たった一つの冴えない、都合のいいやり方~前編~
大変お待たせしました。この後書きあがり次第、中編後編とあげ、第一部を終わらせていただきます。
ブックマーク、閲覧本当にありがとうございます。これからもお付き合いよろしくお願いいたします。
朝、登校時の現実が現実離れをしていた。豪奢な馬車、そして、それを囲む騎士のような集団。
「これは、通学の景色ではない。断じてだ!」
「お兄ちゃ、いいえお兄様、これが今の普通の光景ですよ……」
相も変わらず、左腕に抱きつきながら咲桜は変な口調で告げる。
「なんだその変な口調……」
「嫌ですわお兄様。わたくしたち、貴族ですもの。小さいとは言え西郷皇国の貴族の嗜みですわよ。おほほ」
「マジで止めてくれ、頭痛くなる」
由岐がそう言うと、咲桜は真剣な面持ちになり少し背伸びをして由岐の耳元で囁く。
「でも、お兄ちゃん、回り観てよ」
言われたように周囲を見渡すが、気になるのは豪華な馬車と、その回りを囲む変な騎士風の何かだけだった。
「あの馬車か?」
「じゃなくて、お兄ちゃんやわたしかなり観られてる。しかも聞き耳立ててる感じで」
そう言われ、ようやく周囲に聞き耳を立てる。普段なら、そんなことをしなくても聞こえたりするやり取りが今日に限っては集中してようやく拾える程度だった。
『きゃあ、由岐さまと咲桜さまが!』
『本当に仲がよろしいですよね、お二方』
唯一拾えたのはこの会話のみだったが、流石にゆっくりとは言え馬車の走行音がうるさいのだ。
なぜ現代日本の町並みに馬車、それも木製の車輪と、馬なのか、そのくせ車輪は良いサスペンションが入っているのか、上は一切ブレも揺れもしておらず、更なる違和感と不安感を由岐に与える。
周囲に聴こえないよう小声で、元の姿勢に戻った咲桜に問いかける。
「で、あの騎士達はなんだ?」
咲桜も、それを察してかどこかに持っていたのか満開の桜の描かれた扇子で、口元を隠し小声で答える。カバンは肩に、片手は由岐の腕と扇子、もう片方にスマホを握り巧みに情報を拾っている。
「ほのっち、帆乃佳様の親衛隊らしいよ。隊長はあの馬車の真横の人。ほら、スゴい気迫の」
「あぁー、なんかオーラが見えるな。でも、なんで甲冑じゃなくて、あんな紙装甲なんだ?」
よく見なくても、片手剣を腰に履いているが、金属装備はすね当て、ブーツ、肩当て、胸部プレートそれだけなのだ、ブーツに至っては革との合わせでプレートが爪先に有るだけだ。
パッと見で騎士風の何かとしかわからない。なんなら、コスプレ軽装兵である。
更に声を小さくして、咲桜は考えを述べる。
「たぶん、中途半端な強制力の改変のせいじゃないかな?」
「それって?」
「この世界の基準はたぶんわたしの望むかたち。だとして、例えばあの人が入れ替わった人と仮定して、望んだのが騎士、ほのっちの親衛隊隊長として、でも基準はわたしの望んだ世界のあの人な訳で」
「つまり?」
「つまり、肉体が望んだ世界と違うってわけなんだよ。だから、中途半端な改変でこうなったんじゃないかって」
「あぁ、でも、確かにあの細身じゃ無理だよな。甲冑。というか、その例えが的を射てそうで怖いんだが」
そのとき、馬車の周りの集団から見知った顔が飛び出してくる。
「由岐様! こちらにおられましたか! 姫が御呼びです」
「!? 秋人? なにしてんの? てか、その口調なに?」
由岐の指摘に眉を顰め、小首を傾げながらも秋人は変わらぬ態度で続けた。
「なにをおっしゃるのですか? わたくしめは一介の騎士、貴方様は皇国以来からの貴族様、その上、ドラゴンスレイヤーと褒章として姫と婚約成されたばかりではないですか! とても畏れ多くて口を開くのも憚られますのに。由岐様は幼き頃のように接して頂けるだけで光栄であります」
