転生する
気分転換に書き散らす。
あぁ、空が青いなぁ。
遠くでピューロロと鳥が鳴いている。
今いるのは屋敷から程遠くにある丘に来ている。まぁ、一言で言えば色々なことがありすぎて逃げ出した。現実逃避ともいう。
何で私はここに来てしまったんだろう。目を瞑り思い出す。最初は、母がいなくなったのが原因だろうか。もう10年も経つ。
何処にいるかもわからない母を思い出すことなんてないと思っていたのに。
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10年前当時6歳だった私は王都の下町に母と2人で住んでいた。
父親なんていないのは当たり前。病気がちな母は針仕事で生計をたてていた。物心つく頃には母の負担にならないよう家事など積極的に手伝うようにしていた。
母はあまり子どもに興味がないのかご飯さえあげればあとは勝手に育つと思っているのかあまり私に構ってくれる人ではなかったかな。
これ私が転生者じゃあなかったら母にすぐに捨てられてたと思う。
そんな日々を慎ましく暮らしていたある日母は言った。
「そういえば、私もうすぐ結婚するからあんたは一人で生きなさいよ。」
寝耳に水だった。いつも話しかけない母が珍しく声をかけてきたから驚いたがもっと驚いたのは来週には相手の仕事先の国へ行くからこれからは勝手に生きろって言われたことだ。
もうすぐ7歳になる私はこれからは一人で生きていかなければならないようです。
いや、待てよ。何でそうなるの?
唖然と口を開いてフリーズしていた私をみて母はこの話は終わりだと思ったのか針仕事に集中しだした。
いつかは独り立ちするためにこの世界のことを学ぼうと空いている時間を使って文字や魔法を使える人に学んだり、手に職をつけるのに針仕事を手伝う等私、頑張ってきたのに。いつか私を認めてくれると思っていたのに。
グルグルと感情がない交ぜになって思考が停滞する。
そうだ、来週にはこの人はいなくなるのだから聞いてみたかったことを聞いてみよう。
「あの、さ。もう、最後だし。聞きたいことが、ある。」
「なぁに?これ明後日までに終わらさなくちゃいけないから早くして。」
母は針仕事から目を離さずに返事をする。
意を決して口を開く。
「あの、あのね。私の父親って誰?」
聞いて後悔した。部屋の温度が下がった気がしたからだ。
「そう。そうね、いいわよ。今まで聞かなかったのが可笑しいのだから。」
そう独り言を言って席から立った。
母は隣室から小物入れを持ってきた。その小物入れは昔から絶対に触ってはいけないと強く言われていたものだった。
机に置き中身から指輪を取り出した。
指輪はシンプルなシルバーの指輪だ。装飾はなく宝石もない。
何か特別なモノでも出てくるかと思っていた私は内心ガッカリした。
そんな私の様子も知らず母は指輪を渡してきた。
「これに魔力を込めな。」
渡された指輪に黙って魔力を込める。
「へぇ、魔力操作あんたできるんだ。」
「え?」
「平民で魔法使える奴ってのは珍しいし下手すれば拐われるわよ。」
初耳なんだが?
「あの…。」
「まぁいいわ。指輪を見てみな。」
見てみると指輪は魔力を込めたことによってシンプルな指輪から複雑な模様が浮き出ていた。
「その指輪ね。血統魔法が付与されているのよ。貴族ってのは血が大切だからね。その家の血と魔力があれば指輪が反応するようになっているのよ。」
ということは、私は貴族の血が入っていることになるのかな?
「この指輪を持っていければ私はお父さんに認めてもらえるの?」
「それは無理よ。」
母は寂しそうに笑う。
「あんたの父親は死んでいるのだからね。」