1人目の獲物
ドスンッ
「いっつーーっ!お尻打ったぁぁ…。」
痛みでつぶっていた目を開けるとそこには“異世界”があった。異世界は、緑が多く、だいぶ遠くに見える外国の街並みにあるレンガで出来た家が、たくさん建っていた。でも、あそこに辿り着くには1時間は歩かないと行けない…。
「はぁ、諦めて歩くかー。」
一歩踏み出すとパカラパカラと、馬の足音が聞こえた。
「ねぇ、あんた!」
気の強そうな女の子の声が聞こえる。私はその声が聞こえる方へ振り返る。
「ん?」
「ん?、じゃないわよ。あんたまさか歩いて王都に行くつもり!?頭おかしいんじゃないの!?」
なんだ急に、わけわからん。種族はエルフかな?てか、この子……すっごい美少女なんだけどぉぉぉ!?ふ、ふふふ、今日の獲物はこの子でいいかなぁ。
「なんで?歩いても1時間でしょう?」
「はぁぁ!?歩いたら6時間位かかるっつーの!」
はぁぁ!?確かにそりゃ遠くに見えるけどさ、6時間は盛りすぎだわ。ありゃ?そういや私飛べたんだっけ?馬車に乗せてもらうったって私馬に乗るのとかガタガタ揺れるの無理なのよねー…。
「あー、とりあえず大丈夫。気にしないで、ありがとう、優しいエルフさん。」
必殺の女の子100%落ちる優美な笑顔!!
「へっ!?…ん…ほら…馬車に…乗りなさいよ。」
えーーー!?それは無理無理無理無理。マジでゲロる!100%ゲロる!!
「ごめんなさい…馬車って酔うから嫌いなのよ。」
「え、あ…で、でも6時間も歩くのは無理でしょう?あなた人族でしょう?歩くことしか出来ないじゃない。」
それが吸血鬼なんだよなー。ありゃ?なんで日ガンガンなのにしんどくならないんだろ。私吸血鬼だよね?
グルュルルルルルッ
…お腹鳴った…。何か食べなきゃ。
「ほら、やっぱり何か食べなきゃ、馬車に乗って。」
ううう…。仕方ない…この空腹じゃ飛べないだろう。
ガタンガタンッ
「うっぷ…うぅっ」
案の定酔った。だけどまだ吐いてない!
「あと5分くらいで着くわよー。」
まだ5分もーー!?無理無理無理無理。死ぬ。
5分後
「うぷっっうぐぐっ、食欲…無い…。」
吐きそう。だけどここは私の名誉の為に絶対吐かない。
「そういや貴女の名前は?私はラヴィエ・グリンズ。ラヴィで良いわ。」
「オーケー、ラヴィ。私は…」
これって英名の方が良いの?まぁ、いっか。
「…?どうしたの?」
「あ、ううん。私は結城涼香よ。」
「ユーキ?変わった名前ね。」
あーやっぱそうなるかー。
「あー違う、結城が苗字で、涼香が名前。」
「え!?そんな名前あるの?偽名?」
ムムムッと、色々疑ってくる。めんどくさいわ。
「こうなるから言いたくなかったのよ…。」
はぁ、と大きな溜息をつくとラヴィは驚き、焦り始めた。
「ちっ、ち、違うのよ!変わった名前だからつい勘ぐってしまったの!ごめんなさいっ!」
焦り過ぎでしょ。笑える。
「ふふっ、そんな焦らなくても…。そんな顔しないで。怯えた子猫みたいで食べたくなるわ。」
これは軽いジョークなのだが、そうは思えなかったみたいだ。
「え、あ…、食べたい…の?」
潤んだ瞳に火照った頬。本気で食べたい。勿論性的に。
グゥゥゥゥゥッ
…マジかよ。今の絶対ヤれてたよね。まぁ、また今度にしよう。
「ご飯…食べに行こうか。」
あれ?そういや私金持ってたっけ。ど、どうしよう。ア、アルヴァちゃぁぁぁんっ!!
(はい?どうしたんだい?何か問題あったの?)
え!?幻聴!?
(違うよ、呼んだら繋がるようにしといただろ!)
あ、あー、そうだったね。問題があってね。
(なんだ?)
お金どうしようかと思ってさ。救済ポイント使ってお金貰えないかな?
(あー、いけるよ。救済ポイント1ポイントで1万円だよ。どのくらいいる?)
とりあえず70ポイント使って70万貰えるかな?
(と、とりあえず!?ま、まぁ、良いけど。)
ありがとう。魔法ってどう使うのかな?
