愛してる、すごく。
私は今、賑やかな店が立ち並ぶらしい大通りを歩いています。
賑やかな店が……賑やかな……
静まり返った店にぎゅうぎゅうになるまで詰めたヒューマンや獣人達が恐怖を含んだ目でこちらを見ている。
「……どうしたのこれ。」
「…魔力よ。この嫁嫁テロ馬鹿から漏れでる魔力量にみんなビビってるのよ。」
「誰が嫁嫁テロ馬鹿じゃ!」
嫁嫁テロリスト……ではなく真神竜様が大声で怒鳴る。
それを聞いた村人達がヒィィィと腰をぬかしたり、十字架を握り締め祈ったり、気絶したりと大通りは大混乱。
「……あのー!」
私が声をかけても、ヒィィィと腰を(以下略)
「……こいつら、涼香の声を聞いて叫ぶとか…殺す。」
「失礼に値するとは思わぬか…無礼者が…。」
2人して物騒な顔つきになり、次々と気絶していく。
「こらこらやめなさい。」
全くこの子達は。
……さてと、
「聞いてください!私達は貴方方に危害を加える気はありません!ここが賑やかで楽しい街だと聞いてやって来たのです!私達はただ観光をしたいだけなのです!よければ、いや、できれば皆様が触れている刀や魔力を収めて貰えませんか?そして、噂通りの明るく賑やかな街を観光してみたいのです!」
すると、恐る恐ると言った様子でぎゅうぎゅうに詰めた店の中からガタイの良い熊の獣人が出てきた。
「ほ、本当に私達に危害を加えたりしないのだろうか?」
まだ不安なのだろう。曇った顔で真っ直ぐに私達を見る。
「はい。信じて下さい。」
「……分かりました。おいみんなー!いつも通り店を開け!この方達は信頼に値する!」
その言葉を聞いた途端、ぎこちないが、街の人達はみんな店をきちんと経営し始めた。
「真神竜様、魔力しまって。」
「じゃ、じゃがのぅそれでは真神竜としての威厳が……」
「どうでもいいから早くしまいなさい。」
「ぴぃっ!」
少し怖い顔をしただけなのに、どったんばったんと効果音がつきそうなほど焦りながら魔力を内にしまっていく。
モジモジと美女が指先をクリクリしてるのは可愛いが人様に迷惑はかけてはいけない。私にならどんとこいや。
(おい。)
あっアルヴァちゃん……いや…その……。
「こっ、これでいいかのぉ……。」
真っ青な顔をしてチロリとこちらを気にする。
「えぇ。素直に聞いてくれてありがとう。」
そう言ってさらさらの黒髪を手でときながら、ずっと触ってみたかった、ツルリとした角をしごく。
「やっ……あっん……ふぁっぁあぁ……!」
真っ赤な顔をして涙目になりながらビクビクと痙攣を起こす真神竜様。
「えぇ……。角…弱いの?」
そう言ってもう一度角の先からするりと指先を滑らすと、角がじんわりと湿ってきたのが分かった。
「はぁっ……はっ……ん…。」
……ゴクリ。
美女が顔を真っ赤にして涙目で見上げるとか……なにそれ、どエロい……。
「先っぽが…いいのね。」
「(死ね)」
ラヴィとアルヴァちゃんの声が重なって聞こえた後、心臓の停止と頬の痛みと脳の揺れがトリプルマッチして…………もう無理。
「ん……。」
気を失ったのか、体を起こし目を開けると、どこをみても真っ白。
…………デジャブ。
「りょーか。おはよ。」
アルヴァちゃんはそういって、私よりも高い位置で、王座のような椅子に座り、脚を組んでいる。アルヴァちゃんはにっこりしている。
だけど……笑ってるけど笑っていない。声のトーンが低いし……。
「お、おはよ~…アルヴァちゃん……。」
「……ねぇりょーかっ。」
「……ひゃ…ひゃい。」
「涼香はさぁ、」
「……ゴクリ。」
「死にたいの?」
満面の笑みが一瞬で消え失せ、ゾッとするようなほど真顔でこちらを見下ろしている。
「そ……そんな訳……あははは……。」
「……」
「ごめんなさい。」
1秒も無かった沈黙がここまで怖いとは思わなかった。真顔で見下ろされたままの沈黙がここまで怖いとは今まで生きてきて一度も感じたことが無かった。
……いや。一回だけあった。
私が学生の頃、階段から落ちた時、大丈夫だってー!とかいって保健室行かなかった時に鳴がこんな顔してた……。ずっと黙ってて、その恐怖に耐えられなくなって、怪我人だけど、ダッシュで保健室向かったんだっけ。あれは怖かった……。
「……あ、あのアルヴァちゃん?」
「……」
「…お、怒んないでよう。」
「……。」
「……アルヴァちゃん〜~!」
「涼香は……」
やっと喋ってくれた!
