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僕と朝比奈のデート約束


 「デートをしよう。」


 と僕は向かい側に座っている朝比奈に言うと僅かな沈黙の後、


 「何言ってんのおまえ」


 と、心底呆れたという表情で返され、少し傷ついたので僕は朝比奈をからかう事にした。


 「いやー、僕も朝比奈ハーレムの一員になりたいと思ってねー」

 

 「そんな悪趣味な集団を組織した覚えはない。

 それにおまえがそう言う、性癖の持ち主だったら、今までの友情が壊れるぞ。」


 おー、さすがのツッコミである。

 そして、とんでもない理由で友情崩壊の危機である。

 まあ、そんなコントのようなことをしている僕たちは現在、お昼休みの真っ最中だ。

 高校の昼飯というのは、話の合う奴や部活などのグループに別れてするのがどこの高校にも共通する暗黙のルール、あるいは習慣法みたいなものであろう。

 そして、僕たちもその例に漏れず、話の合う連中で集まり、食事をしているわけではあるが、僕たちのグループがどのような集まりかといえば、先ほどの会話でわかる人もいるだろうが、アニメや漫画、ライトノベルなどのいわゆるオタクの集まりである。

 本来であれば、ここに柚木ゆのきを加えた三人で食事を摂るのがいつもなのではあるが、今日は部活の集まりに行くらしく不在であった。

 最もここ清美高校はアウトドア系の人が多く、インドア系の趣味であるオタク趣味の母体数自体が少ないため、三人で集まれている事がかなり珍しいのではあるらしく、もし、同類、あるいは類似の趣味を見つける事ができなければ、部活関連のグループか、最悪、ボッチ飯もあり得るらしいので、今、このように趣味の話で盛り上がれているのはかなりの幸運といえるだろう。


 逆に同程度の偏差値である小湖高校こここうこうはアウトドア系の人がこっちに多く持って行かれるためインドア系の趣味の人が多いらしいのだが、物静かな人が集中してしまうクラスが一学年に1つか2つあるらしくそこは静かというレベルを通り越して、お通夜みたいな雰囲気であるそうだ。

 そのため、オタクにとってはどちらの高校もお互いにお互いの高校が羨ましく見えるらしい。まあ、要はお互いがお互いに隣の芝生は青く見えているのである。

 さて、我らが友情を壊さないためにも話を戻そう。


 「心配するな。僕もそんな性癖はもってない。

 ただ、先週の日曜日におまえと栗原くりはら先輩とデートを見ただけだ。」


 「なんで見てんだよ‼」


 朝比奈が珍しく取り乱していた。

 普段から僕にツッコむ時や場を盛り上げる時はオーバーリアクションをしてくれる奴なのではあるが、朝比奈は基本、感情をあまり顔に出さないタイプである。そういう意味では本当に驚いているのだろう。


 「たまたまだよ。」


 「本当かよ。」


 と言ってじーと睨みつけてくる。やめろ、男がやっても鬱陶しいだけだ。

 それに先週の日曜日にたまたま見たというのは事実である。


 「そんなことより、せいじ、昼飯はどうした?」


 話を変えられた・・・

 まあ、僕の弁当がないため、朝比奈が弁当を食べるのを待ってくれているので文句はいえないが・・・


 「高城たかぎから朝、弁当をもらい忘れてな。」


 高城暁たかぎあきらは僕の幼馴染である。名字の漢字が同じであるため、よく、血縁者と勘違いされるのであるが全くそんなことはなく、小学校からの縁があるというだけだ。

 そして、僕は暁に、学校のある日は弁当を作ってもらっているのである。

 これだけ言ってしまうと、片恋の女の子が毎日、僕のためにお弁当を作ってくれている。なんていう、幻想を持つ人もいるかも知れないが、現実はそんなに甘くない。

 実際は、暁は中学のメンバーでバンドを組んでいるのではあるが、将来は料理人になりたいらしいので、その味見役を僕や同じバンドメンバー、暁のファン、いや、暁を慕う後輩がしているというわけだ。

 最も現在では味見役も5人を超えており、逆に高城たかぎ家の家計を圧迫していないか心配なのではあるが、どうやら、親は暁の行為に協力的らしく予算のことは問題がないそうだ。それに弁当を作る相手の親にも自ら頭を下げていって許可を取っているらしく、まあ、当然のことであり、田舎の市であるから許されている事なのではあろうが、それでも、暁の気合のほどは伺える。

