プロローグ
ええ、長編作品となります。プロローグは世界観の説明と、ほぼ主要キャラが出てます。いま、書き上げた計四話同時更新させていただきます。
分量は、各話二千五百から、三千五百の間の予定です。プロローグのように長くなる場合もありますが、お付き合い頂けると幸いです。
高校二年の四月、全国区で有名なマンモス校である、舞原高校の桜並木に立ちため息を漏らす。
本来なら新学年の新学期、心踊る状況なのに、折原由岐の心は晴れない。なぜなら、妹である折原咲桜の入学式が本日執り行われるからだ。
由岐と咲桜はとにかく、不仲である。それは、血の繋がりが無いから特に酷いものである。
義妹が萌えるだけ? 冗談だろう。その質問には、そう由岐は答える。かれこれ、七年になるが、最初の二年を除き咲桜との関係は兄妹でなく、他人の域になった。
当初は、早くに母を亡くした父が連れ子の義母と再婚し、お兄ちゃんと呼ばれていたが現在はアレ、コレ、アンタ呼ばわりである。そして、何よりも厄介なのは咲桜は外面が良く、大いにモテる。
これにより、由岐は苦労が絶えないのだ。中学では、先輩、同級生、後輩問わず『紹介しろ』と言われ。他にも、ラブレターの代理受け渡しと散々な日々を送った。ラブレターの代理受け渡しについては、人を殺せるような目付きで睨まれ『キモっ』と言われるのだ。
そして、輪を掛けてココ、舞原高校には厄介な代物が全生徒に配られるのだ。そう、スマホである。しかも、それそのものが生徒手帳として機能する為、持ち歩きが義務づけられている。
ただのスマホではなく、校内のみ閲覧、書き込み可能なクローズドサーバがあり、そこには各種の掲示板がある。要は、校内公式SNSだ。
スマホが震え、タグつけされたメッセージの書き込みを知らせる。先程から無視しているが、コレで百は越えているはずだ。見たくは無いが、このまま無視も出来ない。由岐は、もう一度深いため息をつき画面を開く。
そして、書き込みを見て、やはりと思うのだ。
『新入生の可愛い子を挙げるスレ(男子生徒のみ閲覧可能)』
『裏山けしかランキング(男子生徒のみ閲覧可能)』
『とりあえず放課後体育館裏な』
その全てに、由岐の名前がタグつけされ、ランキングは去年五月からの不動の一位である。
なんなら、既に殿堂入りで二位の人が一位扱い、由岐は並ぶもの無しの称号を与えられていたりする。
「マジか…………」新入生の可愛い子を挙げるスレには、多方向から撮られた咲桜の姿、そして、タグに『この子の義兄は折原由岐』と付いている。
風に舞う桜を楽しむ気も起きず、ただ呆然と立ちすくむ。また、憂鬱な二年になるのか……と。
さらに悪いことは重なるもので――。
「ゆきちゃーん!」
大声で手を振りながら、長い黒髪と、大きな胸を揺らしながら走ってくるのは現生徒会長、温見わかな。その人だった。
額に左手をやり、この場から走り去りたい衝動を抑える。が、既に手遅れだ。入学式の祝福帰りの周りの同級生から刺すような視線を浴びている。そして、たどり着くわかなを見やり口を開く。
「学校でその呼び方は止めてくれ、わか姉」
「ええーっ! 幼馴染みの癖をまだ治せって言うの!?」
大袈裟にリアクションをとり、その都度、胸が上下に揺れる。
周囲の男子生徒からは「おおっ!」と感嘆の声、女子生徒は「くっ! わたしもアレ位あれば!」と、嘆きの声、そして、男女分別なく生徒からは「折原マジ滅べ!」と怨嗟の声があがる。
桜の舞い散る空間に、似つかわしくない殺意に満ちた空気が漂う。
そして、ひとひらの花びらが、ふわりと、わかなの胸に着地する。
「見て! ゆきちゃん! 地面に落ちてない桜の花びらっ! たしか、幸せになれるんだよね!!」
胸を突きだし、由岐に見せようとわかなは更に胸を張り、腕に押し付ける様に距離を詰める。
「ちょっ! わか姉! わかった! わかったからっ離れてっ! 周りに他の人も居るんだからっ!」