「ん?」
「長谷川 鳴が死んだ後、何人の人達とシたの?」
「……え?」
急になに。
「……長谷川 鳴が死んだ後、初めてのキスはいつしたの?誰としたの?」
なんでこんなこと聞いてくるの。なんなの。
「……アルヴァちゃんには関係ないじゃん。」
「関係ないわけ……!」
「!」
「……っ。」
こんなアルヴァちゃんはじめて見た。どうしたんだろう。でも、こんな顔されたら……。
「……ファーストキスは…鳴だよ。」
「……へ?」
「だから……ファーストキスは鳴なの!」
「……????」
「…寝込み…襲ったのよ…。」
「……!?」
ブワッとアルヴァちゃんが顔を真っ赤にする。
……なんでアルヴァちゃんが赤くなるのよ。
「アルヴァちゃんって照れ性よね……。」
「……っっるさい!」
「……で、なんだっけ?初めての人?」
「……っ!」
こくん、と小さく頷く。
「初めての人は……これ言うのかぁ…。」
「……言って。知らない人でもいいの。」
「……結城 夏香。」
「……は?」
「はぁぁぁぁぁ…。だから駄目なんだって。」
「なっなんでなっちゃ…夏香って妹だよね!?」
「……え?う、うん。」
今、なっちゃんって……?
「……いいいいい妹とシたの!?」
目を大きく開けて、王座みたいな所から身を乗り出す。
「……なんか……ずっと好き…だったらしくて。鳴が死んだ後、ボロボロになった私を優しく抱いてくれて…。」
「……。」
ポカーンと口を開けたまま閉じれていないアルヴァちゃん。
ま、まぁそりゃまぁ妹とシたっていうのはちょっとっていうかだいぶやばいよね。
「……で、でもまぁ…知らない女より……マシかな…。」
……ボソボソと顎に手を当てて呟くアルヴァちゃん。
「……どうしたの?」
「んーん!何でも!」
「そう?」
「それより、そろそろ吸血する?」
急にズルリと肩を露出してくるアルヴァちゃん。
それを見た瞬間、体がゾクリとして、熱くなった。
「……ずるいわよ。」
そういって、王座みたいな所から高くジャンプして、軽く着地したアルヴァちゃんに、飛びつく。
「ひゃっ!あ……んん…は……ぁ。」
ヌルリとアルヴァちゃんの白い首筋に舌を話這わす。
それだけで、アルヴァちゃんは体をビクビクさせながら甘い声で喘ぐ。
あぁ……もうたまんない。
「……はっんっ!」
ぐちゅ、と牙が肉に侵入していく。牙が肉に擦れ、感覚がダイレクトに歯茎に伝わり、ゾクゾクする。
そんな感触を味わっていると、ドプ…と赤くて甘い液体が私の口の中を支配する。
「……あぁぁぁっ!はっ…はっ…やっんん…」
「……ごく……くちゅ…ごきゅん…ごきゅん……」
甘くて美味しい。足りなくて、ジュっと吸う。
「あぅっ……!」
「……ごぷ…んん…はぁっ…はぁっ……。」
やばい、美味しいし、満たされるし、めちゃくちゃ気持ちいい。
「……はぁ…りょ…かぁ……ぁ。」
「……はぁ…はぁ……アルヴァちゃん、ご馳走様。」
そういって、一度口元についた血を舐めとってから、アルヴァちゃんの額や鼻、唇に触れるだけのキスをする。
「……涼香。愛してるよ、すごく。」
そういって、アルヴァちゃんの方からもう一度私にキスをした。
その『愛してる』は、いつもの『愛してる』とは重みが違うことが分かった。
「…私も、愛してる、すごく。」
「……一番は、長谷川 鳴だけど?」
「……だけど。」
そう言うと、アルヴァちゃんはへにゃりと笑い、耳元でこういった。
「一つ、教えてあげる。…私の天使としての年は9歳だよ。」
「……え!?前400何歳とかなんとか!?」
「時空が違うもの。」
そういって、不敵に笑ったアルヴァちゃんを見たあと、私はいつもの場所で目を覚ました。