 と、我が幼馴染のひたむきさに感慨に耽っている時である。


 「遅れてすまんな。」


 と言いながら、話題の人物、暁が弁当を片手に隣に立っていた。

 どうやら、4限は体育であったらしい。半袖、長ズボンという姿であった。


 「相変わらず、体操服が恐ろしく似合わねえな。」


 「いきなり、辛辣だな。

 なんだよ、少し遅れたくらいで毒を吐くなよ。」


 と暁は反論するが、


 「違うよ。おまえ美形でイケメンだから体操服が安っぽく見えるんだよ。」


 そう、高城暁という人物は容貌が大変よい。

 そして、これは僕の個人的意見ではあるのだが、美形は男女問わず、学校の体操服が似合わないと思うのである。なんといえば良いのだろうか?体操服の安っぽい部分がより強調されてしまうといえばいいのか。兎に角、服が容姿に負けてしまっていると感じるのだ。

 

 暁は、はー、とため息を吐いた後、「馬鹿じゃねえの」と見下しながら言って、

 「それじゃあ、着替えてくるわ」と教室を出ていった。


 「相変わらず、仲がいいな。」


 朝比奈が呆れたという感じで言って来る。


 「もうちょっと乗ってくれるんだと思ったんだけどな。」


 と肩を竦めながら、弁当を開けると今日はのり弁当であった。


 僕と朝比奈は手を合わせて、「「いただきます」」と言って、食べ始める。


 いつものことながら、美味しい。

 白身のフライはサクサクだし、海苔は一度、醤油に漬けているのか良い塩加減である。

 美味しい、美味しいのではあるが、美味しすぎて困ってしまう。


 暁が味見役に対して、一つ要求している事がある。

 それが、弁当の評価だ。味見役は暁の作った弁当に対して、良い部分と悪い部分それぞれ、200文字程度の感想をメールか、SNSで送るように言われているのである。当然、毎日、弁当を作ってくれているのだ。感想を送るぐらいやぶさかではないのだが・・・。

 最近、僕の舌では暁が作ってくる料理のダメな部分がわからなくなっているのだ。初期の頃は明確に悪い部分や改良点を指摘する事ができたのであるが、最近では、完成度クオリティーが高すぎて、僕の貧相な舌ではすべてに対して美味しいとしか思わなくなっているのだ。

  そのため、見た目がどうだ、もう少し保温できないかだのなかなか無茶な要求ばかりになっている。

 本人曰く、直すべき点はまだまだあるらしいので、わかる人にはわかるのであろうが・・・。

 本当、他の人はどんな感想を暁に送っているのか確かめてみたいものである・・・。

 

 「「ごちそうさま。」」


 今日は何とか改良したら良い所を見つける事が出来た。

 たが、明日の事を考えると憂鬱になってしまう。


 さて、本題に戻ろう。 僕は弁当をしまい、


 「じゃあ、りゅうが栗原先輩とデートしていた件だけど。」


 と切り出すと朝比奈は露骨に目をそらしたが、少しすると観念したのか。

 

 「どこで見たんだよ。」と返ってきた。


 「ラーメン屋に入るところ」と答えると


 そこかー、と言って、机に突っ伏してしまった。


 「全く、そこかー、じゃあねえよ。」


 と言って、僕は机をダン、と叩く。

 そして、朝比奈と栗原先輩とデート風景を思い出す。

 女子とのデートでラーメンはないとは言わないが、普通ダメだろ。しかも、あの店はこってり濃厚で有名ところであり、栗原先輩の服は白が主体であったと記憶している。相性最悪だろ。

 それになんでお前の恰好、パーカーなんだよ。もっとオシャレしろよデートなんだから・・・

 と、今思い出してもふつふつと怒りが湧いてきたので、深く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。


 「で、隆、おまえの感想としてはあのデート良かったと思うか?」


 僕の様子を普通ではないと気づいた朝比奈は少し悩んだ後、


 「普通、普通ぐらいだったと思う・・・。」


 と弱弱しく返ってきた瞬間、自分でも自分の眉間に青筋がたったのを理解した。

 そうかー、人間てこういう時に青筋が立つのかー。

 

