さくら
長らくお待たせしました。
咲桜回、ドッペルシステムの世界の話となります。
私は、突如出来た義兄が嫌いだった。勉強、運動、交友関係、そして、兄としての全てを、そつなくこなすのだ。見た目も整った顔立ちと、さらさらな艶のある黒髪。すこし鋭い、でも瞳の内の優しさを失わない目付きで女子にも人気の義兄が。
最初は嬉しかった。格好いい兄が出来たことが。だけど、引っ越してきた私は余所者で、義兄を慕う同級生女子からは散々な目にあった。
苦手な家庭科では、笑われ、晒された。勉強も同じように、常に満点の義兄と比べられ、「なんであなたが、あの人の妹なのよ!」と、までも言われた。母が再婚した事で、義理の妹なのだと言うことは小学生でも理解できる。だから、より風当たりが強かった。
だから、私は一年経たずに、義兄を嫌いになった。どんなに努力しても、届かない義兄を。何事もなかったかのように、何でもそつなくこなし、振る舞う義兄を。私は必死に隠していた、イジメから発展した犯罪行為を未然に防いだ義兄を見て。思ってしまった。願ってしまったのだ。
隠していた私の心の悲鳴を、どうやってか知り、秘密裏に処理をしていた義兄を畏れて、願ったのだ。
折原由岐の居ない世界を。私が、本当の私で居られる世界を。
そして、それは訪れた。本当に憂鬱な、中学まで噂が聞こえてくる嫌いな義兄の居る高校、その入学式が終わった、その日に。
帰りついた今では馴れた家には既に、義兄が帰っていた。「おかえり」の声に返事もせず、階段を登り、部屋にはいり制服を脱ぎさったとき、私は制服を取り落とした。
部屋のなかに、私服姿の私が居たからだ。私は、ゆっくりと私に迫り、手を伸ばして来た。
軽いパニックを起こしていたのだと思う。私は悲鳴と共にその手を払いのけ、逃げようとして足元の制服に足を取られ盛大に転げた。立ち上がった時、視界に入った姿見で、下着姿の自身を見て止まった。
その隙に、私は迫り私の首に手を掛けた。その瞬間にさまざまな光景が、私の記憶が流れて来た。いや、きっと正しくは、共有したのだ。そう、理解してしまった。
何故? などの疑問はない。ただ、漠然にそれが当たり前と、認識出来てしまったのだ。そして、もう一人の私が別の世界から『折原由岐』の居る世界を望み来たことを知った。そして、そちらの世界には『折原由岐』が居なくなった世界だと言うことも。
だから、私は望んだ。そちらの世界に行きたい、と。
気付けば私は、もう一人の私が着ていた私服を着て、知っているが、知らない世界に来ていた。
そこは、混乱の坩堝と化していた。ドッペルシステムの暴走によるものだということ、そして、意識の回復しない倒れた人達の中に。
そこから、私はシステムの暴走を止める為にコントロールルームへと走った。そこに居る彼女に会って確認するために。
たどり着いた時、私は目を疑った。てっきり、暴走させたのは彼女と思っていたから。ところが、そこに立っていたのは彼女ではなく、彼女の母親でもなく。私の母が居たからだ。
「なんで……なんで、お母さんが!」
「咲桜、どうしてあなたが? ううん、なぜ、あなたが来たのかしら……いえ、そうじゃない。ここは、わたしが望んだ世界じゃない?」
「どういう……こと? お母さん」
「やめて! この世界でもあなたは……なんで、産まれてるのよ! やり直しをしなきゃ……今度こそ望んだ世界に」
「無駄だよ、お母さん。ドッペル・システムは入れ替わった人は使えない……ううん、使えても望みは叶わないよ。最悪は精神体が磨り減り、存在そのものが消えちゃうよ? わかるでしょ? 私とおなじように、記憶はあるはずだから」
私の言葉に、コントロールパネルを操作していた手が止まり、力なく崩れ折れた母を私は見てることしか出来なかった。
そう、大崎百合を折原ではない、父と結婚しているままの母を。
たぶん、母は無かったことにしたかったのだろう。大崎真吾という男との『出来ちゃった婚』を、こっちの世界では元の世界とは内容は違うが、同じように虐げられているのだから。
元の世界では、『DV』を受け、離婚に至った。こっちでは、そう言うことはなく、単に『下に見られている』からだろう。この世界は、戦争は無くとも、形を変えた『競争』の世界だから。
学歴ではなく、『成果、実力主義』がこの世界の社会構造なのだから。各自研究を行い、何かの形で人類に貢献した者が称賛され、地位が高くなる。
そして、ある問題があるのだ。優秀な人は『自由』が認めれ、結婚、出産も自由だ。だが、そうでない者は違うのだ。優秀な遺伝子を次代に繋ぐため、使われる事もあるのだ。そこに、拒否権はない。人が増えすぎないように管理され、系譜があまりに酷い場合、不妊手術をされ、慰みものとして生きざるを得なくなる。母の系譜は悪くはなく、そこに目をつけた父が手込めにしたのだ。
そして、産まれたのが私、大崎咲桜である。それを私は知っている。母方の曾祖父と、曾祖母が優秀な人で、『偉人』として讃えられていたから、母は『遺伝子の種床』として使われた。
だから、母は幸せとは程遠いのだろう。そして、産まれた私は『優秀な遺伝子』を受け継ぎ、さらに母の存在を苦しめている事だろう。
私は、掛ける言葉を見つけられず、ただ静かに泣き崩れている母を眺めることしか出来なかった。
プロット練り直しながらやりますので、筆はかなり遅くなります……消えたプロット帰ってきて……。




