親友
「ごめん!遅れた!」
駅のホームに焦り気味の足音が響き渡る。
「りょ〜〜〜かぁぁぁぁ!!これで何回目さ!」
むくれた表情で眉間に皺を寄せて詰め寄る。薄い茶色と金色をあわせたようなサラサラの髪の毛にプクッとした唇、少しタレ目気味で色素の薄い青色の瞳。ハーフならではの顔立ちだ。あと物凄く美人。
「ごめんって!今度なんか奢る!てか、そんな皺よせてたら将来皺だらけなるよー!?」
「はぁぁ!?だれのせいだと思ってるの!?」
ホームに私の笑い声が響く。それでかは分からないけど駅にいる皆が私達のことを見ている。いや、多分鳴のこと見てんだろーなぁ...見んなし。
まぁ、鳴なら別にどれだけ皺だらけになっても可愛いんだろーなー…。
「ねぇ、鳴…」
パッと横を見ると鳴は別の方を見ていた。
「ねぇ!あの人めっちゃかっこよくない!?」
鳴が小さく指差す方にはチャラそうな悪い系イケメンとやらが立っていた。
「...ぁ...そ...だね。」
鳴は少し火照った顔で恥ずかしそうに笑う。
好きなのかな...告白しちゃうかも...それであの男がOKしたら鳴は…。
「...涼香?どうかした?」
どんどんネガティブな方に考えが進んでいくところで鳴から心配の声があがった。
「あー...何でもない!あはは...。」
へったくそな作り笑いを浮かべて否定する。
「そう?...悩みとかあったら言ってね?」
いや、鳴だけには言えないわ...。
「うん。ぼーっとしてただけだから気にしないで!鳴もなんかあったら言ってね!」
「...え、あ...うん...。」
「...?」
なんか、歯切れの悪い返事だな...。
「ねぇ...涼香。」
「ん?」
「もし...私が...。」
「...うん。」
「...え...やっぱ何でもない...。」
暗い表情で俯く。
「え」から始まる言葉だったのかな...?
「えーー?気になるなぁ?」
「...あはは、ごめんね。」
何を言おうとしたんだろう...。
「...鳴...言いたくなったら言ってね。絶対1人で背負い込まないでね...!」
最初が暗い声だったから後の言葉は出来るだけ明るく言った。
「...っ...うん。...あり...がとね。」
本当はどうしたのかとても気になる。でも、鳴が言いたくないのなら、無理に言わせるのも嫌だ。
私はモヤモヤした気持ちで1日を終えた。
本当は、あそこで無理に言わせとけば良かったと後悔するのはまだ先の話だ。
次の日、起きたのは12時だった。
「う゛...あづい゛〜!!」
外は鼓膜が破れそうなほどうるさい何重にも重なったセミの声で、包まれていた。
「ぁーー、エアコンエアコンっ!!」
ボタンを押し、風がくるのを待つ。
「おねーー!!部屋入れてぇ...。」
バンッ
大きな音を立ててドアを開けてきたのは妹の夏香だった。夏香は中2で、私は高1だ。そういや夏香の部屋にはクーラーなかったんだっけー...。
「悪いけどまだ暑いままだよ?」
「ぅぅ...。後で涼しくなるから我慢する〜。てかその間はおねー触っとくー。」
そう言いながら暑っ苦しい手をわたしの腕に当ててくる。
「ちょっ!暑いって〜!!離せぇ!!」
「はぁぁ♡冷たい〜!さすが万年低体温!」
可愛い...。こんなだからあまやかしちゃうんだよねー...。
「気にしてんだから言うな!」
軽くコツンとグーで叩く。
「いてっ!もー...てか今日は鳴ちゃん来んの?」
「...あー、ちょいまちー...。」
スマホをひょひょいといじる。
ちなみに鳴と私の家は結構近い。
「どう?」
「ライヌきてたわ。」
『涼香ー。今日そっち行っていい?』
「いいじゃん!3人であそぼ!」
「夏香も遊ぶの?」
悪戯で言ってみる。すると、汗をかいてじんわりと赤みがかった顔がサーっと青くなっていく。
「え...?や、やっぱりやめとくね!」
泣きそうに瞳を潤ませて引きつった笑顔を浮かばせる。うわぁ...罪悪感えげつないな。
「嘘だよ!もー冗談も聞かないんだから!」
ぐしゃぐしゃと髪の毛を触り、両頬に両手を添える。
「むぅぅぅ...。」
「...さてと。『OK、今からおいで〜』っと。」
ピロンっ
返事早くね?
『りょ!今からいきますわよ〜!!笑』
「今から来るってさ。」
ポンポンとOKと可愛いイラストと共に描かれているスタンプを鳴におくる。
「鳴ちゃんってさ、彼氏いるのかな?いるよね~さすがに。」
「なにそれ。さすがにってなにさ。」
「え?だってあんなに可愛い子男の子とかほっとかないでしょ?おねーの学校は女子校だけど門の前で鳴ちゃんのこと待ってる男の子とかいるでしょぉ?」
「...男.....そういや何人か校門のまえで待ってたやつら3人組...いた。鳴のことめっちゃ見てんなーって思ってたけどまさか...あれが?」
この前というか進行形で、いっつも北高の制服きた男3人組がいた。その中の1人が校門の前で鳴見ながら顔を赤くしてモジモジとしてたのを覚えて...いるの...だが...。
「絶対鳴ちゃんのこと好きじゃんその子。」
なっなっなんだとーーー!?
ピロンッ
「...ん?」
『ごめん~転けちゃって...動けなくなっちゃった~!助けて~!〇〇点の前らへん~!』
「どしたの?」
「ちょっと行ってくる!!」
私は急いで鳴のもとへ向かった。
「鳴...っ!!大丈夫!?」
目の前にはベンチに座った鳴。顔色が真っ青だ。
「...涼...香...。」
母親の居なくなった子供が急に現れた母親の存在を確かめるように身体や顔をぺたぺたと触る。それが無性に可愛いくて、寂しくて私は鳴を思い切り抱きしめた。
「鳴...どうしたの?鳴~...大丈夫だからね。」
メールの明るい雰囲気とは裏腹に今の状態に恐怖のような焦りのようななんだか今、身に起きていることを絶対信じたくないと怖がっている様子だった。
「...っ涼香...涼香っ!」
「怖い人にでも会ったの?何かされた?転けたの痛かった?ゆっくりでいいから話して。私が心配でおかしくなっちゃうよ。」
「怖いの...。私...もう…歩けなく...なるんだって...。もう...動けなく...。」
絶望した目で小刻みに震えて私の服を握り締める。
歩けなくなる?動けなくなる?鳴が?
「鳴?ゆっくり説明して?落ち着いて?」
私はゆっくりと背中と頭を撫でて鳴を落ち着かせた。私は鳴が心配だったが、どこか頼ってもらって嬉しいと思っていた。のちのち話を聞いてゾッとするのを知らずに少しだけ幸せにしたっていた。