だが、由岐の忠告は遅く、ブレザーのポケットに仕舞ったスマホが際限なく振動を繰り返す。
溜め息をもう一度吐き、わかなを引き剥がして教室へ戻る。マンモス校だけあって、舞原高校は私立の大学よりも、建物の数が多い。
敷地中央に教員棟、学生課、大図書館、パソコン室があり、一階にはオープンテラス付きの学食が一階を全て締める。
そのため校舎の中は、どこかのショッピングモールのように、多数の店が並び、ファストフードから定食屋まで、低価格で食べられる。もちろん、量も多い上に、支払いは現金ではなく、生徒手帳兼スマホでの決済のため、校内に財布は必要無いのである。
実際に、自動販売機も現金とスマホ決済に対応しており、各棟にある売店も同じである。
中央の北には、技術系の電気科、電子科、工業科、自動車科が四棟あり、自動車科のための整備工場まである。裏手の山では、自動車科の先生が作ったクロスカントリーコースも有ると言うが、由岐はそこへ行ったことはない。
次に東には、生産系と呼ばれる調理科、裁縫科、美術科、音楽科が二棟と美術科、音楽科のための展示館、オーケストラホールがそれぞれ有る。
毎年、展示館では美術展が開かれ、オーケストラホールでは年末に年の瀬ライブなどの会場にも使われている。
南には、学校入口の正門、桜並木と、普通科、特進科の二棟の他、サッカーコート八面分のグラウンドがあり、運動部の部室棟が二棟ある。
そして、西には文科系部室棟と、弓道場、柔道場、剣道場、体育館、プールなどの設備があり、在校の間に全てを知れるほど歩き回る事が出来ない広さがあり、これだけ広大な土地をどうやって購入したのか、それが気になる生徒も多くいる。
さらに、北東には現在進行形で新校舎が建築中である。その為、東門は工事のために使えず、全生徒、教員は正門を通って各棟へと向かわねばならない。
普通科の由岐、わかなは近いのだが、他の特に技術系の生徒は『免許とらせてくれ』と切に願うほど歩かねばならない。もちろん自転車も使って良いのだが、生徒数が多く、よほど朝早いか、帰りが遅くない限りまともに漕いで走り抜けることは不可能である。
その為、免許をとったところで、たどり着く時間は遅くなれど早くなることは無い、との結論から不許可という決が昨年の学生総会で下ったばかりである。
どちらにせよ、駐輪問題から否決になるのは目に見えていたのだが。
そして、歩くこと十分、ようやく校舎へとたどり着く。他の学科の人たちはこれの、約倍近い時間を掛けることとなる。混雑防止のために入学式事態が、三回に分かれて行われるから、由岐はその光景を観たことは無いのだが。
校舎へ入りそのまま教室へと向かう。土足のままなのが嬉しいところだ。そう、心で思いながら由岐は階段を上がる三階が三年生、四階が二年生、五階の最上階が一年生の教室が有る。一階は多目的教室、視聴覚室、更衣室、実験室、保健室が並ぶ。二階は教員控え室、資料準備室、音楽室、生徒指導室、自習室がある。
階段を登り、教室の扉を開くと横から首に腕を回される。横を観れば、谷原秋人だった。クラスでの渾名は、サッカー部と言うこともあり、シュート。秋をしゅうと読んだものだ。短髪を茶色に染め、毎回生徒指導室で黒染めされる。そんな馬鹿なヤツだが、親友であり、幼馴染みでもある。
「おはよ、ゆっき!」秋人は僕を呼ぶとき、必ず小さな″つ″を入れてくる。
「おはよう、秋人。元気だな相変わらず」
「おうよっ! なにせ咲桜ちゃんが入学だろ。しかも、普通科! あ、音楽科にも、ほのっちが入るんだっけ? ゆっき、明日も大変な事になるな」
「馬鹿っ! 迂闊なことを口に――」秋人の口を抑えるがやはり、間に合わなかった。
周囲の男子からは、冷えた目線で『他にも可愛い子と仲がいいのか?』『ふざけるな! 難聴系主人公みたいな顔をしてるくせに!』『いや、むしろモブだろ。良く観てみろよ。ラフ線だろ?』『バカ、それは涙でぼやけてるだけだ』などと、声が聞こえる。
