2人と1人、あの時の寂しさは覚えている。
「...かっ...は...はぁ...はぁ...喉...乾いた...。」
夜、風も強くなり、雪がこれでもかと飛び散り、視界が真っ白になるほどの強い吹雪が山を荒らす。
私は今、その雪山の木の傍で崩れ落ちている。幸い、暖かさと、刺激を防ぐ膜を張る魔力はあるものの、血が無さ過ぎて、死にそうなくらいだ。
どうしてこんなとこにいるのか、と言うと、とりあえずやばかったから逃げてきた。と言うしかない。
喉が渇いて、水を渡されても喉の乾きが治まらないとか怪しまれるから、膜を張ったテントの中に2人を置いて、私は遠くに来たわけだ。
「本当に...なによ...アルヴァちゃん...どうしちゃったのよ...。」
こんなに吸血欲が出ていても、珍しくアルヴァちゃんは駆けつけてこない。まぁ、天使だから忙しいものね。しょーがないわよ。ここで死んでもしょーがない。
「...不老...不死なの...に...どうやって...死ぬのよ...。あ...自殺って...あったやつ...なのかな...。今...使ったら...楽になれるかしら...。いや...だめよ...。」
なんか、いい能力ないかしら?
そう思っただけで、頭に文字が沢山浮かんでくる。
「.....は...ぁ...はぁはぁ...100個くらいあるから...分かんない...わよ...。」
一つだけ目に止まった能力があった。
『魅了』
どういう能力なのかしら。
▷対象を範囲を決めて魅了できる。魅了した相手に自分への恋愛的愛を脳に植え付ける。解除することも可能。(その場合は魅了をされていた時の記憶を抹消することも可能である)
「...はぁ...こんなの...目に付いても...だれにつかうの...よ。」
「...動物の血って...飲めるのかな...。」
▷赤い血液をもつ生命体の血液は全て吸血鬼に効果があります。(ただし聖水を含んだ血液は体に悪影響を及ぼします)
「...はぁ...ぁはぁ...便利...だわ...っ。...ふーっ...『感知』。」
頭に真っ白なマップが映し出される。そこに何百もの生命が真っ赤な点として映る。
「人も...い...る?」
端の方に、人の形をした2つの点があった。この人たちにしよう。あなた達、ごめんなさい。
「...はぁ.....『転移』...。」
ズルリと空間が歪んでから、焚き火をして、暖を取る2人の女性の目の前に移動する。ここは割と風は吹いていないんだ。
わぁ、凄い。100キロもの距離をこんな一瞬で。
「...!?誰だっ!!」
直ぐに、剣を構え私に向ける。
「ごめんなさい...はぁ...はぁ...少しだけ...ここで...。」
「.....だ...大丈夫...ですか?体調が...悪そうですが...?」
「...ごめんなさい。『魅了』」
2人の体がガクンと揺れた後、2人は顔を紅潮させながら、私の体をぬるりと触る。
「はぁぁ涼香様ぁ♡」
...うぅ、時間があれば落とせたんだけど、ごめんなさい、美人さん2組。
「は...んっ」
ぷつりと首筋に牙を差し込む。熱い血液がとろりと溢れる。
「やぁっはぁぁぁぁんっ!気持ちぃぃよォぉーっ!」
狂ったように甘ったるい声を出し、腰を軽く振る。
「...ごくっ...ごくっ...。」
さてと、これぐらいにしとこう。吸いすぎたら死んでしまう。
「そっちの君も、おいで。」
「はいっ♡」
私の首に手を回し、白い首筋を見せ付けるように首を傾ける。大して興奮も、欲求もない。ただ、渇きを癒すだけのために、牙を差し込んで、血を飲む。
「...ぷぁ。」
「「涼香様ぁぁ♡」」
「魅了解除。ごめんなさい、二人とも、寝ててね。」
ガクンと体から力を抜いて、柔らかい雪の上に倒れ込む。ごめんなさい。
「『転移』」
ふっ、とまた先程の吹雪の吹き荒れる地に戻る。
「さてと...戻るか。」
ラヴィと真神竜様が待ってるしね。
ん?あの子達の血の味?んーとね、ざっくり言うとだなぁ...美味しくなかった。なんか味が薄かった。アルヴァちゃんの血みたいな濃厚で濃い味じゃなかった。もう一度飲みたいとは思わないし、ていうか、もう飲みたくないって感じ。向こうはさぞかし気持ちよかったんだろうけど、こっちは美味しくなかったし、アルヴァちゃんの時のように興奮もしなかった。アルヴァちゃんとの吸血はWINWINな感じなんだけどな。
「涼香、良かった!遅かったから心配してたのよ!」
帰った直ぐに、ラヴィがとてとてと寄ってきて、腕を広げると、ボスっと抱きついてくる。あぁ可愛い。
「ごめんね。心配してくれたの?嬉しいわね。」
頬に手を這わせ、ラヴィが目を瞑ったのを確認して、フレンチキスをしたあと、ゆったりとディープに持ち込む。
はぁ、気持ちいい。吸血の時の物足りなさと言ったらもう。
「なっなっなっ何をしとるんじゃっ!!ずるい!いつもラヴィだけ!ずるいんじゃよ!」
そう言って、小走りに真神竜様が近づいてくる。
「して欲しいならそう言えばいいのよ。ほら、オネダリしなさい。」
「ふぇ?」
「あら、出来ないの?」
「っ...き...キス...してください...。」
真っ赤な顔でそう言って唇を不器用に突き出す。
もう、角まで真っ赤になってるわ。可愛い。
「ん...。」
「っ〜〜!?ふっ...んん...は...ん」
そういえば、真神竜様とキスするのは初めてねいつもはアルヴァちゃんが止めてたから。
アルヴァちゃん、いいの?私キスしちゃってるわよ?
