※アルヴァ目線 ~今でも貴女を一番に愛しています。~
今回はアルヴァ目線の物語になります。
アルヴァの回想なので、メンディーな感じな方は、最後に次の物語に繋がる話があるので、飛ばして最後だけお読みください。
私はアルヴァ・リファード・ウィルズリーン。ウィルズリーンって言うのは、私の住んでいる天界の長の苗字で、私はその幼子、いわゆる天使というやつだ。まぁ、天使になる前にも私の人生はあるんだけど。
前に生きていた頃の私の名前は長谷川 鳴だった。
あの時の私は、母がドイツ人で、父が日本人のハーフだった。
日本人離れした派手な白金色の長い髪の毛が特徴的な少女だった。
小学生の頃から、奇怪な目で見られ、誰も私に近付こうとはしなかった。
中学に上がって、男の目線が気持ち悪く、いやらしいものに変わってきたのはすぐに分かった。男から告白されたり、よく話しかけられたり、触られたりすることもあった。
その全てが気持ち悪くて、もう嫌だ、と思った矢先に、中学一年生の時の30代半ばの担任から放課後、理科準備室に呼び出された。その時私は、無防備で、汚いことを何も知らない子供だった。
呼び出された事に少しの違和感を感じながらも、先生の言うことだと思い、抵抗なく、準備室に入った。
「あぁ、ごめんな。呼び出しちまって。」
そう言って、先生は頭を掻きながら瞳孔が大きく開いた目で、ギョロリと私を見下ろした。
その視線にゾクリと寒気がしたのはよく覚えている。
「い...いえ、なにか用事でしたか...?」
話しかけるときには抵抗を感じたが、先生だからと、先生という職業に勝手な安心感を覚えていた。
「あぁ、そうだよ。た〜いせつな用事だよぉ。」
低くて粘着質な声を聞いて今更危機感が走った。そんな危機感を感じている間に先生が手を伸ばし、私のシャツのボタンをプツリと、外した。
「やっ...!」
本当にこのままではダメだと思い、死ぬ思いで先生の手を払い、出口へ走った。
...だが、到底中学生と大人。女と男。力や速さでかなう訳もなく、あっさりと捕まってしまった。
掴まれた腕から、身の毛がよだつような感覚が体全体を蝕んだ。
暴れても暴れても、助けてと叫ぼうとしても、全てあの大きな体に取り押さえられ、呆気なく服を全て脱がせられ、口には棚にあった茶色のガムテープが二重にして乱暴にくっつけられた。
私はもう、諦めて、だらりと体の力を抜いた。
それを見た先生は見たことも無い気持ちの悪い笑みを浮かべた。
ガチャガチャッ!
鍵をかけられたドアノブが、左右に回った。
「...んー?開かない...。でも物音はしたんだけど。」
諦めていたこの状態に一筋の希望が出来た。
チラリと先生の顔を見ると真っ青になり、瞳を泳がしていた。
...あぁ、この人はこういう事をするのに慣れていないんだ。
私は静かに息を整え、力を振り絞るために大きく鼻から息を吸った。
「誰かいますかー!」
綺麗な声がドアのせいでくぐもった声になる。ドアを開けてこの人の声を聞きたい。
そう考えてから、私はピタリと息をとめ、
「ん゛ーーーーーー!!!」
その希望へと、精一杯手を伸ばした。
先生は焦って、私の鼻をごつい手で、塞いだ。息ができない。早く。早く助けて。
ガン...!ガンッ!!
「うらぁぁぁぁぁ!!」
がたっガガっ.......ガン!!
ガァァァン!
金属の重い音がして、壊れた鍵の部品がカチンっと床に落ちた。
その先に見えたのは、綺麗な声に見合った、今まで見たこともないような綺麗な少女だった。真っ黒な髪に、気の強そうな色素の薄い茶色の瞳、一番に目に入ってきた高い背丈、その全てがが、凄く愛おしく思えた。
その少女の両手には、赤い消化器があり、べこりと角がへっこんでいた。
その消化器を大きな音を立て、落としてからドアの近くにあった鉄製の顕微鏡を両手に持ち、ゆらりゆらりとこちらに歩いてきた。少女の両手にある顕微鏡は人を殺す目的で応用すれば、一撃でも殺せてしまうもので、私にはその少女が、どんな使い方をするのかは分からなかったが、ただただ私はその少女の姿にくぎ付けになっていた。
「ちょ、待て待て、これは実験を...!」
「へぇ、先生って生徒を使って実験するんだ。それ犯罪だってこと知ってる?えーと...なんだっけな...淫行...?だっけなぁ。」
ブツブツと呟きながら尻もちをつき、尿と涙を流した先生の前でピタリと止まった。
「...待って...待ってくれ...。」
そうして、大きく顕微鏡を振りかぶりーーー
「ちょっと!!すごい音が聞こえたけ...ど...。」
ドタドタと走ってきた教頭先生は準備室の中を見た途端絶句した。
そりゃあ、下着姿で、口をガムテープで塞がれた少女に、尻もちをつき、ありとあらゆる体液を垂れ流した男性教員と、その教員の目の前で、顕微鏡を振りかぶった少女がいるので、何がなんなのか分からなくなるのも仕方が無いことなのだ。まぁ、壊れたドアと、涙を流している私を見れば、何となくは想像出来るだろうけど。
