符号
大変ながらくお待たせしました。再開致します。ブクマを挿してくれている方が増えてたのと、いまだに見にきていただけている方への感謝を込めて、エタらせずに完結まで持って行きたいと思います。
本当に、読んでくださってありがとうございます。
目を覚ました由岐は既に改変の改竄が成功したことを理解した。符号とはこの事かと、普通のベッドと、懐かしい部屋に安心する。どうやら都合のいいやり方が、うまくいったらしいと。
枕元にある目覚まし時計のスイッチを切り、充電していた生徒手帳を手に取り、ブラウザを起動する。
確認したいのは、いつから、どこから、改竄を出来ているかなのだが。出来れば、入学式からの一連の流れが改竄されていることを願って調べ始めた。
わかったのは、魔法やドラゴン、王国政などなくなり、元の現実になっていることだったが、知りたいのはソコより、由岐がどんな状況なのかであるが、残念ながらその情報は学校内のクローズ・ド・サーバでしかアクセス出来ないSNSにしかなかった。
昨日までは、ドラゴン討伐の救国の英雄として名がウェブに上がってたが、由岐の名前で検索しても、結果はゼロ件。
ひとつ安堵の息を吐いた由岐は、ベッドから起き上がり手早く私服へと着替え、部屋を出て階段を降りる。その際階下から、漂ってくる微かな味噌の香りと、食器の擦れる音、にぎやかな話し声が聞こえてきた。
リビングの扉を開けると、既に咲桜とわかながエプロンをして朝食の準備をしながら、由岐を出迎えた。
「おはよ〜お兄ちゃん!」
「おはよう、ゆきちゃん」
「二人ともおはよう。って、わか姉が朝ごはん作ってくれたのか?」
「うん。朝ごはん、和食だけど良かった?」
由岐は学校のある日、平日にはお弁当との兼ね合いもあり、手軽に済ませられるトーストと簡単なサラダに、目玉焼きなどが多く、時間を掛けれる休日には和食を作るのがルーティン化している。
「ありがとう。学校の無い日は和食にしてるから嬉しいよ」
ただ、ここ数日で色々なトラブルもあり、精神的な疲れで和食は食べたいが、作る気力は持ち合わせてなく、目の前のテーブルに配膳されつつある色とりどりなおかずに目を輝かせながら、わかなに礼を告げた。
「ねぇ、二人だけで新婚風の空気出すのやめて欲しいんだけど」
その空気に耐えかねた咲桜の声で、由岐は先程も見たはずの義妹の姿を見て戦慄した。
「咲桜、まさか……料理したの……か?」
脳裏に過るのは、まだ避けられる前の咲桜が作った『家庭科の宿題』にあった。
洗剤で洗われ炊かれた、フローラルな香りのするご飯。味噌が溶けきらずダマになった味噌汁、そして、闇よりもなお深き混沌色をした卵焼き。焦った顔で川の向こうから叫ぶ亡き母の幻影——。
「ちょっ! お兄ちゃん、あたかもわたしがメシマズな女の子みたいな目で見ないでよっ!」
「「——え?」」
あの時、由岐と共に生還したわかなも同時に声を上げる。
「二人ともひどいっ! 料理くらいできますぅ。卵焼きとかも、お兄ちゃんに食べてもらう為に練習したし、煮卵や、ポーチドエッグだって作れるんだからっ!」
「なんで、卵料理だけなんだよ」
「子作りしたくなった?」
「なるかアホっ!」
「う〜ん、さくらちゃん……ご飯前にそういうのは、おねぇちゃんダメだと思うなぁ」
「あ、わかなちゃん、ごめんなさい。人の三代欲求を押さえたらお兄ちゃんも頑張ってくれるかな? って思って」
「なぁ、咲桜。人の三代欲求ってなんだかわかってるか?」
「性欲、食欲、性欲でしょ?」
「おい、なんで睡眠が無くなってるんだよ!」
「寝る=やる、ほら同じでしょ? お得だね♪」
何故か誇らしげに胸を張る咲桜を、何処か諦め遠い目をした由岐が唯一の味方であるわかなに助けを求める。
「バカなの? ねぇ、わか姉、この子ダメかもしんない!?」
「ゆきちゃん。一晩で六回は頑張ってね〜?」
「……なにこの流れ。そもそもその六回って生々しい数字は——」
「さ、配膳も終わったし冷めないうちに食べよ〜」
全く助けにもならず、暴走を助け兼ねない発言をしたわかなは、素知らぬ顔で椅子に腰掛ける。
「あきらかに話題を逸らしたな、わか姉……。って咲桜はなんで僕の下半身を見てるんだ?」
「ん? えへへぇ、健康チェック?」
うん、この子はもうダメだ。由岐はそう内心で呟き椅子に座り手を合わせる。
「…………いただきます」
「あ、お兄ちゃんが逃げた」
「ゆきちゃんが、逃げましたねぇ〜」
「…………」
由岐は無視を決め込み、目の前の納豆を混ぜ始める。
「いただきまぁす。ところで、わかなちゃん」
「いただきます。なぁに?」