忙しいのか知らないけど、アルヴァちゃんがいいなら別に私も好きにさせてもらうけどね。
「はぁん...りょ...かぁ...。」
「...なによ...。」
「え?」
「...私を恋しがらせるなんて...いい度胸じゃない。」
「???」
「んっ...はぁ...ほら、ラヴィもそんな所で見てないで、おいで。」
「...みんなでするの?」
「そ、そうなのか?」
「2人は、嫌なの?」
「「いや(よ)(じゃ)」」
わぁー息ぴったりー。
「私だけを愛して欲しいのよ。」
「同感じゃ。涼香にはわしだけを愛してほしい。」
「...。」
「...今の涼香、なんか変よ。いつもの余裕が無いっていうか...。」
「...暗い顔をしておる。今は、その...そういうことは...せんよ。」
余裕が無い?暗い顔してる?なによそれ。
...あー、分かったわ。私、寂しいのね。アルヴァちゃんがいないから。はぁ、虚無感が凄いもの。ポッカリ穴が空いた感じがする。
「そう...ね。私、努力してみるわ。」
「「なにを?」」
「気長に待つのを。」
「...私達も...一緒に待ってあげる。」
「...うむ。誰を待っておるのかは知らんがお供しよう。何せわしは涼香をあいしとるんじゃからな。」
「はぁ?私の方が愛してるから。やめてくれるそう言うの。私の涼香に媚売らないで、ウザイ。」
「わしの愛は涼香にしか売らんわ。わしの愛を知らんからそんなことをほざけるんじゃろうが。」
「知りたくもないわよあんたの愛なんて。せっかく2人で旅をしてたのに、あんたが加わってから目の前で好きな人がキスしてるの見て。心身ともに崩壊しそうよ。今すぐ怒りを噴火させてあんたを封印してやろうか。」
「うるさい死ね。貴様如きがわしを封印?はん、馬鹿なことを。2000年経っても無理じゃろ、はっ。」
「はぁぁ?何こいつムカつくわァ。その角折んぞこのタコ。」
...ちょっとまって、どっからそんな言葉覚えてくるのよ。タコとか、使うのね...この世界ってタコあるのかしら...?てか、真神竜様めっちゃ煽るわね。ていうか、二人とも美人すぎるくらいの顔がめちゃくちゃ怖くなってますけど、大丈夫ですか?
「二人共。」
「「な(に?)んじゃ?」」
「可愛いね。そんなに私の事好き?」
ニヤリ、と先程の煽る時の真神竜様の笑い方を真似してみる。
「.....しゅき...です。」
「え?なんですきじゃなくてしゅきなの?どうしたのラヴィ。」
顔を真っ赤にしている。目がほんとにやばい。なんかよくわからんけどガチなやつやん。
「...は...わ...わ...わ...わ...。」
「...ま、真神竜様?顔真っ赤よ?大丈夫?目クルクルしてるけど大丈夫?」
こっちもやばそう。二人ともほんとにどうしたの。
「「涼香のその笑顔可愛い!!」」
そう言って、私に飛びついてくるラヴィと真神竜様。
「私、二人とも好きよ。二人がいないと私、すごく寂しい。」
「私もよ...。私は涼香だけが好き。」
「わしもじゃ。わしも涼香だけが好きじゃ。」
そう言って、私を含めた3人で抱き合って眠った。
何となくは気付いていたんだ。ただ、逃げていただけで、今までのこと見返したらすぐに分かることだ。行動も、笑い方も、私を抱く力や形も。それに、私のことを好き、という時にする仕草や、全部が全部優しさで包まれてる。私は好きだ。みんなの事が。そして、彼女の事が。
私は寝る前に目を瞑って静かに願った。彼女の父らしい神とやらに。そう、
『早くアルヴァちゃんに会いたい』と。