不穏な影
可愛い後輩が一応本編は完結したので、こちらの小説に取り掛かっていこうと思います。
長らくお待たせして申し訳ありません。これからもよろしくお願いします。
「おぉ涼香、おかえ……」
ミシューがご主人様の帰りを待っていたかのようにパァッと明るい表情で私を出迎えた。
「あぁ……ただいま、今日からこの子も一緒になり…ます。」
自分でも乾いた笑いだな、と思うくらいに心が籠ってない笑いだった。
「……おね…涼香の彼女の優香です。私達の邪魔しないで下さいね?」
そう言って優香は私の背中に隠れながらミシューを睨む。涼香なんて初めて呼ばれたわよ。なに、彼女って。牽制……なのかしら。
「え……涼香……」
「いや違うのミシュー聞いてあのね、」
「彼女って……なんじゃ?」
「「え???」」
まさかの返答に私と優香は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
……温室育ち(?)のミシューだったらありえる…かもしれないわね?
「彼女っていうのは、結婚を前提に交際してる女のことを言うの、おねー……じゃなくて涼香は私のものってこと。」
我が妹ながらなんて嘘を吐くんだ……というか姉妹で同性なのに結婚なんて……この世界では一般なのかもしれないけれども……めんどくさい事になりそうね…。
「りょりょりょ…りょう……涼香お主…………ワシの……ワシの純情を弄んだのか……!?貴様……ぁ!!!」
ほら。
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「てこと、分かった?」
優香は私の妹であり、彼女ではないことを一通り説明し終わり深いため息を吐き出す。
「うぬ……じゃあこやつは嘘吐きじゃないか!ふん、涼香はワシの物なのに馬鹿なことを言いおって……。」
ミシューは馬鹿にしたように鼻でふんっと鼻息を荒くした。
「あ?誰が誰のものって?殺すよ?」
お……おぉ殺気が……。私の知ってる優香ってこんな子だったかしら……。まるでメンヘラみたいな事になってるのだけれど。
「……やるか?脆弱な人間風情が神であるわしに勝てるものか試してみよう……。」
ミシューは低い声でそう言い、手だけ竜化させ、優香に向かって爪を光らせた。
「っ……!やめなさい!!」
そう叫ぶと、ミシューはピタリと止まった。
ギロリとこちらに目をやりゆっくりと目を細めた。
「…涼香、こやつ本当に人間か?」
そう言うと、ミシューはビキビキっと額に青筋を浮かばせた。
「あんたの言う脆弱な人間だよ、あんたより強いけどね。」
そう言い放つ優香の手には魔法で作られたクナイのような青白い刃物があり、ミシューの爪は中指の先が物凄く綺麗な断面で切られていた。
その中指は、ミシューが優香の額に向けた指である。
「……そのような人間は涼香が唯一だと思っとったが…ワシに傷を付けるか。ほぅ…?」
どんどん殺気が濃くなり、こちらまで身震いをしてしまいそうになる。
「ミシューやめなさい。やるなら2人とも外に出て。ラヴィに何かあったら許さないわよ。」
「は?誰それ。女?男だったら殺すけど。」
優香はこちらを見ずにあくまで注意はミシューに向けたまま話す。
「……うぬぅ…分かった…。」
手を下げると優香から1歩下がり、ゆっくりとソファーに座った。
「ラヴィは私を助けてくれた子。意味が分からない病気にかかってる。多分裏で糸を握ってるクソ野郎がいるはずよ。」
たぶんソレはラヴィが言っていたヤバい奴とやらではないと思う。そのヤバい奴すらをも操れる力を持った人物。もしかすると複数人かもしれない。
なんにせよまだ分からないことだらけだ。どうにかして早くラヴィを元に戻さないと。
「涼香、落ち着け。また怖い顔をしとったぞ。」
