り、リビングへ入った由岐はそこで思い出した。そう、テーブルの上に置いてあるカップ麺を見てだが。


「あ、忘れてた」


 そこには、蓋を少し持ち上げた、汁無しのかつてはラーメンだったものが鎮座していた。


「あぁ~! お兄ちゃんだけお昼食べようとしたの? ずる~い!」

「いや、違う。元々、咲桜とは食事のときバラバラに食べてたから」

「えぇ~! わたしの事嫌いなの!?」

 なぜか涙眼の上目遣いで由岐を見つめる咲桜は、正直可愛く映り、視線を逸らすしかなかった。


 やはりおかしいのだ、と由岐は今までの違和感を辿る。まるで、()()()()()()()()()()様な、態度と性格の変化が違和感を伴い、由岐を混乱させている。そう、結論付けてから由岐は質問した。


「で、何があった?」


 いつまでも進みそうに無い話を、由岐は切り出す。


「……やっぱり、お兄ちゃんは変だね。まだ覚えてるなんて」

「だから、なぜ咲桜と咲桜が争って、まるで別人になったんだ?」

「やっぱり変。本当は気づくことさえ無いはずなのに」

「だから、なんにだよ?」


 声をつい、荒げてしまい、咲桜の肩をすくませてしまう。


「悪い。つい、カッとなった」

「ううん。わかった。話すね? でも、その代わりに今夜は一緒の布団で寝ていい?」


 年頃の男女が、同衾。しかも、義妹。もはや事案レベルの提案を持ち出してくる咲桜に、由岐は頭を抱えた。


「待て。なぜ、同衾が条件になるんだ?」

「それは、これから話すことでわかると思うよ?」

「くっ! わかった。全てを話すなら許可する」


 いざそうなれば、咲桜が風呂に入ったタイミングで部屋に入り鍵を掛ければ良い。由岐はそう考え、その案を飲んだフリをする。


「うん♪ やったぁ!」


 まるで、見たことの無いはしゃぎ方をする咲桜に戸惑いながらも、由岐は続きを促す。


「じゃあ、最初からね。わたしは、えっと、中身のわたしね? んんっ。わたしは大崎咲桜、わかるかな?」

「咲桜の旧姓というか、前の名字だな」

「そう。で、わたしは折原咲桜と入れ替わったの。見たからわかるよね? この世界でも、都市伝説になってるはずだよ。ドッペルゲンガーという名前で」


「ドッペルゲンガー……つまり、同一人物の重複現象か?」

「そう。正確には、他世界の同一人物だから、パラレルアバターとでも言えるかな。で、都市伝説に有るように、争って負けると入れ替りが起こるって事」


「待て、待ってくれ! じゃあ元の咲桜は?」

「安心して、彼女の望む世界へ、つまりはわたしの元の世界へ行ったはずだから。要は、向こうのわたしがこっちに来て、こっちの咲桜があっちへ行く。ただそれだけの事なの」

 深呼吸をひとつついて、由岐は今一度頷き、続きを促す。


「で、入れ替りが起こった場合、本来なら強制力が働いて当事者を除いて、()()()()()()()()()事になるはず、なんだけど、お兄ちゃんは覚えてるんだよね?」

「あぁ、前の、いや、元の咲桜のことも覚えてる」

「う~ん。それは、やっぱりシステム暴走のせいかなぁ?」

「システム暴走?」

「そう。この現象は向こうの世界のシステムで動いて発動するの。まぁ、作ったのはわたしと、あと()()居るんだけど。その中の一人が、システムの本幹と、計算、構築の全てをしたから、実際は凄いのは一人だけ」


「……理解は出来ないが、まぁ、わかった。つまり、そのシステムでこっちに来たと」

「うんそう。お兄ちゃんは何処か違う世界で、ううん、こういう自分だったらいいな、とか、こうなってたら良いのにって思うこと無い?」


「あぁ、有るな。昔のことだけど、母親が死んだときに、母親が死んでない世界を望んだ気がする」


「うん。その、望みが叶うとしたら?」

「迷わず、叶えただろうな。昔の僕なら」

 由岐は即答し、当時を一瞬思い出すが、母の記憶は悲しみの為に記憶の奥深くにしまい来んでいるため、頭を振ってその思考を止める。


 今はそんな、時では無いと。咲桜に向き直り、もう一度、続きを促すために頷くと、同時に咲桜は口を開いた。


「うん、その為のシステムだったの」

「ん? 良くわからないな。それと、これと、システムがどうして繋がる?」

「入れ替りが起こるには、まずは先立つもの、つまり、望んだ世界が存在しなければならない。もちろん、その世界に自分が居なければならない。ってのは言わなくてもわかるよね?」


 頷いた由岐を確認して続ける。


「つまり、人が望んだ世界は、その瞬間に生まれ、存在するという仮説が立つの」

「待て、その仮説はおかしくないか?」

「おかしくないよ。世界五分前説。これは、きっと何処の世界にもあるはずだから」

「つまり、この世界は五分前に生まれた。と?」


「ううん。そこまで短くは無いはずだよ。だって、お兄ちゃんの記憶は、以前のわたしの記憶を持ってるんだから、それはあり得ない」

「じゃあどうやって、仮説を?」

「それは、主開発者の人に聴かないとわたしもわからないよ。でも、言えるのは()()()()()()()()()が生まれ、その世界のわたしもまた、わたしの元居た世界を望むから成り立つし、引き付け合い、入れ替りが成るんだよね」


「望んでいるのに、争って入れ替わる理由は?」


「答えは、こっちにこれるのは精神体、アストラルサイドのわたしだけ。だから、存在は合っても、会話は出来ないからよ。あと、目の前に、急に同じ顔の自分が現れると、やっぱり人はパニックを起こして暴れるから」


「なるほど。たしかに、自分自身が現れたらそうかも知れない」

「で、無事、両者納得の上入れ代わったのがわたしってこと」

「あぁ、でも、最初に暴走が、とか言ってたのは?」


「それは、向こうの世界でシステムを暴走させた人が居たから。まぁ、わたしはその事件にまきこまれたってだけなんだけどね」

「で、咲桜は、君はなにをもとめてこの世界に来たんだ?」

「それはね。秘密♪」

「おいっ!」


「まぁまぁ、とりあえず言えるのはここまでかな? もしかしたら、夜や朝になれば忘れてるかもだけど」

「強制力、か?」

「そう。だから、今夜は同じ布団で寝て、起きたときのチェックが必要なのです」

「いや、絶対その考えは嘘だろ」


「あぁ~お腹空いたなぁお兄ちゃん。お兄ちゃんの作るご飯食べたいなぁ」

「誤魔化すなよ……」

「まぁまぁ、でも、話したことは事実だよ」


「とりあえず今日はこの位にしておこう? 忘れると、無意味になるし。たぶん、この会話の記憶すら無くなるはずだから」

「わかった。じゃあ、飯を作るか……カップ麺、こりゃ食えないな……チャーハンの具にするか……」


 由岐は、冷凍庫から凍らせたご飯を二人前取り出し、野菜室から玉ねぎ、ニンジン、冷蔵庫から、卵、鶏肉を取り出しシンクに並べる。

 電子レンジ内の弁当を思い出すのは、夕飯の時であった。

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