その後といえば、逮捕だのなんだの、慰謝料だのなんだの説明すると気が滅入るので、やめておくが、それが彼女、結城 涼香との出会いだった。
我ながらなんとも奇妙な出会いだと思う。
まぁ、それからは涼香と友達として2年半、恋人として2日、いい思い出がたくさんあった。
一番嬉しかったのは、やっぱり涼香が私に告白してくれた時。自信なさげな顔で、今まで見たことない、泣きそうな顔で...いや、半分泣いてたね、そんな顔で私のことを好きだって言ってくれて、もう死んでもいいってくらいに嬉しかった。
...まぁ、その次の日にほんとに死んじゃうんだけども。
ALSを伴って、もうダメだって思い込んでたのに、涼香の事を助けるために最後の最後に右足が動いたんだ。もう本当にあの時はホッとしたなぁ。
その後、気付いたら真っ白な部屋に一人で座ってて、目の前には真っ白な姿のリディ姉さんがいたんだよね。もうびっくりしたよ。天使にならないかって言われて、なってみたら超快適な生活に美味しい食事、ALSなんて嘘だったかのように軽く動く足。それになにより、リング世界で暮らす涼香の事を天界から見れること。まぁ、忙しくってあまり見れなかったんだけど、涼香がどんどんスケコマシの女たらしに変化していくところなんてもうイライラしまくったのは覚えてる。まぁ、そんな合間合間にも私の墓参りや、写真を眺めながら涙を流す涼香を見てると馬鹿みたいにイライラはするりとほどけていった。
天界では437年生きた。リング世界では9年生きたことになる。
そんな時、死亡者リストに涼香の名前が写った。死因を調べると、なんとも私とよく似た死に方をしていた。死ぬのは早すぎるって思ったものの、凄く嬉しくて、ドキドキしてた。
涼香にはバレないように一人称を僕にかえて、喋り方をチャラけさせてみた。できるだけ、長谷川 鳴から遠ざけるために。でもまぁ、一人称はともかく涼香にキスをされた事から喋り方は戻っちゃったんだけど、やっぱり気づいてはくれなかった。
...あれ?いや、気づかなかった...だよね。
もしかしたら、どこかで私が鳴だって気づいて欲しかったのかも知れない...。
まぁ、そんな出来事からやっぱり涼香は人を沢山助けられる人なんだってことが分かった。ポイントが凄くて、何故か記憶が消せないから、なにか特別な人なんだって思うと自分の事のように誇らしくなった。
異世界では、涼香は人を殺めてしまって苦しそうにしてたけど、ラヴィってやつに...まぁ、助けさせてやった。私でも助けられたもん。涼香は私のだし。
最近は真竜神っていう超上級の神族に涼香の能力をかわれて、涼香はすっごく懐かれてる。
...めっちゃムカつく。てか涼香恋人が居ないからって他の女と遊びすぎじゃない!?
前世では涼香はもっと純粋で、一途だったのに、今ではあんなにも女たらしの馬鹿野郎になっててびっくりした。...それでも好きだからしょうがないんだけど。...てかもともと涼香は私のものだし。ちゃんと...もう一度私のものにするために、教育的指導をしないと...ふふふ...。
そう言えば涼香にファーストキスは誰としたのって聞いたら私って言われてびっくりした。なんで私!?って思ったけど、私が知らない内に寝込みを襲われてたらしい...。
正直に言ったら嬉しかった。まぁ、その後、その嬉しさも吹き飛ぶような驚く情報が入ってきたんだけど。
...んー、まさかあのなっちゃんがねーー。大人になったなぁ。...なっちゃんずるいなぁ。
.....てかなっちゃん今何してるんだろう。涼香が死んじゃって泣きわめいてないかな、大丈夫かな...。
まぁ、この後見てあげよう。
...その前にこの溜まった死亡者リストの整理と各天使への担当に分けなきゃいけないわけで。
ペラリ...
「えーと、この子は...結城.....夏香...?..嘘でしょ...なっちゃん...?」
あぁ、また私の元に不幸が舞い降りました...。
正直言って、面倒臭い。これ以上私のライバル増えないでぇ...。どうか、なっちゃんが涼香みたいに記憶を消せない人間じゃありませんように。
あぁ...こんな事を思ってしまうなんて天使失格だなぁ。...お許しください、我が父マークス・ウィルズリー様...でも許せ、私は父さんより涼香のほうが好きだ。
『...酷い...ぐすん...。』
お茶目な父のセリフに似合わぬ神々しい声が響いた。
お読みいただきありがとうございます!
今回は鳴と涼香の出会いどんなんにしよう...と、凄く悩みました笑笑もう物語作る前にそこら辺も決めておいたら良かったんですがね...。この後の話でその出会いに噛み合わない文が出てきたら、教えて貰えると嬉しいです!
まだまだ続きますが、これからもよろしくお願いします。