育てた養子は魔王でした
プロローグ〜主人公はまだ出ません!〜
男女が一組、向かい合って居る。
二人ともお互いの動きを探ろうと睨み合い、互いに刃を向けあって居る状態だった。
「勇者よ、腕を上げたね」
小柄な女性がそう言って笑った、心なしか嬉しそうに見える。
「そう言うお前は魔王らしくないな、最初村人に間違えそうになったぜ?」
勇者と呼ばれた男が訳でも聞きたそうに返した。
「十五年前に負けてから、とある世界に飛ばされてね…」
色々あったと懐かしむ魔王を前に、勇者は構えを解き疑問を一つ投げかけた。
「この世界を支配する気は、もう無いのか?」
以前よりも数段強くなっている割に全く邪悪な敵意が感じられない事に違和感を覚えていた勇者に、魔王は魔王らしくない優しい笑顔で肯定する。
そして空を見上げて経緯語り始めた。
「あの日、勇者に…君に負けて私は空間転移を使って逃げた」
残り僅かない魔力で転移を試みた為に、暴走して異世界の真冬の山道に転移し、挙げ句の果てには魔力が付きて体を維持する事が不可能になり新生化されたという。
「薄れていく意識の中で、私は自身を笑ったよ…魔王にさえならなければ…それこそ村娘だったならどれだけ良かったかって、このまま死んでしまえば罪滅ぼし位にはなるかなってさ」
そのまま意識が無くなり、後は死を待つばかりだった彼女を、その世界の住人である老人が偶然見つける所から、全てが始まった。