心配そうな顔をして私の顔を見つめるミシュー。
「はぁ……ごめんなさい。焦っちゃだめね。」
「よくわかんないんだけどさ、それって本当に人間なの?あ、この世界だったら人間以外もいるのか。」
優香は首を傾げてそう呟く。
「どういうこと…?」
「んーっとね、おねーも知ってるでしょ。天使さん。」
……そうか、優香も記憶を持ったまま転生してきたってことは天使に会ってるのか。
「まさか天使がやったとでもいいたいわけ?」
そうだとしたら、きっとアルヴァちゃんは傷つく。人一倍仲間や周りの人を大事にする人だから。
「んー、じゃなくてもさ。この世界の生物とかじゃなくて、もっとこうさ…天界があるならほかの空間とかなんか私達には分からない世界とかありそうじゃん?ほら、このウンチも一応竜の神様なんでしょ?そんなのが犯人だったりー……しないよね…あはは。」
そう話しながら、優香は自信なさげに笑う。
「……その線も、考えないと行けないかもしれないわね。もしかしたら神様とかそういうのかもしれない。見落としていたわ。ありがとう優香。」
軽く笑ってみせると優香は顔を赤くし小さくうんと言った。
「神がこのような事をすると…?」
ミシューは少し怒った様子で私を見る。
「目安がついてない時は幅広く周りを見る必要があるのよ。もしかしたらこの世界の人物かも知れないし、神位に立つような人物、この世界を仕切る神かもしれないし、天使かもしれない。固定的な思想は無くして。私は誰かも知らない神よりも、ラヴィが大事なの。」
「……わしも同意見じゃ。だが、知り合いの神がこのような事をするのであればワシは凄く……哀しい。」
そう言って辛そうに目を伏せた。
「とりあえず……さ、おねーはどうやってその犯人とやらの目星付けるの?」
「……まだ考えてない。」
「「…………。」」
そんな……そんな呆れたような目はやめて…。私だって……そこまで優秀じゃないのよ……。
◆夕食後
「とりあえず分かっているのは、犯人?はラヴィに乗り移れることと、頂上で会ったヤバい奴は犯人が従えてるって事だけかしら。」
ミシューが頭がごっちゃになってきたと言い出したので、紙に色々情報をまとめた。
「ラヴィの呪いは犯人がかけたものなのかのぅ。それかヤバい奴とやらが持ってる付属性なのか……。」
「それはまだ分からないのよねぇ…。」
「……あのさ、」
優香が私達が考え込んでいる時に初めて口を開いた。
「「ん?」」
「情報少なすぎない…?」
「……それは…言っちゃだめなやつじゃよ。」
「だめよ……ほんとだめ……。」
優香の言葉を聞いた途端にミシューと二人で机に項垂れた。
そうなのよねぇ、ヤバい奴とやらも近付かれた時に気配を感じただけで、姿は見てないしどんな魔法を使うのかすら分からない。
ただ一つだけヤバい奴とやらに思うことは、『二度と会いたくない』ということだけだ。近付かれた時、今まで生きてきた中で1番の恐怖を感じた。
足の指先から頭の頂点まで神経が這うような気持ちの悪い感覚だった。思い出しても吐き気がする。
「……どうするのー!もっかいその山登って会いに行ってみる?」
「「絶対無理!!!!!」」
優香は凄いことを簡単に言ってのける…。
にしても引っかかっているのはこんな事じゃなくて、『だってあなたが巻き込んだんだから』後ろから直接囁かれるように言われたあの甘い声。甘くて、それでいて無機質で冷たい声。
まるで空気のような…。
あの声の主がこの異変の犯人なのかもしれない。聞いた事がある声で、でも思い出せない……いや、思い出したらだめなんだ。いつ、だれといた時に、聞いた声なのか。
ただひとつ分かることは、その記憶はこの世界では無かったという事だけだ。
その記憶を思い出そうと目を瞑ると、聞こえるのはあの甘い声とそれに重なる母の声だった。




