妖精の森で
母からの紹介状を貰った次の日。私は二度とこの地には帰ってくるつもりはないので挨拶周りをしようと朝から色々な所に顔を出した。
素直に理由を言ったら面倒な事になりそうだったので母の親戚の家に養子になるって事にした。
一応母に確認してからの嘘なので母公認の嘘である。
よく行く市場のおばちゃんからおじさんまで最初は心配してくれたけど、しっかりしているから大丈夫だろって最後には言われた。
途中嘘を信じている彼らを騙す形になって良心が痛んだが此方は命が狙われている可能性が出てきたので彼らが巻き込まれるよりは良いかと頑張った。
最後になったが街の外れにある森にきた。ここは貴族の子どもや平民の子どもがこっそり一緒になって遊び場だ。もちろん貴族の子どもはこっそり抜け出して来ている。
この森にはモンスターも出ないし猛獣も出ない。人が管理しているから自然公園ともいえる。
子どもが昔から集まるものだから定期的に騎士団の見廻りがあるし、怪しい不審人物は何故かすぐに捕まる。巷の噂では妖精の加護があると信じられていて《妖精の森》と呼ばれている。
悪ささえしなければ子どもの見方というのがこの国の考え方だ。学者などは子ども好きな妖精が護ってくれているともいわれていて真実は誰も知らない。だが不思議な体験をしたとの噂は多くありそのせいもあって信仰の対象になっている。
森にきたのは丁度1週間振りになる。よく遊ぶ子たちは今日は来ているかな?
森に入り丁度森の中心部に大きな木がある。樹齢が確か400年と立派な大樹だ。この大樹は妖精の宿ると言われる木と言われるので御神木扱いされていた。
御神木の後ろに廻ると丁度子どもが入れる穴がある。私は屈んでそこに入ると木の中は広く子どもが遊び回れる広場になっていた。
今はお昼前なので人が少ないかな。いつもはお昼過ぎに遊ぶ事が多いからな~。
私に気づいたのか何人か近づいてきた。
「あっ!ルルじゃん!今日は早いね!」
「今日は家の手伝いはいいの?そういえば昨日ね~。」
みんな好き放題話し出す。おいおい、私は聖徳太子じゃあないぞ。
「みんな久しぶりだね。今日はちょっと話があって…。」
「なんだよ。遊ぶんじゃあねぇのかよ。」
遊ぶのを断ると上から声が聞こえてきた。
上を見上げると木の根に腰かけている男の子がいた。
如何にも貴族ですという格好をしていて、ヨッと言って近くに着地した。
何処からか入ってきている光源に当たり彼の銀の髪はキラキラと煌めいていた。
この時間からいるとなるとどうやら彼は家庭教師から抜け出してきたようだ。
「久しぶり!皆に大事な話があるんだ!」
この世界の常識や豆知識等の情報源である彼らには何度助けて貰ったかわからない。
よし、頑張ろう。ここで挨拶周りは終わる。
いつか彼らの記憶の彼方に消える私をどうか覚えていてほしいと願う自分に嘘をつく。