 いや、落ち着こう自分、まだ、焦るときじゃないと言い聞かせて、僕は自分の気持ちを落ち着かせる。


 そう、きっと、ラーメン屋に入りたいといったのは栗原先輩である。そうであるなら、確かに朝比奈に非はない。それか、栗原先輩はラーメン好きであり、それで朝比奈は自分の好きなラーメン屋を紹介したのかもしれない。そうであるなら、まあ、服への考慮はできていないが味を優先さしたのかもしれない。


 そうか、そうに違いない、僕は勝手に勘違いをして、理不尽な怒りを朝比奈にぶつけていたのかー、それは反省しなくては・・・。

 まあ、でも念のため確認は取ることにしよう。


 「隆、栗原先輩て、ラーメン好きなの?」


 「多分、普通くらいかな?」


 「隆、なんでラーメンにしたの?」


 「自分の好きな店紹介しようと思って・・・。」


 ダメだった。相手への配慮ができていない・・・。これで普通である。悪い時一体なにやらかしたんだよ。


 いや、待て、待て自分、僕の親友が女子のエスコートが全くできないと決めつけるのは早計だ。

 そう、まだ、僕は栗原先輩とのデートの食事の部分しか聞いていない。もしかしたら、他の部分がとても素敵であったために相対的に見て普通だったのかもしれない・・・。


 そうだ、そうに違いない、それだったら我親友、朝比奈隆盛がモテるのには納得がいく。きっと、若輩者の僕には想像も付かない素敵なデートのエスコートをしたのだろう。


 そうか、そうであるなら、後学のためにもどんなデートをしたのか聞かなくては


 「じゃあ、他はどこで遊んだの?」


 「えーと、午前中はカラオケ行って、午後はボーリング3ゲームしてそこで解散かな?」


 ・・・。


 男子との遊びだったろうか?なんというか、1カ月ぐらい前に僕と朝比奈はこれと全く同じことをしなかっただろうか?

 まさか、これ以前のデートも男友達と遊ぶ感覚で女友達と遊んでいたのではないだろうか?

 悪いとは言わないけれども、たまにはデートらしいデートをしてやれよと思う。

 一応、今までのデートがどのようなものだったか確認してみよう。


 「なー、普段、栗原先輩と遊ぶ時もこんな感じか?」


 「まあ、そんな感じ・・・。」


 なんだろう・・・。未だに一度も話した事がないけれど、栗原先輩がかわいそうに思えるのは僕だけだろうか?

 朝比奈がいい奴なのは僕も三年間、一緒に居るため知っている。しかし、しかしである。流石にもう少し女子に気の使える紳士ジェントリになるべきなのではないだろうか?


 さて、何分たっただろうか?

 我親友のデートスキルの酷さに放心していた僕は立ち直って一番に


 「なあ、隆、今週の日曜日、デートするぞ。」


 と告げた。

 

 「いや、だから、なんで俺と誠がデートすr・・・。」


 取りあえず、朝比奈の意見を目で黙殺する。

 まあ、でも僕もようやく落ち着いたため、詳しい説明をする事にした。


 「いいからするんだよ。

 それに本当にデートするんじゃない。女の子と遊びに行く時のおすすめの場所を周るだけだ。」


 「でも、おまえ彼女いたこと無いじゃん。」


 痛いところを突かれた。

 だが、断言しよう。たとえ、彼女がいない僕でも朝比奈よりはうまく女の子をエスコートする自信はあるし、大概の奴はお前よりうまくデートが出来るのではないだろうか?

 それに、「デート」とは男女が日時を決めて合う事を意味する言葉だ。

 確かに僕には彼女がいた経験はない、しかし、女友達と遊んだ経験ぐらいはあるのだ。そう、それをもってデートとするなら、僕にもデート経験はあると言えよう。そういうことにしておこう・・・。


 「いや、でも女友達と遊んだことぐらいはあるし・・・。」


 と目をそらしながら、言うと、


 「えー、本当かよー。」


 と、得意満面といった感じで返しくる。

 クソー、さっきまで、猫に喰われる前のネズミみたいに縮こまってたくせに急に生き生きしやがって。


 「まー、でも、いいよ。

 じゃあ、日曜日遊ぼうか。」


 と朝比奈が言って、僕と朝比奈のデートは決定したのではあるが、なぜ、朝比奈が僕の我ままに付き合っているみたいな雰囲気になっているのだろう・・・。釈然としない・・・。


 まー、そんなこんなで、僕と朝比奈は日曜日遊ぶことになった。


 


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