改変は止まず、それでも廻る世界
すみません、一部次回に終わります。まとめきらなかったです。
申し訳ない。
今、折原家のリビングは沈んだ空気に満たされていた。風呂上がりのフローラルな香りと、男女比が一対二という華やかなイメージとは裏腹に。
「で、結局はこれからなにが起こっても対処は出来ない。と」
由岐は陰鬱な空気を嫌い、出きる限り明るくおどけた口調で話を切り出した。
「で、今までのところで気になったんだけど。僕の話が出ないけど、この世界は咲桜が望んだ世界なんだよね? で、なんで僕のドッペルゲンガーは存在しないって言いきれるんだ?」
視線を隣に腰かける咲桜へ向け、由岐は答えを待つが、視線を向けられ、咲桜はうつむくように視線を外し黙ったままだ。
そのまま由岐は視線を移し、悠然と足を組むわかなへと向ける。「あり得ない」そう言ったのは他ならぬ、わかななのだからと。
盛大にため息をつき、わかなは口を開く。
「こっちの由岐も向こうと同じで、優しくて、残酷なのね」
わかなの言葉を聞いて、咲桜が少し肩を震わせたのを横目に、続きを促すように視線を戻した。
「由岐、あんたのドッペルゲンガーが発生しないと言いきれるのは、あんたが向こうじゃ居ないからよ」
「わかなっ!」
咲桜が急に立ち上がり、ローテーブル上のコップが倒れ、中身が天板に広がりながら、フロアリングの床にこぼれる。
「僕が居ない? 出会ったことが無いからってことか?」
「違うわよ、あんたは——」
「わかなっ! やめてっ!」
「どうしたってんだよ? 咲桜」
「はぁ、由岐あんた頭良いくせに、なんでそんなに頭悪い発想になるのよ……」
「あんた、死んだのよ。向こうで、六年前位にね」
悠然とソファーに足を組み天井を仰いでるわかなと、それを睨み付け続ける咲桜を交互に見て、由岐は首を傾げる。
「なぁ、それってこっちの僕に問題はよな?」
「そうね」
「そうだけど、お兄ちゃん気にならないの?」
「なにが?」
「どうして死んだのか……とか」
「気にしてどうするんだ? 何も変わらないじゃん。それより、この後どうにか被害? 改変を抑えれる方法ないしは、改変を小さくする事を考えないか?」
「本当に由岐は由岐ね。自分より他人、だから嫌いなのよ」
「ま、本当に気にならないって訳じゃないけど。死んだものはどうしようもないしな。それは後回しだろ」
その時はまだ、翌日から巻き起こる事態を軽く考えていた。そして、世界は廻りだす。軋みをあげながら、由岐を、咲桜を、わかなを巻き込みながら。
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わかなは、あのあと由岐が風呂へ入っている時に帰ったらしく、風呂から上がった由岐は誰も居ないリビングで、湯冷まししてから部屋に戻り、やけに膨らんだベッドを見て回れ右をし、部屋を後にした。
リビングのソファーの上で、先ほどの話を思い出していた。
自身が死んでいること、強制力が一つの世界に重なると最悪は世界が崩壊すること。そして、その環から外れる様に影響を受けない唯一と思われる存在であること。
理由は不明。入れ替わった存在である、二人は強制力の改変に気づきはするが、由岐ほどにははっきりと認識できるわけではないようであった事。
で、あるならば由岐もまた、入れ替わった存在なのかも知れないと。だからこそ由岐は自身がドッペルゲンガー化し、入れ替わった可能性を知りたくて、向こうの世界の存在を確認したのだ。
だが、由岐の想定を越え、本人の死亡という、存在の欠落を知ることとなったわけだ。そして、それは由岐の考えを堂々巡りさせるものであった。
見上げた天井は、カーテンの隙間から漏れ出る月光に僅かに照らされ、淡く照らしていた。
シャンデリアを。
「シャンデリ……ア?」
そんなものは、高級ホテルのロビーそれもテレビの中でしか見たことのないものだった。
一気に微睡みから覚醒し、由岐は自室へと走った。見慣れぬ両開きの扉、カーペットの敷かれた長い廊下、そして、まるで何処かの画廊の様な壺や絵画を横目に走り抜け一つの部屋の前で止まる。
二階にも上がっていない。自室は二階のはずだ、なのに、一階の一部屋の前で『ここが自室だ』と脳内が言っているのだ。
恐る恐る、扉のノブを下に回し押し開けた。由岐の自宅の扉は全て外開きだった。
海外の扉は外敵からの侵入を防ぐために、内開きで、中からつっかえをして籠れるようになっているらしい。と、何処かの本で読んだ内容を思い出しながら、由岐は部屋に入った。
目に飛び込んだのは、天蓋つきのベッド、そして起毛の絨毯のひかれた柔らかな床。全てが、由岐の知らない異形の物と感じられる。
「咲桜っ! 起きろ!」
ベッドの上の膨らみが蠢き、布団から咲桜が顔をだす。
「なぁに? お兄ちゃん待ってたら眠ってた……夜伽する?」
「バカ言ってないで周りを見ろ」
「なに? これ」
「また、誰かが入れ替わったのか……わからないけど、さっきからおかしくなった」
「お兄ちゃんスマホ出して!」
「あ、あぁ」
「おかしい。なんでこんな断片的に……」
スマホを手に震える咲桜とその絶望的な表情をみて由岐は気を引き締めてたずねる。
「なにが起こった?」
「ほのっち……帆乃佳が姫になってる。そして、この街だけが、中世ヨーロッパみたいになってるけど、おかしいの。スマホはあるし、衛生面は現代、他にも色々。統一感がないの、まるで色々な世界が混ざりあったように……」
「つまり、何人も入れ替わった。と?」
「わからない。もしかしたら一人でも、すでに入れ替わった人との干渉でかもだけど」
「それはつまり、最低一人は入れ替わったってことだよな」
「そうだけど……これ、どうしたら……」
スマホの画面を由岐に見せ、指差す。そこに写るのは、ドレスに身を包み手を振る笑顔の帆乃佳であった。
「……とりあえず帆乃佳に明日確認しよう。入れ替わった本人の可能性もあるし」
「そだね。じゃあ、とりあえず寝よっか」
そういって、由岐の腕を自然に掴み、ベッドに潜り込もうとする咲桜に流されるようにそのまま入ろうとして動きを止めた。
「まて、なんで僕のベッドに咲桜まで入ろうとする? そして、なぜ僕のベッドで寝ていた?」
「ぶー! お兄ちゃんが来ないからそのまま落ちちゃっただけだもん!」
「だからなぜ、ベッドに潜む」
「自信あるんだよ?」
「なんの?」
「今夜の下着!」
「よし、僕はやっぱりリビングで寝るわ。おやすみ咲桜」
「なんでーーーーー!」
咲桜を手早く布団で簀巻きにした由岐は、部屋を後にした。咲桜の叫びを背中に聞きながら。
次回更新は明日がんばります(´Д`)