「は?」
ドラゴンスレーヤー? 帆乃佳と婚約!? と、脳内を様々な情報にかき乱され、由岐は天を仰ぎ口に出してしまう。
「また酷くなってるーーーーーーーーーっ!!!!!」
どうして毎度毎度僕を巻き込むんだ。と、由岐の心の叫びは心の堰を破りついに叫んだ。
叫んだ由岐の袖がひっぱられ、虚ろな目でそちらに顔を向けた由岐は引きつった笑みと冷や汗を流す。
「お兄様! ちょっといいかしら」
そこには暗い目をした咲桜がいたからである。
「え? 咲桜……なにを!?」
「ねぇ、お・に・い・さ・ま? 何故帆乃佳様とご婚約を? わたくしがお兄様の本妻に成れぬではないですか!」
由岐のブレザーのタイを引っ張りながら、頬を膨らませた咲桜が怒っていると救いの声が掛かる。
「失礼ですが、咲桜様はお加減がよろしくないのですか? そこも発表時に第一夫人は咲桜様で決まったと……」
「え? あら、わたくしったらはしたない。秋人様、ありがとうございます、どうやら少し春の陽気にあてられて微睡んで居たようですわ」
「有り難き幸せ」そう胸に手を当て腰を折り、返礼する秋人を観て由岐は『本当に早くなんとかしないと』とひどく痛む頭を抱えた。
「失礼、おい秋人っ。早く由岐様を姫の元へ」
そこに近衛隊長という男がやってきて、秋人を一睨みしたあと咲桜と由岐を姫の元へと誘導する。近衛隊長は見た感じ成人男性のようで、学生には見えなかった為、咲桜に小声で確認すると小さくうなずいた後、唇だけで『二十三』と答えた。
その際に近衛隊長の顔に浮かぶ、暗い微かな笑顔を由岐は見逃してしまう。
「とりあえずこれをどうしようか、咲桜」
「どうって、向こうの誰かが何とかしてくれるしか……まぁ、わたしはお兄ちゃんと、結婚……このままでいいかも」
「おぃ、なに人様の人生設計を壊しに来てる改変を受け入れようとしてる」
「だってぇ。子供は三人は欲しいなぁ、あと毎週二回は……ぐへへへ」
「戻ってこい、咲桜! 咲桜ぁっ!」
「そういえば由岐様はご存知ですか?」
「なにを? これ以上僕を貶める情報ならいらないぞ」
今朝着替える際に、壁に制服と並んで掛けてあった腰の片手剣に右手をやりながら応える。
「貶める? 大変栄誉ですよね、温見公爵家のわかな様とも、すでに三名の婚約者がいるというのは。あぁ、いえ本題違いますが、これは幼馴染としての戯言と取っていただいて結構です。ドッペルゲンガー? でしたか、生き写し的な人を見という巷での噂なんですが、それが最近やけに多いらしいのです。一部では本人と出会うと乗っ取られるとか」
「待て。わか姉まで? いや、そこよりどこでどの程度目撃されているんだ?」
「最近のはうちの団長の目撃があがっております。たしか、昨日の夕刻に」
「おい、咲桜。さっきの例、本当に的を射てるじゃねぇか」
「現実は小説より奇なり……」
「そんな、名言はいまはいい。どうしたものか……」
「秋人様、どれだけドッペルゲンガーの目撃あがってますの?」
「たしか、昨日の夜の時点で目撃者は六十名程、目撃された個人でしたら十二名位かと」
「十二人!? まさか」
「お兄ちゃん、そのまさかみたい。見て」
自身のスマホの画面を指差し、内容を由岐の見やすい位置に持ってくる。
「えっと……なんだこの頭の悪い世界は!?」
魔法学院、冒険者、ダンジョン、アンドロイド、銃器、空飛ぶ車やバイク、とにかく世界観の違うもののごちゃ混ぜ状態だった。
まるで、何かに取り残された、そんな思いを心に抱きながら由岐は春の暖かな青空を見上げた。




