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強制力と、バランス

 説明会話が増えます。後ほど、全話の視点を統一することにしますので、手直し更新が掛かるかと思いますが、よろしくお願いします。

 由岐は少し呆然としたあと、リビングへ後を追いかけるように入ると、既にわかなはソファに腰を掛け足を組みくつろいでいた。


「で、咲桜。あなたは()()であってるのよね?」


 疑うような視線で、リビングへ入ってきた由岐に目もくれず、バスタオル姿の咲桜を見ながらわかなは尋ねる。


「そうだよ。わかな」


 いつもの″わかなちゃん″ではなく、咲桜はわかなと呼び捨てている。その事に由岐は違和感を感じ口にしてしまう。


「なぁ、わか姉。さっきも聞いたけど向こうの世界の温見わかなって事なのか?」


 その言葉を聞き、わかなはため息を軽くつくと答える。


「そうよ。由岐。で、なんであんたは知ってる、ううん、認識出来るわけ?」


「待ってくれ、その質問の前に、わか姉は入れ替わったってことなんだよな?」


 由岐の質問に、わかなは目を鋭くさせしばしの沈黙の後応えるように呟く。


「なるほど、ね。だから入れ替りじゃなくて、″共有″だったのね」と。


「共有? どういうこと?」


「はぁ、とりあえず由岐。あんたは黙ってて。咲桜に確認することがあるのよ」


「ぐっ」


 ひどく冷めた声色のわかなに、由岐は口をつぐんだ。


「で、わかな聞きたい事って?」


「あなたが入れ替わったのはどれくらい前?」


「昨日だよ。入学式のあと」


「なんでかしらね?」


「なにが?」


「時間差よ。あなたと私は隣に居て暴走に巻き込まれた、でも、私が飛ばされてきたのは今日の朝よ?」


「え?」


 なにが問題なのだろうか? 由岐は内心でその質問の意図を理解出来ずに居た。次の咲桜の発言までは。


「なんで? どうして時間がズレてるの……」


「そこは私が聞きたいんだけど。時間軸の計算は咲桜、あなたが出したわよね?」


「うん。ちょっと待ってて!」


 バスタオル姿の咲桜は、リビングを飛び出し二階へ駆け上がっていった。開け放たれた玄関とを繋ぐ扉が揺れ、わずかな隙間を残して中途半端な位置で止まり、階段を駆け上がっていく咲桜の足音をわずかに遮断する。


「で、そろそろ良いかな?」


「はぁ。めんどくさいわね、私は入れ替りじゃなくて、一つの身体を共有している。これで良い?」


「つまり、多重性格者になったってこと?」


 由岐の質問に、頷きわかなは更にため息を吐く。


「そうよ。理由は、由岐。あんたの今の状況のせいだからね? お陰で向こうの私はきっと意識不明のままね」


「どうして……」


「それは、どうして完全に入れ替りが成されなかったか、なのか、向こうの私が意識不明になったことなのか、どっち?」


「両方だ」


「前者は、あんたがドッペルの影響たる強制力を受けてないから、悩んでいる、または戸惑っている。こっちのわかなは、それが気になり入れ替りを拒否した。後者は簡単。魂の無い肉体は、意識が有るわけが無いからよ」


「待ってくれ。魂? アストラル体ってのは魂の事なのか?」

「それについては、そうとも言えるってだけ。実験初期に一件だけ意識の戻らない人が出たのよ。だから、意識を飛ばすということは、魂を飛ばし中身が無い、そういう風に定説されたわ」


 わかなは三人掛けのソファーから立ち上がり、勝手知ったる我が家のように、コップをとりだし、冷蔵庫から常備されている麦茶を注ぎ、ソファーへと再度腰掛けコップに口をつけ続けた。


「まぁ、意識が戻って世界が改変していった。その事を知覚できるのはその被験者だけだったから、()()()()()()()()()()のかは不明だけど。被験者は結果に満足していた。だから、実験は成功って形で続いたわけだけど」