「すっぽんって扱ってないの?」
「………………」
あぁ、納豆美味しいなぁ、ご飯と合うなぁ。次は味噌汁だ。由岐は目の前で繰り広げられてる会話を耳から追い出し味噌汁を啜る。
「すっぽんはないなぁ。どうして?」
「そっかぁ。ほら、元気になるって聞いたから」
「ん〜、それなら粘り気のあるものが良いって言うよね。亜鉛とアミノ酸が多く含まれてるものとかも」
「………………」
「じゃあ、山芋とか、納豆も?」
「うんうん、あとはウナギとかも聞いたことあるような」
「じゃあ、鰻重のとろろかけご飯で決まりだね!」
「んと、さくらちゃんなにが?」
「突撃☆初夜の晩ごはん!」
「ぶふぁっ!!」
耳から流そうとして、無理だった由岐は結局味噌汁を盛大に吐き出すこととなった。
「あぁ〜お兄ちゃん想像したの? お兄ちゃんのえっち」
「由岐、気持ち悪いし、汚い」
「げほっ、おま……えら、朝からなんつう話してんだよ! そもそも、わか姉もいきなり入れ替わるな! つか、上手くいったのか? 軽く調べたけど、符号ってなんだったんだよ? 僕にもわかるんだよな?」
「お兄ちゃん、露骨に話題を逸らさないで。朝だからだよ? 明るい家族計画。ね? 朝にふさわしいでしょ?」
「なんで、そんなに満足げなんだよ! なにもやりきってないし、むしろ上手くもなんとも無いからなっ!」
「由岐、気持ち悪い」
「わか姉はわか姉で、さっきから酷い!」
「はっ! まさか、わかな……つわ——」
「言わせねぇよ!? そんな記憶と経験はねぇよ!」
「由岐、現実を見て。咲桜と、わたしのお腹の中にはもう」
「えっ!? いや、は?」
「「これが符号なの」」
「だれか、助けて」
「まぁ、お腹の中には昨日の唐揚げが満たされてるだけだけどね」
「ただの胃もたれじゃねぇかっ! って、なんでそれが符号なんだよ!」
「ふふふ、まさか理解してないなんて。由岐にしてはお粗末ね」
「お兄ちゃん、良く思い出して」
「昨日、あんなにあった唐揚げが何処へ消えたのか。ふふっ、まさか二重人格にこんな罠があったなんて、ね」
「うんうん。予想外だよね。この若さで胃もたれなんて」
「ただの食い過ぎじゃねぇかっ! そう言えば、僕は五つ位しか食べてないな、おい。で、それの何処が符号なんだよ」
「はぁ、よく考えなさい。昨日までのとんでも世界のままだったら、確実に胃もたれなんてしないのよ? わたしたちは二人でそのデータを得るために、身を挺して頑張ったのよ」
「……絶対嘘だよね? ねぇ、なんで目を晒すのわか姉。あと、咲桜は胃もたれしてないだろ? てか、よくそんなに食べれるな?」
咲桜は、既にご飯をおかわりして、今は卵焼きに舌鼓をうっていたが、飲み込むと同時にいい笑顔でまたも不穏な発言をする。
「お腹の子に栄養は必要だもんね♪」
「それ、ただの脂肪だからな?」
「ひどいっ! 認知してくれないのっ!?」
「それでも僕はやってない」
これは正しく、そして間違っていた。由岐がやったことといえば、毎朝、毎晩食事を作った位なのだから、と考えての発言だが、咲桜の大きくなりつつある、お腹の脂肪は由岐が作るご飯が美味しいせいでもあるのだから。
「まぁ、冗談はさておき、符号気づいたんじゃないの? 部屋戻ってたでしょ?」
「あ、うん。え? 引っ張ったくせに、割と普通の符号で逆にびっくりした」
「はぁ、由岐。普通に気付けない符号なんて何の意味もないじゃない」
それはそうか、そう由岐はわかなの言葉に頷き、手を合わせて「ごちそうさま」を告げ、食器を流しに持っていく。
「じゃあ部屋に戻ってるから、ゆっくり食べてくれ。食器は浸けてくれてたら後で洗いに降りてくるから」
そう告げた由岐は、リビングを後にすべく扉に手を掛けた時に咲桜が告げる。
「あ、お兄ちゃんのお宝も戻ってたか確認しておいてね?」と。
「!?」
冷や汗が背中を流れ、由岐は顔を硬らせた。そんなお宝なんて存在しないからでは無い。紙媒体やメディアなんかの物質化したものが存在しないだけであるからだ。そう、パスワードで固めた隠しフォルダの中のデータ以外は存在しないのだから。と。
「待て咲桜! そもそも僕の部屋のお宝ってなんだ!?」
だから由岐は、シラを切ると言う誤った選択をしてしまう。セキュリティの固い生徒手帳兼スマホをハッキングし、キャッシュデータから内容を読み解く事ができる咲桜相手に。
「パソコンの隠しフォルダ。タイトルは色々あったなぁ」
由岐は結果、逃げ出した。魂の叫びをあげながら。
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