初めてのギルド
百合よ広がれ。拡散されろ。
……どうも……なんか異世界来て漫画みたいに最強になっちゃった結城 涼香です…。
マリーと話し合ってから3日目
現在レンガで作られた住宅街……と言っていいのかはわからないけど、そこの道を歩いている。
「ったく…涼香ってほんとに何者なの…。」
ラヴィが、ムスッとした表情で呆れたように言う。
……吸血鬼ですが…。なーんて言える訳もないし。
「自分でも分かんないわよ…無演唱とか…つい最近まで普通のことだと思ってたし……。」
「いや、確かにそっちも王家の魔道士のお偉いさんぐらいじゃないと使えないぐらいってのもあるけど、それ以上に……魔法を編み出すとか…あんた…。はぁ…。」
ラヴィが頭を抱える。
「……そんなため息までつかなくても。」
「これがため息つかずしてどうするの!ラムデ語を解読出来るやつなんか初めて見たわ……魔法を編み出したなんて、この国……いや、この世界に大きく関わるのよ……!」
「……ごめ…なしゃい…。」
そんなことだとは知らなかったんだもん……吸血鬼なんて言えないからうまくかわせたと思ったのに……。
「…別に涼香が悪いわけじゃ……。」
ラヴィが申し訳なさそうに横目で私を見る。
……てか、ほんとに私魔法作れるのかな……。
(別に行けると思うよ。ポイント使う?ラムデ語解読のやつ。)
……え?……何ポイントくらい使うの……?
(そんなポンポン世界壊すくらいの魔法作られてもあれだし、25000ポイントくらいかな……。)
……残り62490ポイントか。……んー、やめておこう。今でも十分最強だし。ちょっと楽しそうだから…って思ったけど、まぁいっか。
(……気が変わったら言ってね。…まぁ今のままでも魔法は作れるかもしれないけどね(ボソ))
……?何か言った?
(んーん!なんでもなぁい!)
……?
「……まぁ、とりあえずバレなきゃ何とかなるでしょう。」
そう言ってヘラヘラと笑いながら目的地へと向かった。
「……なんか思ってたのと違うんだけど。」
私はある場所を目の前にして、絶句した。
3日前に遡るとしよう。
「……無演唱。」
……えぇ…普通言葉出すの……?め…めんどくさ…。
「…えへっ、それで、聞きたいことがあるんだけどね、」
もうめんどくさい、と言わんばかりに強引に話をすりかえる。
「…えぇ……ま、まぁいいわ。…ラムデ語解読できることにくらべたら、そんなにも驚かないし……。」
あら……気の使える子って大好き。
「……んー、もう率直に言ったらお金が欲しいの。」
「……カツアゲ?」
……いやいや……。てかこの世界にもカツアゲって言葉あるのね。
「そうじゃなくて、いちはやくお金を稼げるところがあるかなぁと思って。……あ、性交的な仕事は勘弁してね。あくまで安全がいいわ。」
お金がないというわけではない。……だけどさぁ、やっぱり元教師としてさ、働かないってのはどーかと思うわけ。……それに、前世であの子にあんなこといっちゃったしなぁ。
「……安全……では無いかもしれないけど、ギルドとかどうかしら。魔物を討伐したり、薬草をつんだり。大きな魔物とか希少な魔物や薬草とか詰む仕事とかは結構莫大なお金が入ってくるけど……。」
「あら…それはいいわね。」
……ギルド!魔物!ん〜異世界って感じがする!
てことで、いま、ギルドに……来て……るんだけど。
「……これはちょっとなぁ…。」
目の前にはツタやつる、ふさふさの藻……いやこれはカビだ。とりあえず酒の匂いと男臭い匂いがする。
「……帰ろう涼香。」
ラヴィが私の腕をとり、帰ろうとする。
「いや待って。……うん。掃除する。」
昔、馬鹿な友達の家の掃除をしたことがある。よくこんなで生きれたなってくらい汚いヤツ。
……あれに比べたらまだマシだ。うん。
大股で歩き、大きなドアの前まで来てから、大きく息を吸ってドアを開けた。
ザワザワとした部屋の中が私達が入ったことで静まった。
……空気が悪い。物理的にも、精神的にも。なんか、危なそうだし、ラヴィの手、ちゃんと握っておこう。
中の大男達はヒソヒソと話し出す。
獣人、ヒューマン(人間)……2種族だけか。
受付の偉そうな男に声をかける。
「ごめんなさい、ギルドの会員登録をさせてもらってもいいかしら……二人分お願いするわ。」
すると、大男達は一斉に笑った。
「なぁ〜に言ってんだこの女!女でしかもヒューマン!ぶっはっ!笑っちまうな!」
「薬草採取でも死んじまうんじゃねーか?」
「バカだろこいつら!特にヒューマン!」
……下賎な奴らだわ。
「……こいつら…涼香のことを馬鹿にしやがって……。ぶち殺す……。」
ラヴィが、額に血管を浮かせてえらく物騒な顔をしている。
「……大丈夫よ。あまり大事は起こしたくないの。」
そう言って柔らかく撫でる。
「……っ!」
すごく悲しい顔をして、悔しそうに俯く。
「……やっぱり、ダメかしら。」
唯一怖い顔をしたまま、少しも笑わなかった目の前の受付人のおじさんに笑って魅せる。
「……いーや。別に構わん。二人分でいいんだな。」
…この人には好感が持てるわね。凄くいい人だ。
「…おじさん。ありがとうね。」
ラヴィが嬉しそうに私の腕に抱きつき、受付のおじさんに眩しい笑顔を向ける。
「…仕事なもんでな。」
そう言って私たちに、鉄のバッチを渡してくれた。
「ありがとう。あと、このクエストをお願いしたいわ。」
そう言って渡したのは、"六角オウガイノシシ10体の討伐"とやらの、古びた紙切れ。
「……あんたらにはこのクエストは少し無理があるんじゃねぇか?こりゃあ、この中の全員でかかっても無理な代物だ。今までもこいつ1匹に遭遇した冒険者が13人も死んでる。全くタチの悪ぃ仕事押し付けてくるもんだ…。悪いことは言わねぇ、やめとけ。」
心配……してくれてるんだろう。私が異性愛者だったら今のところでキュンキュンしたと思う。たとえ爺さんだとしても。
「六オウガは無理だよ涼香…。」
「ラヴィ……大丈夫よ。だって私強いもの。あなたを守ると誓うわ。愛してるわよ。」
そう言って、ラヴィの額に軽くキスをする。
「…信じてもいいんだね?」
「えぇ。」
「……んん゛っ!」
「「……!」」
「……ま、まぁ分かった、無理だったのなら本気で逃げてこい。場所はここだ。六オウガ10体の角を60本この袋に入れてもってこい。数回に分けても構わん。」
そう言って、地図と、大きな布の袋を渡してくれる。
「分かったわ、ありがとう。絶対に生きて帰ってくるわ。その時に、馬鹿にしないでくれたことをお礼させて。」
「ははっ、そんときゃ美味い酒が欲しいな。」
ケラケラと笑う。
「了解したわ。」
そう言って大きなドアを開けて、地図に記された場所にラヴィと一緒に歩いて行く。
ドアを閉める少しの間から大男達の下衆な笑いが聞こえた。その中にはあのおじさんの笑い声はなかったのは言うまでもないだろう。