(あ、思い浮かべれば良いんだよ。)
雑だなー。空間収納スペースって感じでー。
ポワッ
うわ、でた。
(入れとくねー。)
ありがとう。
(そろそろお暇させていただくね!浮気はぶっ殺すからねー。僕以外にデレデレしないことだね。)
う、うん。じゃね。
「…か、…涼香!」
「っ!?ど、どうしたの?」
びっくりした。
「どうしたの、はこっちの台詞よ!ボーッとして!」
ジロリと少しつった目で睨んでくる。
「ごめんごめん。食べるとこはここで良いかな?」
「はぁ、うん。」
ガチャ チリンチリンッ
いらっしゃいませ。という声とともに現れたのは美少女!…ではなく優しそうなおばさんだった。席に座ってメニューを見る。字も読めるようだ。アルヴァちゃん、良い嫁になるなぁ。
「これで良いかな?」
「うん。」
「すみませーん。」
トコトコとおばさんが来る。
「何食べるんだい?」
「これ、2つお願いします。」
「はいよー。」
またトコトコと歩いていく。
「ていうか涼香さ、どっから来たの。職業は?」
「んー、旅人してます。」
咄嗟に思いついた嘘を口に出す。
「人族なんて、すぐ死んじゃうんじゃ無いの?」
…私今は人じゃ無いけど昔の私を非難されてるみたいでちょっとイラッとする。
「そうかなぁ、私ラヴィに勝てると思う。ていうか多分、誰にも負けないよ。」
挑発してみる。でも多分本当のことだ。あんなチートみたいなものを使われると誰でも怯える。勿論自分でも少し怖い。
「は?何言ってんの。人族馬鹿にしたのは悪かったけどさ、人族が私に勝てるわけないでしょ。私昔姫の護衛を出来るくらいの腕よ。舐められたら困るわ。」
ゴトッゴトッ
「お待たせしたねぇ。」
「ありがとうございます。」
「…」
「いただきます。ラヴィ、食べないの?」
「え…あ、うん。いただきます。」
鳥?を焼いて、細く切ったものをパンに挟んでいる、食べ物なのだが、とても美味しい。
「美味しいねこれ。どうやって作ってるんだろ。」
モグモグ
「…う、うん、そうだね。」
気まずそうに目を背ける。そんな気使わなくても。
「ごちそうさまでした。美味しかったー!」
おばさんに私とラヴィの分のお金をはらった。ラヴィは焦っていたけど。
お腹いっぱ…ん?全然膨れないんだけど…。
「どうしたの?」
心配そうに覗き込んでくる。やっぱ綺麗なかおたちだな。食べたい。お腹空いた。早く。
「食べたい…。」
「へ?今食べたじゃん。」
「お腹…空いた…。」
「ええっ!?」
身体が熱い。これは…多分凄くやばい。離れないと。重い身体を頑張って動かして、人気の無い路地裏に入る。
「はぁ…はぁ、はぁ。アルヴァ…ちゃん。」
「やっぱり、吸血衝動が出てるね。」
「涼香ぁーー!?どこー!?」
「…!浮気してたんだ…、説教はまた後で、こっちに来て。」
アルヴァちゃんが、私の手を強く引っ張る。路地裏の奥に進んでいく。
「お腹…空いた。」
熱い身体と口の中が変な気分にさせた。私は思い切りアルヴァちゃんの首筋に背後から噛み付いた。
「…っあ…ひ…っっ…あんっ」
「ん…ごきゅ…こくっ…こくっ…」
「はぁ…吸血衝動に駆られたら目が真っ赤に…んぁっん…なるんだね…。牙も…凄ぉい…んっ!」
「アルヴァ…んっ…アルヴァ…ごくんっ…こくっ」
「僕…気持ち良くて…おかしく…なり…そぉ…。」
「ん…ぷはぁ、はぁ、お腹いっぱい…。」
「…んっ」
アルヴァちゃんはキス顔で私に迫ってくる。可愛いなぁ、もぅ。
「はむっ、ちゅっ…」
「ん…んん!?」
アルヴァちゃんの少し開いた口から舌をねじ込む。路地裏にはくちゅくちゅとねちっこい水音が響く。
「…ふぁっ、ごちそう様。」
「はぁ…血の味がする…。」
神さまの血も人間と一緒みたいだ。でも、私の味覚が変わったのか、とっても甘く感じた。
「おいしかったぁ。」
「はいは…」
「涼香!」
…ボシュンッ
天使って、テレポートも使えんだ。
「あ、ラヴィ…。ごめんね、勝手にどっか行っちゃって。」
「本当によ!心配したんだから!」
「あっはは…ごめんなさいね…。」
「そういやお腹まだ空いてるの?」
あ、そうだった…やばいな。
「もう大丈夫。ありがとうね。」
「そう?変なの。まぁ、良いんだけど…。」
アルヴァちゃんの血美味しかったなぁ。また飲みたいな。
「ラヴィ、暗くならないうちに宿探しに行こうか。」
今日は疲れた。早く休みたい。