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たった一つの冴えない、都合のいいやり方~中編~

 ようやく馬車の近くにたどり着いた由岐、咲桜はそこで足を止める。否、止まらざるを得なかった。


 こんな頭のおかしい世界でも、ファンタジーとリアルが統合をとれず暴走している中でも起こるらしい。


 そう、定番のイベントが————。


「へへへへ、さぁその馬車ごと置いていってもらうぜぇ」

「死にたくなけりゃ動かねぇこった」


 こんな狂った世界でなぜこんなイベントが発生するのかに由岐は首をかしげる。しかも、ただの通学中にだ。ちょっと頭のおかしな通学風景だけど。普通は出掛けて街の外へ出て人目が無い場所で起こり、そこに主人公が偶然立ち会うのが、お約束だろ。お約束大事! そう内心でぼやく由岐を置いて、噛ませ犬イベントが進んでいく。


「見せしめに数人ヤっとく?」

「あん? おい、見ろよアレ、アイツ姫の婚約者じゃねぇの? 姫の目の前でばらそうぜ」


 どこの世紀末からきたのか、奇抜な頭をした白目の多い、斜視の入った顔を変にゆがめながらトゲパットを肩に装着した男が首をかしげる。


「ばぁか、殺してどうするよ? いいか、ここは愛しの義妹を目の前で犯してやるんだよっ!」

「さすがボス! ゲス顔でゲスいこと決めてくれる!」

「よっしゃ、で義妹ってなんだ?」

「あん? あれだろ。妹的な何かだろ」


「お? お前頭いいのな?」


 こちらに矛先が向かってきた、そう由岐は舌打ちしたが、どうにもこの状況が飲み込めないのだ。


 馬車の近くに来たとき、親衛隊団長はどこへいったのか近くにおらず、わずか十名ほどの野盗に襲われた親衛隊はほぼ無力化、死んでは居ないが無傷でもない。


 たった十名に奇襲とはいえ騎士たる者の大半があっけなくのされたのだ。


 そして、周囲にいた由岐達は後から来た多数の野盗により人質として複数捕らえられた、馬車を守る残りの親衛隊も秋人で最後だ、善戦はしているがそれも時間の問題である。


 なのに、武器を取り上げられ組み伏せられている由岐の心は一切揺るがなかった。


 確実に、ヤれると。


 一つ溜息をつき、組み伏せている男の足首を掴み、無造作に親指を立て握りこみ指を男のアキレス健横に差し込む。


「ぐっ! 野郎!」


 痛みで右腕の拘束が緩んだ隙に、右腕を抜きとり腰を捻り右ひじを男の膝の上、太ももの筋肉大腿筋の付け根に叩き込む。


 腰を押さえていた力が抜け、その隙に由岐は身を起こし顎に掌底を叩き込んで一人を倒す。


 そのまま腰を落として、馬車を襲う輩の背後から、首、こめかみ、脇腹に肘、拳、貫手を叩き込んで秋人の横に並ぶ。


「秋人無事か?」


「由岐様! 助かりました。ですが、なぜか体が思うように動かないのです」


 由岐はそれだけを聞くと、瞬時に咲桜のいったズレを思い出し、納得する。

『あぁだからこいつらも、親衛隊も動きが単調かつ、鈍いのだと』そして、その先にも思い至る。


 ならばなぜ、僕は()()()()()()()()()()()()()()()() と。


 確かに由岐も年相応に鍛えては居る。だが、これほどには鍛えてないし、武道も修めていない。


 なにもかもがおかしいのだ。まるで由岐を中心に改変されているそう思うほどに。勝手に体が動く、その感じが感覚が由岐と世界を遠くさせていく。



 由岐は、咲桜の件から感じていた、どこか遠くに居る感覚、孤独感、そんなことを考えながらも、今最後の野盗を倒し終える。ボスだったらしい世紀末風の何者かだ。


「助かりました、由岐様。そこの生徒たちの中で回復魔法を使えるものは手伝ってほしい」


 そういえばと、咲桜を探すと、周囲の一角から悲鳴が上がる。 


「つかえねぇっ! 本当に使えねぇ奴らだっ! 装備布陣すべて教えて、一番の奇襲タイミングを作ってやったのに!」


「団長!?」


「はぁ、でそれはなんのつもりだ? 親衛隊団長殿」


 由岐はあきれ果てて、首を振る。イベントがどこかの打ち切り漫画のように、次から次へと現れ怒涛の展開に疲れながらも、団長の腕の中の咲桜に目をやる。


「あぁっ、これだから何でも出来る英雄様はっ! あんたはそうやって他人のモノを奪っていくんだ!」


「なにを言って——」

「せっかく、努力に努力を重ね、帆乃佳様の親衛隊団長まで上り詰め、行く行くは結ばれる予定だったってのにっ!」


「努力? 改変の間違いだろうが! 真実を歪め、己の欲のために世界を曲げているのはあんただろうが!」


「なに? おい、なぜそれを知っている! なぜ覚えている! お前は何者だっ!」


「……それは僕が知りたいよ」


「まぁいい、俺の世界でのイレギュラーくらい排除してやるさ。そう、お前の大事な第一夫人候補の義妹を使ってでもなぁ!」


「やばい、あいつ絶対ただのストーカーだろ……」


 そこで、今まで無言でうつむいていた咲桜が暗い表情で酷く冷えた声、由岐には長年聞きなれた、蔑みを持った声を発した。


「ねぇ、いつまでわたしの体を触ってるんですか? 変態ストーカー」


「あん? ただの貴族嬢がなにをでき——」


「うるさい。臭い息を吐くな」


 手にしたボールペンを太ももに突き刺し、拘束から逃れ、膝を押さえる男に膝を去り際に叩き込んでいた。


 行動を咲桜が起こすタイミングに合わせ、由岐は動いていた。そうするのが当たり前のように。咲桜の元にたどり着いた由岐は、未だにうずくまる男にかかとを落として意識を刈り取る。


「お兄ちゃん!」


 同時に、シャンプーの香りをふりまきながら、胸に飛び込んできた咲桜を抱き留め由岐は溜息とともに心でつぶやく。


 僕は何者なのか? と。


 回復が終わった親衛隊隊員に元団長となる男を引き渡し、馬車の前へと戻った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 馬車の前では、未だにざわつきが収まっていなかった。馬車以外は現代、未来の混ざった空間がシュールすぎて、由岐は笑うしかなかったが。


 そのとき、ようやく馬車の扉が開く。駆動音を伴い。

「そこは機械仕掛けなのかよっ! なら馬を、車輪をなんとかしろよ! てか、そこに動力いれるなら他の事に使えよっ! わけがわからないよっ!」


「その声は、由岐様? あぁ、やっぱり由岐様ですわっ! あぁ、今度はわたくしを救ってくださるなんて!」


 顔を声のした方へ向けた由岐は、言葉を失った。


 目に飛び込んでくるのはドレスの白。そして、明るい髪色と、わかなほどではないが、確かな二つの膨らみ、その開けた胸元の少し出来た谷間。上気した紅い頬が唯一、その白の中に際立っていた。


「帆乃佳…………」

「はいっ♪ 由岐様の帆乃佳ですっ」



 すみません、本日はここまでになります。体調が壊れなければ、水曜日には書き上げれるかと思いますので、一部完結はしばしお待ちください。



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