さらに、女子からも『はぁはぁ。リアルハーレムとか由岐ちんは王子なの?』『まって、会長、義妹の他にも可愛い子とか。その三人の仲は大丈夫なの?』『いや、義妹は義兄を避けてるとの噂』『なら平気?』『女同士だから、そこはホラ。ね?』『なるほど』などと、男子の由岐には理解不能のやりとりが成されている。
本日、何度目であろう溜め息を付き肩に手を回したままの秋人を連れ、自席へと戻る。
席替えなどは、前日に済ませたばかりである。席は窓際の一番後ろ、非常にいい席である。そして、隣の席は秋人である。きっと、授業の度に起こす羽目になる事を考えるとここでも溜め息を吐きたくなるが堪え、席に座る。
「でさ、ゆっき。この後、剛くんが呼んでたよ」
「ん? あぁ、わかった。どこ行けばいい?」
「あとで連絡するってさ」
「あいよ」
気だるげに手を振り、机に突っ伏す。春なのに、机の冷たさが心地よく腕を伸ばして頬を机の天板に密着させつつ秋人に問う。
「剛くん、なんかいってた?」
「ん? たぶんほのっちの事じゃない?」
「あぁ、そうかも。まぁ、アッチは本当の兄妹だからなぁ仲良くて羨ましいけど」
「いや、それゆっきのおかげじゃん」
「? なにもしたつもり無いけどなぁ」
「あれで、なにもしてないとか。呆れるわ!」
「えぇー、めんどうだなぁ」
そんな、雑談をしていると、教室の扉が開く音と共に、皆が席に着き静かになる。
「起立! 気をつけ、礼っ!」
担任の、体育教師でもある角昇に礼をし、着席する。
「はい、注目!」
注目もなにも、皆は前を向いているのだが、と由岐は眉をひそめる。担任のテンションがやけに高いのだ。そして、その不安は的中する。
「えぇ、新入生が入り浮かれているだろうが、進路をお前達は決めなければならん! このプリントを各自回し、記入後提出するように! あと、折原、マジお前の義妹は可愛いな」
急な話題転換にクラスはどっと笑いに包まれる。厳しくもユニークな先生である。
「はい、静かに。授業は来週からだが、今週は今週でやることがある。進路相談と、折原いびりだ!」
「いや、それおかしいからっ!」
「はい、そこの折原くんは寝てていいよぉ」
このやりとりも二年目となれば、皆も先生の冗談に付き合い出す。クラスは三年持ち越し、担任も変わらない。変えると本当に名前を覚えるのに苦労するかららしいが。
そんな、やりとりのあと、必要連絡事項を済ませ、LHRは終了し、解散となる。
「じゃ、ゆっき部室棟まで一緒に行こうぜ」「あぁ」
秋人に誘われるまま、教室を後にする。ちょうど階段を降りきったところで、ポケットの生徒手帳兼スマホが震える。
「あ、剛くんからだ。もしもし」『おう、ゆき! 明日なんだがわりぃが帆乃佳を迎えに来てもらえないか?』
「ん? なぜ?」
『いやぁ、なんか音楽科の道具持ち込みもあるらしいんだが、俺は部活で手伝えねぇからさ。な? 頼む、帆乃佳も喜ぶだろうし、な?』
「はぁ。わかったよ、またこれでいじられたら、剛くん、恨むよ?」
『いや、それはゆきの責任だ。俺は知らない。リアルハーレム築けばいいじゃないか』
即返答が来きて、自分は関係ないと由岐の反論を蹴った。
「待って! 僕はハーレム願望無いからねっ!」
『じゃ、部活あるからまたなっ!』
それだけいうと、通話は切れてしまう。
「剛くんなんだって?」
「あぁ、明日、帆乃佳と共に通学してほしいだってさ」
「あぁ、確実に明日も校内SNS荒れるなぁ」
「言うなよ……もうやだ」
「どんまい」
落とした肩に、秋人は手を乗せ、励ましにもならない軽い言葉をくれた。
「じゃ、また明日な!」
「おう。部活がんばれよ」「くっ! ゆきが女子ならやる気出たのに……」
「おい、僕の応援返せや!」「返品申請は受け付けておりません」
そう言って、手を振り秋人は部室棟に入っていく。
そのまま、僕は校門を出る。
次から、本編となります。どうぞ、引き続きお楽しみ頂ければと切に願います。