「人体実験をしていたのか」


「それはそうよ。知能を持ち、言葉を解せるのは人間だけだもの」


「その実験はこれまで何度行われたんだ?」


「第六次臨床実験までね。つまり、六回。事故が起こったのは二回目だけ、あとは成功したわ」


「どうやって、成功と失敗を判断するんだ?」


 由岐からの質問攻めに、わかなはさらに気だるげに一言だけ答える。


「幸福度よ」


「幸福度? そんな曖昧な事で人体実験を続けていた? 狂ってる!」


「はぁ。由岐、あんたに向こうの何がわかるの? この世界の基準で狂ってるかどうかなんて知った事じゃないわよ」


 刺すような目つきに、殺意をみなぎらせわかなは吐き捨てるように告げた。


「いい? 強制力は絶対。なのに、あんたがそれに気づき、前の状態を覚えている。その方が異常で、狂ってるのよ。自覚しなさい」


「自覚しろと、言われてもな」


 そこで、ようやく咲桜がリビングへ戻ってきた。その姿を見て、由岐は絶句した。


 身にまとっていた、最後の砦、柔らかな肉体を隠すべく巻かれていたバスタオルが無いのである。つまり、()()()()()が入ってきたのだから。


「お……おまっ!」


 指さす由岐を見て、ようやく理解したのか咲桜は一気に頬を赤く染め上げ無言で浴室へと走っていった。


 わかなはそれに目もくれず、咲桜の持ってきたノートに目を走らせる。その姿を見て、由岐は脳裏に焼き付く義妹の白い肌を振り切り、同じようにノートを見る。


 そこに書かれていたのは計算式、途方もない桁の数字の羅列であった。


「なんだこの数式」


「時を数値化したものよ。と言っても計算が合ってるかしかわからないけど」


「時間の数値化?」


「時計と同じよ。ただし、一つの計算がずれたら過去にも未来にもなりかねないけどね。計算は、合ってるようね。そうだ、今のうちに答えてくれる。なんで由岐には違いがわかるのか、それはいつからなのか」


「昨日、咲桜のドッペルゲンガーを見て、入れ替わった後からとしか」


「つまり、他人のドッペルゲンガーを視認できたって事よね? あぁ、でもこっちのわかなの記憶にもあるわね。つまり、アストラルサイドのドッペルゲンガーは他人でも知覚はできるのね。でも、なぜ違いがわかるのか。他に何かしなかった?」


「争ってた咲桜、ドッペルゲンガーのほうにタックルをしようとして弾かれた」

「弾かれた? 精神体とも言えるドッペルゲンガーに?」


 聞かれた由岐は、昨日の事を鮮明に思い出そうと記憶を辿る。真っ先に再生された下着姿の咲桜と、リンクするように先ほどの映像が脳内に甦るのを抑え、何があったのかを思い出す。


「いや、触れる前に見えない壁のようなもので弾かれた感じだったな」


「異次元干渉による、反発。ないしは、それに準ずるもの? もし、この干渉が原因としたら——」


「お待たせ」


 ちょうどそのタイミングで、冷めきった体を温めなおした咲桜がパジャマを着てリビングへ戻ってきた。


 花の香とボディーソープのさわやかな香りが混ざり合った、やわらかな空気を振りまきながら。


「で、計算は合ってるよね? 記憶から式と数値は覚えてて誤差なかったんだけど」


「そうね、式が間違ってなければ問題ないはずよ。向こうでの数値はわたしはしらないけど」


「じゃあ、なんで時間差が。それに、この世界にわかなが飛ばされた理由も」


「そうね、時間差だけに目をやってる場合じゃないわね。()()()()()()()()()()()()()どちらかと言うと、こっちの方が問題よね」


「うん、もしこれが巻き込まれたすべての人がこっちに来るとなったら……」


「世界は倒壊するかもね。あの人の理論レポートの推論のように。だからこそ、時間差が気になってるのもあるけど」


「おいおい、なんか話が急に物騒になってきたんだけど」


「強制力。そんな力がまさか代価無しのリスク無しなんて思ってないわよね?」


「なにかあるのか?」


「わからないわ。でも、世界のそれまでを歪めて、それが正常であるようにするのが強制力よ? 金属だって曲げて元に戻してを繰り返して、その先にあるのは断裂だけのように、世界だって同じように壊れる可能性を考えない程、楽観的ではいられないわよ。特に巻き込んだ側としてはね」


「わかな、時間差があって、巻き込まれた人が今後どんどん飛んでくると仮定してどうすれば防げると思う?」


「正直こっちじゃ手の打ちようがないわ。向こうの咲桜に期待するほか無いわね」


「あぁ~やっぱりそうだよねぇ。暴走の規模もコッチのわたしたちじゃ知るすべはないし」


「つまり?」


「なるようにしかならない。そして、このあと世界がどうなるか予想もつかないってこと」


「つまりは、明日起きたら空をドラゴンが飛んでたり、科学が一気に進んでて皆ロボットになってたりもあり得るって事よ。予測不能。願わくばこっちの世界の人がドッペルゲンガーを追い返してくれればいいんだけど」


「結局、他力本願かよ!」


「そこは心苦しいけど、どうしようもないから」


 そういって咲桜は唇を噛みながらうつむいた。

 次の話で起の結になる予定です。


 次回更新は明日あげれればと思ってますが、すこしお時間いただくかもしれません。

 ご了承ください。


 次回もお付き合いよろしくおねがいいたします。

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